【番外編】2024年面白かった小説ランキング

 2024年に読んで面白かった小説TOP10を発表していきます。


 ランキング大好きおじさんなので、順位こそ付けてはいますがTOP10の作品全て同じくらい好きな作品です。


 ちなみに、条件は2024年にというだけなので2024年出版ではない点にご留意ください。






 1位:西 加奈子「サラバ! 」


 何を基準に1位を決めるかというのは非常に難しいのですが、やっぱり今年はこの作品かな。


 正直、他のランクイン作品と比べると話の内容を明瞭に覚えている訳ではないんですが、それでも本作を読んでいる最中の没入具合が尋常ではなかった。


 私が読んだのはハードカバー版でクッソ分厚い上下巻。


 それなのに、ほんの数日で読破してしまって下巻に至っては一日で読み終えてしまった。大体2時間くらいで体力の限界を迎える私からすると、こんな体験は中々ない。


 本作の魅力を言語化するのはすさまじく困難で文字通りとしか言いようがない。


 水のように読み続けられる心地の良い文体と、全く続きが読めない展開。心理描写も人間関係もリアル極まりないのに、どこか浮世離れしている奇妙な世界観。


 脚本術やキャラクター造形といったテクニックを超越した世界そのものがあった。


 読書という行為を通して得られる体験や感想はどこまでも個人的なものであるからこそ、こうして読書沼にハマってしまう訳ですね。





 2位:辻村 深月「傲慢と善良」


 ある日姿を消した婚約者を追う婚活ミステリである本作。


 話の筋であるミステリ要素ももちろん面白いんですけど、それ以上に読者の人生や人格に影響を与える力がこの小説にはある。


 この作品を読んでいて、ぶっ刺さったフレーズはいくつもあって例えば


『皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。』


 や


『悪意を知り、打算を学ぶ』


 など、例を挙げるとキリがない。


 これまで自分が抱えていた“歪んだ善良さ”や“無意識の自己愛”に嫌でも目を向けさせられて、かなり心にくる。


 登場人物みんなの心情が理解できるようで理解できないようで、という安易に勧善懲悪としていないのも、読んでいて心がかき回される一つの要因。


 楽しいエンタメ作品では決してないけど、すべての人に読んで欲しい一冊です!






 3位:宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」


 社会派作品から一転、こちらはとにかく楽しいスーパーエンタメ作品。


 本作の魅力は何と言っても「成瀬」というキャラクター。これに尽きる。


 突き抜けて魅力的なキャラクターを配置すれば、自然と物語が動き出す、というキャラクター中心の創作論で見たことあるやつ。まさしくそれ。


 滋賀県ネタが存分に詰まってて、もし滋賀県民で本作を読んでいない人がいたら絶対に読まないといけない。自分が滋賀県民であり、作中のネタを本能で理解できることを誇るべき。


 本屋大賞も取ってる作品なので、この場でああだこうだ言う必要はないですね。本作を読んで「面白くない」という感想を抱くことは不可能なので、全人類読んでください。






 4位:fudaraku「竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る」


 競争率激ヤバで知られる電撃小説大賞の大賞受賞作。


 この小説、もう本当にガチでエグイ(語彙力)。


 猟奇的ながらもどこか耽美な雰囲気が漂う前半から一転。あまりに衝撃的な展開。


 いわゆるギミックものに当たる本作だが、ギミック一本勝負ではないというのが本作最大の魅力。


「こんな仕掛け見たことない!」という衝撃と、それと同等かそれ以上の物語自体の持つ力。


 ギミックもので泣いたのは本作が初めて。


 ネタバレはしたくないので何とも言えないけど、小説に人生を救われた人にこそ読んで欲しい。絶対に後悔させないです!


