【読書日記】「黄色い家」「存在のすべてを」

 読書日記を更新するたびに、もう一週間経ったのか……とびっくりします。


 本屋大賞ノミネート作全部読む作戦も佳境を迎えてまして、残り1冊です。多分、本日中に読み終えると思うので、全部読んだら大賞予想とかランキングとかつけたりしようかなぁ。


 スコップレポートの方も更新したいのですが、塩梅が難しいですよね。長編なら読んだやつは全部紹介するべきか、はたまた特に刺さったやつだけをピックアップする感じの方がいいか。





 川上未映子「黄色い家」


 お金のない家に生まれた少女は行き場をなくし、裏社会のシノギに手を出す。初めは比較的平和だったのが、だんだんきな臭くなっていき、狂気に支配されていく。


 ジャンルとしてはクライム小説ということになるんだろうけど、読み心地は純文学のそれだった。心理描写が、平易な単語しか使っていないはずなのに芯を食ってて、こういう描写を書いてみたいと思った。


 登場人物の質感もすごくて、水商売しか働き口のない人たちだったり、後先を考えられない人たち、そういうリアルなキャラクター造形に魅了される。


 貧しい家に生まれたこと、自分の人生を自分事としてうまく認識できない人たちのこと、お金がないと生活できないこと、そういうどうしようもない事柄に人生を阻まれる主人公の姿がやるせない。


 展開としては、真面目で後先を考えられる主人公がそうでない人たちに翻弄されるような流れになってはいるけど、自分では制御できない色々なことをやたらと真面目に抱え込んでしまう主人公も何かが欠けていたのかもしれない。じゃあ、主人公は何か間違っていたのか? どこでどうすれば良かったのか? そんなことを考えてしまう。


 結局は、作中にもあった通り、運の悪かったただの少女ということになるんだろうけど……。


 狂気が増していくクライム小説なのに、繊細な純文学のような雰囲気があって、さもしいリアルな人間関係にストレスが溜まるけれど、心温まって、感動もしてしまう。


 なんとも、感想が難しいですが、読んで良かった思える一冊でした!





 塩田 武士「存在のすべてを」


 本屋大賞ノミネート作9冊目にして、中々すごい作品でした。


 30年前に起きた未解決の誘拐事件。児童が誘拐されてから、突如帰ってくるまでの「空白の3年間」に何があったのかを解き明かす。


 未解決事件の真相を追う記者の視点では、重厚でドキドキハラハラしてしまうミステリーサスペンス。

 とある青年と出会った少女の視点では、思わず胸キュンしてしまう淡くて切ない恋愛。

 とある天才画家の視点では、芸術界のドロドロとした権力争いに巻き込まれる悲劇。


 一つの事件を中心に、登場人物たちの流れが一つの大きな真実へと合流していき、最後には「愛の物語」に終着する構成は見事の一言。


 とにかくジャンルレスというか、この一冊にどれだけの要素が詰まっているのか分からない。日本各地の緻密な描写から、ガンプラ、絵画、警察組織、記者。執筆に必要な背景知識が多岐にわたっていて、作者の気迫を感じた。


 特に、作中でフォーカスされるのが「写実画」。現実をそのまま描く絵画のジャンルで、写真が登場してからは衰退の一途をたどっていた。そんな「写実画」の哲学が作中では頻繁に語られていて、要約すると「現実をありのまま描くことで、それは現実以上の存在そのものとなる」。(ちょっと、曖昧だけど、たしかこんな感じだったはず……)


 本作にはそんな哲学が反映されているように感じた。各登場人物が体験した出来事を一つ一つ積み上げていって、過剰に凝った表現や演出も混ぜずに、物語が淡々と描かれていく。なのに、ラストは涙なしでは読めない。


 「存在のすべてを」という一見硬派な印象のタイトルも読後には、これほど完璧なタイトルはない! と感嘆してしまった。

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