【読書日記】「三体Ⅱ」「凍りのくじら」「夢を売る男」

 8月ももう終わりで、真夏のピークが去ったと天気予報士がテレビで言っとります。私は昔から根っからの夏アンチなので、早いところ気温が下がってほしいです。


 最近読書熱が少し再燃してきて、読了数も上昇気味です。下半期で巻き返すぞ!





 劉 慈欣「三体Ⅱ 上下巻」


 圧倒的な面白さでした。


 無印三体はハードSF寄りの作風で、単体でも十分楽しめる作品だった。


 しかし! 三体を読むなら最低でもこの三体Ⅱ下巻までマストです!

 そう断言できるくらいシンプルに面白い。


 まず、三体Ⅱ上巻で今後のスケール感の大きさをすこぶる期待させられる。

 そして、その期待を余裕で上回っていく下巻の内容。


 主人公が冬眠から目覚めた時のカタルシスというか解放がすさまじい。だからこそ、下巻後半の展開もなおさら光ってくる。


 何より一番感心したのが本作で語られる「暗黒森林理論」。


 地球外文明が存在する可能性は極めて高いはずなのに、なぜ地球外文明とのコンタクトがいまだに達成されていないのか?という矛盾を提唱した「フェルミのパラドックス」。


 「暗黒森林理論」とはこの「フェルミのパラドックス」に対する一つの回答であり、シンプルながら非常に説得力がある。


 SFの醍醐味の一つに、フィクションであるはずなのに、現実の学問にも影響を与え得る点が挙げられると思っているので、暗黒森林理論の説得力は本作のSFとしての格を何段階も引き上げている。


 三体Ⅱの終わりがかなりキリがいいので、三体Ⅲはどう展開するんだろう?


 三体Ⅲの感想はまた次回にするとして、最低でも三体シリーズはⅡまで絶対に読むべきです。


 かなり分厚いSF上下巻(無印入れると3冊)なので、気軽に勧めにくいけど読んで後悔はないと思います!






 辻村 深月「凍りのくじら」


 何気に辻村深月作品を全然読んでなかったな、ということに気づいてひとまず手に取った一冊。


 本作を一言で表すなら「著者のドラえもん愛」。


 章構成から内容まで、いたるところにドラえもん要素がちりばめられていて、これほどガッツリドラえもんを扱った作品は初めて読んだ。


 それでいて、作中で語られるドラえもんの秘密道具なんかが容易に頭に思い浮かぶ時点で自分はドラえもんに育てられてたんだなということに気付かされた。


 思えば、恋愛やらSFやら色んなジャンルの原体験はドラえもんにあったのかもしれない。


 多分、日本人ならだれしも、頭の中のほんの数%でもドラえもんが占める領域が絶対にあって、自分でもそのことに気づいていない。


 本作は、そんなドラえもんと自身のこれまでの人生について改めて思い出させてくれた。


 とまあ、ほとんどドラえもんの感想を言ってしまったけれど、別に「ドラえもん懐かしいよねぇ」なんてあっさい作品ではない。


 ドラえもんと真摯に向き合う著者だからこそ、本作は決して子供向けではない。彼氏の生々しい人間性の描写や、何事にも当事者意識を持てない主人公の心理描写は、“人間”を描く文学作品のそれ。


 その上で、ドラえもんの持つ温かみも同時に描く本作は間違いなく「SF(少し不思議)」という藤子・F・不二雄の哲学を今に伝えている。







 百田 尚樹「夢を売る男」



 自費出版について知りたいなあ、なんかいい小説ないかなー、と思って検索したら出てきたので手に取った一作。


 百田 尚樹作品は「永遠のゼロ」あたりが有名だけど、実はまだ一作も読んだことないんですよね。


 んで、てっきり硬派な作風の人かと思いきや、びっくりするくらい読みやすかった。


 小説を書く人間にまともなやつはいない(正論)という主人公の言葉にめっちゃ笑ってしまった。そりゃそうだよな。こんな苦行みたいなこと好き好んでやるなんて異常者だよな。


 出版業界への痛烈な批判が軽快な語り口で流れるように出てくるので、読んでいてすごく気持ちが良かった。これは出版業界への愛ゆえの言葉なんでしょうね。


 ちなみに、作中では「俺の書いた名作が公募で落選するはずがないし、売れないはずがない」と信じ切っている人たち相手に数百万円で自費出版できますよと持ちかける、ぎりぎり詐欺ではないビジネスが描かれる。


 私自身はWeb小説として公開して、和気あいあいとやってるので、自作への過剰な自信やら圧倒的な自己愛やらはそこまで強くないと思ってるけど、結局のところ自分語りの一種な訳だから、そう大差なんだろうなあ。


 恐ろしく読みやすいので万人にお勧めできる一冊です!

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