【読書日記】「そのハミングは7」

 今年ももう残り僅かということで、早すぎてびっくりですよね。


 今年の年末休みは9連休なのでウキウキです。

「君のセンスで自由に本を買ってきてくれ」という遊びの成果物が数冊あるので、今年の年末は読書三昧だ!





 虹乃 ノラン「そのハミングは7」


 どこかで見たタイトルだなぁ。というのもそのはず、今年の3月頃にスコップレポートを書いていた作品が、カクヨムコン総合エンタメ部門という魔境で受賞されて見事書籍化されました!

 https://kakuyomu.jp/works/16817330668807593253/episodes/16818093073474828522


 しかも、スコップレポートを書いた当時、「なんか起きて書籍化されたりしねえかな~」とか言ってたし。


 いやでも、本当に選考委員の人たちってちゃんと読んでるんですね。この人たちは信頼に値するね(腕組みながら)。




 さて、本作はカクヨム版も含めて今回で2週目になるのですが、1週目の時には気づけなかった、この小説の本当の魅力みたいなものに気づけた気がします。


 前回のスコップレポートのときは、ナチュラルすぎる海外文化の描写や、一文一文から漂う圧倒的なセンスなど、Web小説では読んだことのない雰囲気を正面からくらった結果、語彙力喪失オタクと化してしまいました。


 しかし、この小説の本質的な魅力に言及できていないんじゃなかろうか。と、2週目を読了して思いました。


 これは、読んでいる私自身の心境の変化もあるだろうし、書籍化にあたっての改稿の影響も多分にあると思う。


 本作を読んで感じたのは「変えられるのは自分自身だけである」というメッセージ。


 こう言ってしまうと、すごく突き放した冷たい感じがしてしまうけど、言いたいことはむしろ真逆で、この小説から感じる「変えられるのは自分自身だけである」は最高に暖かくて希望に溢れている。


 この作品を表すような印象的なセリフに「大きな顔して誰かのお荷物になることも必要なんじゃないかな」という一節がある。


 他にも、作中でジャンから「手を貸して欲しいなら素直にそう言えよ」と言われていたりと、助けられる勇気についても言及されている。


 その上で、あえて私が「変えられるのは自分自身だけである」というメッセージを主題として感じたのは、トビーはたくさんの人に助けられて再起したものの、やっぱりそれはトビー自身の力だよな、と感じたから。


 失明という9歳にしては暗すぎる闇にほっぽりだされたトビーはジャンと共に成長していく訳ですけど、そもそもハミィとトビーの二人だけで外に出なければ鍵を拾うことはなかったわけですよね。


 つまり、トビーは外に出る勇気を持っていて、そして鍵を拾うという変化のきっかけを逃さなかった。


 助けられる勇気を持って、きっかけを逃さない。そして、鍵は案外、みんなの近くに落ちているかもしれない。


 「変えられるのは自分自身だけである」というメッセージを、助けられる側の視点から希望を伴って与えられるのはすごく救われる。


 社会人になると、自責と他責という言葉をよく耳にするのですが、自責という言葉の『自』には、少なくとも助けを求めた時に助けてくれる人たちのことは含んでもいいんじゃないかな。


 「あなたの周りにいる人はあなたのお世話をしたいかもしれないわ」というエマのセリフからそんなことを思いました。


 それにしても、助けられるのってめちゃくちゃ勇気がいりますよね。特に私は助けられるのが下手くそな人間なので、トビーくんから教わることは山ほどありそうです。


 呪術回線で五条悟が「俺が救えるのは他人に救われる準備がある奴だけだ」と言ってたのも、本作のメッセージに通ずるものを感じますよね。


 逆に、自分は変えられるけど、他人はどこまで行っても他人で変えることはできない、というのを教えてくれる作品もあったりして例えば、寺地はるな さんの「川のほとりに立つ者は」では困っている人が助けを求めているとは限らないよね、という冷たいながらもリアルな目の前にある人間関係が描かれていました。


 社会派な作品ももちろん読むのですが、やっぱり私は「そのハミングは7」のような世界そのものを愛おしく思えるような作品が好きです。







 とまあ、作品から感じたメッセージの話を長々とさせていただきました。


 最近、自分の中の理想とする良心とか善良さの輪郭が分かってきた感覚があるんですよね。


 これまで、色んな作品――小説以外にも映画や楽曲も含めて――に触れてきて、こういう世界に住みたいな、とかこういう人でありたいな、みたいなことをその都度感じてきて、そして、そのあやふやだった輪郭が「そのハミングは7」を読んで一層はっきりした感じがあります。


 平たく言ってしまえば、こんな小説を死ぬまでに書いてみたいし、書けるような人間になりたいな、という気持ち。


 人間の良い面も醜い面も全て含めて、生を肯定してくれるような、そういう世界観に憧れるんですよね。


 原体験は多分BUMP OF CHICKENの楽曲な気がします。


 そう言えば、本作を読んでいて、BUMP OF CHICKENの「真っ赤な空を見ただろうか」という曲に登場する「あいつの痛みはあいつのもの 分けて貰う手段が解らない」という歌詞を思い出しました。


 なんか、BUMPの曲っていろんな作品に解釈を当てはめられる感じがして楽しいんですよね。「真っ赤な空を見ただろうか」の歌詞を「そのハミングは7」の誰それに当てはめて……みたいなね(キモオタ)。


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