【読書日記】「チア男子‼」「ハーモニー」

 お久しぶりです。


 新社会人としての生活に圧倒されていて、読書頻度が激落ちしている私です。とはいえ、ようやく少しずつ読書する気力が復活してきました。






 朝井リョウ「チア男子‼」


 ど真ん中すぎる青春小説。


 内容はタイトルの通り、チアをやる男子大学生たちのお話。


 一番目を惹かれたのはキャラクター造形の上手さ。本作には、十人以上の人物が登場する。


 普通に書けば半分くらいはモブになりそうなところを、この小説では文字通り全員キャラ立ちさせている。その凄まじい筆力に感心してしまった。


 各キャラの第一印象を濃くしつつも、それぞれの持つ悩みやら葛藤やらまで描き切ってる。そういう意味ではキャラ小説とも言えるかも。


 朝井リョウ作品は「何者」や「正欲」なんかの社会派の作品の印象があったんですが、こんな太陽みたいな作品もかけたんですね。(出版順的にはこっちが先だけど)


 とんでもなくキリの良い終わり方も読後の爽快感に一役買っている。いくらでも、エピローグを入れられただろうに。


 朝井リョウという作家の幅を思い知らされました。やっぱり、社会的テーマの深みのある作品を書ける人は、ど真ん中にアツい作品もちゃんと書けるんですね。






 伊藤計劃「ハーモニー」


 わずか二作の長編を書いて夭折された伊藤計劃氏の遺作。


 病気が駆逐されたユートピア(あるいはディストピア)を描くSF作品。


 物語の入口は「行き過ぎた福祉厚生社会にささやかな反抗を企てる少女たち」という比較的王道な展開。


 しかし、本作はそこからどんどんと踏み込んでいって「人間の意識とは?」という哲学的な問いかけにまで達する。


 人の意識や思考を神聖視せずに、あくまでシステムとして捉えるのは前作「虐殺器官」とも通ずるものを感じた。


 ハリウッド映画さながらのエンタメ要素をおさえつつも、こういう哲学的なメッセージも投げかけるバランス感覚が凄まじい。


 しかも、この哲学的なメッセージ部分を描く時にゴリゴリに科学的なアプローチをとっているのも伊藤計劃作品の魅力の一つ。


 例えば、本作では「人間の意識」を扱っているが、そのために脳科学の知識や用語がバンバン出てくる。現時点で解明されている部分もあれば、架空の要素も含まれていて、読んでいて一瞬どこからフィクションなのか分からなくなる。


 こういう、科学的な知的好奇心をくすぐられると「いまSFを読んでるなぁ」と嬉しくなる。


 扱っているのは人類普遍のテーマであるし、この先何十年に渡って読み継がれるだけの強度のある作品だと思う。


 一回読んだだけでは咀嚼しきれていない部分もあるだろうし、あるいはもっと年を重ねてから読むことで見えてくる新しい視点も含まれているようにも感じる。


 日本SFの最高傑作という評価も納得の一冊だった。伊藤計劃氏の作品をもっと読みたかったと世の非情さを恨むばかり。

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