 読了後に「わたしの中で永久に光る」というサブタイトルが心の奥底に染み入る。






 5位:乗代 雄介「旅する練習」


 今でも読み返したいと思うと同時に、それが怖いとも感じる。


 読後にこれほど放心したことはこれまでなかったし、なんなら一カ月くらい引きずった。


 中学入学前のサッカー少女と小説家の叔父が利根川沿いを歩いて鹿島アントラーズの本拠地を目指す。ただそれだけの物語。


 しかし、ただそれだけの日常がこうして小説として残されているということは、その日常は本質的に非日常を包含しているのである。


 そんなメッセージが主題なんだと、あとがきを読んで思った。


 本作もまたとしか言いようがない。


 多くの人に読んで欲しいけど、メンタルが弱まっている時に読むのは危険かもしれない。


 最後に私が本作で一番好きな一節を紹介します。


『起こってもいないことを考えて、その通りだとか違っていたとか、そういう気分から離れたくて歩いているのに』


 最近、散歩をしながら考え事をしてしまうときに、毎回この一節が頭をよぎります。






 6位:劉 慈欣「三体」


 ハードSFらしい科学描写に続きが死ぬほど気になるエンタメ展開、そしてそれらが圧倒的なスケールで描かれる超大作。


 馬鹿みたいに分厚い三部作+ハードSFととんでもなく高いハードルだが、それを乗り越えた向こう側にはこれまで経験したことのない読書体験があなたを待っています。


 三部作とかのシリーズものは一作目が頭抜けて面白くて、それ以降はボチボチ、ということがままあるけど、本作はなんなら2作目3作目の方が面白いまである。


 本作にも色々と痺れる一節が登場するわけですが、そんな中でも特に本作の特徴を表していると思うのがこのフレーズ


『子供たちよ、私は二世紀前の人間だが、まだ大学で物理学を教えることができる』


 ちなみに、このセリフは三体Ⅱの下巻で登場するのですが、このセリフを発した人間の二世紀前の姿も三体Ⅰか三体Ⅱ上巻で見れます。


 どうですか? 本作の尋常じゃないスケール感が伝わるでしょうか?


 物語が世紀単位で進行して、しかもそれらをまたいで同じ人物が登場する。そして、なぜか二世紀経ってるのに物理学は進歩していないらしい。


 気になるでしょ? どうですか、読んでみませんか?






 7位:夏川 草介「スピノザの診察室」


 現役医師が書いた医療小説である本作。


 かつては大学病院で難手術をこなしていた主人公がとある理由で、田舎の地方病院へ。というベタと言えばベタな設定ではあるものの、内容は安易なエンタメ作品ではない。


 本作は医療とは反対の位置にありそうな哲学をテーマに扱っている。タイトルにもある「スピノザ」とは哲学者の名前。


 しかし、本作を読んで医療と哲学は反対どころかむしろ極めて近い位置にある学問なんだと感じた。


 死という誰しもが経験する出来事に対して、人は哲学が必要になる。


 特にこれから年を経るごとに身内の死を体験していく私のような人間がいま、この小説に出会えたことは僥倖。


 10年後、20年後に読み返したいと本気で思える名作です。






 8位:津村 記久子「水車小屋のネネ」


 ネネという名前のヨウムを中心に描かれる40年間にわたる日常のお話。


 生きづらさや社会の闇やらを描く作品が多い昨今、これほど良心に満ちた作品は中々ない。


 劇的な展開もハラハラドキドキも一切ないのに、不思議とページをめくる手が止まらない。


 水車小屋を訪れる人たちとの繋がりが連鎖して、良心が次の世代へつながれていく。


『ここにいる人たちの良心の集合こそが自分なのだという気がした』


 という作中の一節。こんなことを言えますか? 私は言えないよ。


 荒んだ心に染みわたる、温かで平穏な小説です。こういう小説を書ける人間になりたい!






 9位:瀬尾 まいこ「そして、バトンは渡された」


 2019年の本屋大賞受賞作である本作。


 本作もまた、良心に満ちた作品で心が浄化された。そして、アホほど泣いた。


 血のつながらない親の間を点々とする、と聞くと荒んだ家族関係の闇深ストーリーになりそうなところを悲劇的な展開一切なしで描ききる。


 「親からの愛の素晴らしさ」と言うと途端に陳腐な表現になってしまうけど、そういう理想を信じてみたくなる。


 映画化もされている有名作なので、そちらから見てみても良いかもしれないですね。






 10位:伊与原 新「宙わたる教室」


 本屋巡りをしていると、この著者さんの地元だったらしく特集が組まれていて、そこで手に取った本作。


 普段中々知ることのできない定時制高校の科学部を舞台とした物語。


 登場人物の半分以上が学生ではないという一風変わった部活ものでありながら、間違いなく青春小説。


 むしろ、学生より人生経験を積んでる分、そこらの青春小説より青春してる。


 作者の知識が活かされた科学描写も流石で、知的好奇心がくすぐられるこの感じはSFを読んでいるときとも似ていた。


 学会のシーンなんかも登場して、学生時代に学会発表していた身としては分かる~と共感してしまった。

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読書日記(時々スコップレポート) 秋田健次郎 @akitakenzirou

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