【スコップレポート】虹乃ノラン さん「そのハミングは7」

 ご紹介させていただくのは

 虹乃ノラン さん「そのハミングは7」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330669184935083


 若干のネタバレがあると思うので、本当に楽しみたい人は本稿の前に本編を読んでください。


 とはいえ、ちょっとやそっとのネタバレを喰らったからと言ってこの作品の魅力は全く損なわれないと私自身は思っています。




 で! 言いたいことは山ほどあるんですけど。まずはタイトルね!


 最近、カクヨムで面白そうな作品を漁って、順番にフォローしていってるんですけど、そんな中でも「そのハミングは7」というタイトルはシンプルなのに異彩を放ってる。


 意味は全く分からないけど、「これはなんか違うぞ?」という感覚。まず、常人は文の述部にローマ数字使わないもんね。

 多分、カクヨムじゃなくて、書店で並んでてもこのタイトルは思わず手に取ってしまうと思う。




 次にキャッチフレーズの「鍵を拾った話をしよう。人は誰しもある意味盲目である。」

 これまた、意味深で興味をそそる。ただ、このキャッチフレーズの本領はプロローグで発揮されるんですよ。


 プロローグのラストにこのフレーズが登場して、もうはちゃめちゃに痺れた。


 誰しもが一回は憧れる「プロローグのラストに示唆的なフレーズが語られるやつ」。ただ、大体は滑って終わる。そこを、本作は完璧にやってのけてて、本当に憧れる。

 私は、このプロローグのラストを見た瞬間に鳥肌が立って、読了が確定したと言ってもいい。

 なので、一旦プロローグだけでも読んで欲しい。「ひゃ~~、やっば!」と思ったあなたは絶対に最後まで読むべきだ。




 とにかくこの作品は終始、作者の圧倒的なセンスを感じずにはいられない。

 例えば、タイトルにある「ハミング」の意味。普通、鼻歌の方と思いますよね? 違うんすよ。ちょっと、ネタバレになるんで、新鮮に痺れたい人は先に読んできてください。






 いいですか?


 これ、「ハミング距離」のハミングなんすよ。ハミング距離っていうのは、二つの文字列を比較して、それらが一致するまでに置換する回数ってやつね。

 たまたま、僕が情報系でこれを知ってたというのもあると思うんですけど、まさか小説にハミング距離が出てくるなんて思わなくて、センスの良さにちょっと笑ってしまった。




 で、センスの話ばっかりするのもあれなんで、他の点も言うと異常なまでの海外文学っぽさ。これ、WEB小説だよね? 誰かが翻訳したんじゃないよね? と疑ってしまう。


 舞台となるアメリカの文化があまりにもナチュラルに描写されていて、本当にアメリカに住む人が書いた小説のよう。


 クリームドスピナッチとかウッドチャック、とかネイティブじゃないと出てこなくないですか?(これは、私が無知なだけかもしれないです……)




 あと、個人的に小説を読んでて、印象に残った一節をメモする「フレーズあつめ」というのをしてるんですが、カクヨムの小説で「フレーズあつめ」の琴線に触れることはこれまでなかった。


 でも、本作であったんですよ。


 それが


「誰かから聞いた話を、誰かに話したいと思うことって、すごく簡単で単純なことだけど、これって実はすごい高いレベルの信頼の証なんじゃないのかな?」


 って一節で、別に物語の本筋とはそんなに関係ないんですけど、不思議と印象に残った。何が基準なのか自分でも分からないんですけど、「これは、フレーズあつめ行きだな」って自然とメモしてる。


 こういうなにげない一文に、特定の人の心に刺さる何かが詰まってて、それがどの一文なのかは多分読者によって異なるんだと思う。

 なので、本作は作中の全ての文章に魂がこもってる感じがする。



 小説を読んだ後に、こんな小説を書きたい! とか、この部分は参考になる! とか、感じることがあるんですけど、本作は私がこの先何十年小説を書き続けても絶対に到達できない何かを感じる。


 それは、単純に知識というのもあるし、あるいはセンスというのもあるし。上手く言語化できないけど、読んでみると分かると思います。




 ちなみに、前回紹介した「アストロQ」と同じく、本作も空行を入れないタイプの書き方で縦組み推奨です。スコップレポートで取り上げたのが、たまたまこのスタイルで連続しちゃった。


 (というか、やっぱり皆さん横組みで読んでるんですかね? 個人的には紙の本に慣れてるというのもあって、必ず縦組みなんですが。)



 WEB小説らしさは皆無なんですけど、かといって、硬派で読みにくい訳では全然ない。むしろ語り口の影響もあって、びっくりするくらい読みやすいです。なんか起きて書籍化されたりしねえかな~。




(余談)

 虹乃ノランさん、プロフィールを見たところ、いくつか小説の賞を受賞したご経験があるそうで、そりゃこの小説書ける人が賞取ってなかったらおかしいよ。



(追記)

 カクヨムコンの総合エンタメ部門を見事受賞されました!

 すごい! すごすぎる!

 なんか起きて書籍化されました!

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