【番外編】2023年面白かった小説ランキング
2023年に読んで面白かった小説をランキング形式で紹介します。読んだというだけで2023年に出版された小説という訳ではないです。
てか、こういうのって年末にやるものなんじゃ……
第一位
杉井 光「世界でいちばん透きとおった物語」
いやあ、流石に今年はこれが一位ですね。冗談抜きでこれまで読んできた小説の中で一番衝撃を受けたギミック。
ミステリーって読めば読むほどパターンが分かってきて、もちろんすごくはあるものの「なるほど! 今回はこのパターンで来たか!」という驚きになっていってしまう。
そんな中、本作はマジで見たことがない初見のトリックで仰天。多分、普段から小説をよく読む人ほど驚く仕掛けだと思う。
「前代未聞の衝撃トリック!」みたいな明らかに誇大広告としか思えない煽り文句が本当に成立してしまう稀有な例。ギミック系の小説やミステリーをよく読む人にこそおすすめです!
第二位
小川 洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」
初めて「こんな文章を書きたい!」と思った作品。これまで、小説の文章表現なんて気にしたことがなかったんですが、この作品を読んで衝撃を受けた。今年になって小説執筆を再開したきっかけでもある。うまく言語化するのが難しいけど、とにかく終始読み心地がいい。何でもない情景描写が輝いて見える。
かといって、美しさに振りきってるのかと言うとそうでもなくて、どことなく生々しさが含有されてるのも魅力。文体だったり固有名詞が出てこなかったり、という点から全体的にパステルカラーの光景が浮かんでくるような作風なのに、ともすればグロテスクさにも繋がり得る描写が時折混ざるのが本当に好き。
小川洋子作品は、博士の愛した数式を随分昔に読んだきりだったけど、本作を読んで同氏のファンになった。小説という媒体の本当に魅力に気づけた作品でもあるかもしれない。
第三位
道尾 秀介「カラスの親指」
道尾秀介天才定期。と私が勝手に言ってるんですが、きっかけはこの作品。最初から最後まで、惚れ惚れするほど完璧なストーリー展開。自分で小説を書く上で真っ先に参考にしたのがこの作品。
各キャラクターの持つ魅力と関係性、適時見どころを挟んでいって読者を一秒も飽きさせない、ラストにはあっと驚く仕掛けを数段階で仕込んでおく。エンタメ小説として完璧すぎる。これを読んで面白くないと感じる人なんて世界で誰一人存在しないと断言できる。物語の完成系。
と、べた褒めしてますが、本当にそうとしか言いようがないんですよね。五角形のステータスがあったら、全項目が最大値。そんな作品。
第四位
アンディ・ウィアー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」
SFの魅力が存分に詰まった作品。まさに、SFのニューノーマルという感じ(使い方あってるかな?)。
科学的な試行錯誤、異星人との出会い、宇宙空間の恐怖、諸々のSFに求めるものが全て過不足なく詰まってる。ストーリー展開は古臭さを感じるほどに王道で、だけどそれが心地よい。
令和に出版された本作は古典SFの「スマホ出てこない問題」を解決していて、当然スマホも出てくるし、環境保全という思想もあるし、なんならSpaceX社すら出てくる。現代の価値観にアップデートされた古典SFというような作品で、これからSF読む人はこれを読んでおけばOK! と心置きなく言える傑作。
軽妙な語り口調のおかげで非常に読みやすいのも良き。上下巻で一見尻込みするけど、本当に一瞬で読破してしまうと思います。
第五位
朝井 リョウ「正欲」
一転、非常に社会派な作品。多様性を題材にした作品は数多くあれど、これほど多様性の本質をうまく言語化できている作品は読んだことがない。
複数視点で物語が描かれていくのですが、本当に多様性という概念のどうしようもなさを実感させられる。「これこそ多様性を言い当てた金言だ!」と思ったら、また別の思考を注入されて脳内がぐちゃぐちゃになる感じ。
読み終えてしまえば、誰が正しくて誰が正しくないという議論自体が的外れだということに気づかされる。安易に多様性を論じることの加害性という側面を知るためにも全人類に読んで欲しい。
とはいえこの小説の結論を「多様性とは○○である!」という一つのメッセージに集約できないことを理解してほしい。「俺はどうすればいいんだ」という絶望にも似た読後感が多様性の本質なのかもしれない……
話していてよく分からなくなってきたけど、読めば私の気持ちが分かると思います。
第六位
渡辺 優「地下にうごめく」
良ッッッッ!
40代の女性会社員が地下アイドルに激ハマりしてプロデューサーになるという時点でもう面白い。しかし、本作の魅力はとにもかくにもキャラクター。
登場人物全員がちょっとずつ嫌な部分を持ちながら、それでも愛しさを感じてしまう描き方は見事。特に「天使ちゃん」というキャラクターがあまりにも良すぎる。いわゆる電波な子なんですけど、ギャップ萌えという概念を再認させられた。魅力的なキャラクターってこういうことだよな。危うくガチ恋しそうになった。
ストーリー展開が過激じゃなくて、地に足がついた感じなのもすごく好き。地下アイドルという現実と空想が絶妙に入り混じった空間をテーマにする上で、これ以上ない物語。
第七位
安壇 美緒「ラブカは静かに弓を持つ」
今年は本屋大賞ノミネート作品全部読むという企画を勝手にやってたんですが、本作は個人的本屋大賞。メインストーリーは著作権違反の実体を調査するために音楽教室に潜入するスパイ小説ということになるけど、個人的にはそこよりも人間ドラマの部分に心を打たれた。
恋人とか親友のような大層な名前の付いた関係性ではないからこその人間関係の尊さを感じて、めちゃくちゃ泣いてしまった。私自身、ほとんどろくに人と関わらずに生きている分、主人公にとんでもなく感情移入してしまったからだと思う。こういう、異常に感情移入してしまうこと、たまにありますよね。
年齢を重ねるごとに人付き合いが減っていく人に刺さると思います。あとは、音楽描写も抜群なので、文学作品としてもめちゃくちゃに質が高いです。
第八位
井上 真偽「その可能性はすでに考えた」
ミステリーの一つの到達点。一つの謎に複数の解決策が出てくるジャンルは多重解決ミステリーと呼ばれるのですが、本作はそのジャンルの到達点だと思う。
主人公の探偵は事件の謎を解明するのではなく、「いかなるトリックを用いても犯行は不可能である」ことを証明する。なんじゃそれ!
次々に襲い掛かる強敵たちが持ってくる事件の真相に対して、主人公は反駁をもって退ける。「そのトリックはこういう理由で不可能です。なのでこの事件は“奇跡”の結果です」てな感じで。
作者の脳みそはどうなってるんだと驚愕してしまった。ミステリー部分は硬派な本格ミステリーである一方、登場人物はみんなキャッチーで漫画っぽさもあるのでその点は比較的読みやすいと思います。
第九位
持崎 湯葉「陽キャになった俺の青春至上主義」
今回唯一のラノベ枠。というか、一年通してもラノベは数冊しか読んでない。そんな中、本作は私が信頼している某氏がおすすめしていたので手に取ってみた。
ライトノベルらしくキャラクターの魅力が凄まじくて、終始ニヤニヤしながら読破した。登場人物が全員面白いの凄まじい。
しかも、キャラクターに加えてシナリオが想像以上でここに一番衝撃を受けた。「陽キャ」「陰キャ」というテーマに対して正面から真摯に向き合っていて、キャラクターラノベと評するのはあまりに勿体ないほどストーリーがしっかりしている。
絶妙な伏線回収もあったりして、一冊の小説としてちゃんと収まりがいい。ラノベはどうしても続編前提で曖昧な終わり方が多い印象だったので……
多分、カクヨムユーザーはラノベ好きの方が多いと思うのですが、本作はマストですよ! ラノベにわかが偉そうなことは言えないですが。
第十位
ネヴィル・シュート「渚にて」
突然の古典SF!
しかし、古さを全く感じさせない新鮮な感覚で読了できた。これは終末ものの傑作と言われるわけだ。あまりの読後感にしばらく呆然としてた。
核戦争による汚染が地球を南下してきて、最後に残されたオーストラリア大陸で紡がれる物語。世界の終わりとは思えないほど朗らかで牧歌的ですらある日常パートが作品の大半を占めていて、それでも確かに近づいている終焉が本作をSFたらしめている。
核戦争の危機が身近だった時代だからこそ生まれた傑作だと思う。それくらい作品から伝わってくる気迫というか、我々はこうなってはいけないというメッセージの説得力が凄まじい。本当に取り返しがつかなくなって、今更後悔しても遅いという感じがね……
読了後にTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「世界の終わり」という曲を思い出して、聞いてみるとめちゃくちゃに染みた。勝手にこの曲のことをテーマ曲だと思ってます。
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