【読書日記】「宙わたる教室」「プラスティック」「旅する練習」

 今回はGWに行なった書店巡りで手に取った小説たちです。


 書店巡りで買った小説の条件は「魅力的なPOPが書かれていた」「その時点で知らなかった」の2点です。


 今回紹介する3冊は全て大当たりだったので、やはりPOPは信頼できる。特に手書きのやつね。



 伊与原 新「宙わたる教室」


 今回の書店巡り一店舗目に訪れた場所で手に取った一冊。

 どうやら、この著者さんの地元だったらしく伊与原 新さん作品のサインとともに特集が組まれていました。

 こういう偶然の出会いは実店舗ならではですよね。


 作品の内容はと言うと、定時制高校の科学部を舞台とした一風変わった青春小説。


 部活ものの青春小説でありながら、登場人物の半数以上が高校生ではない。しかし、本作は紛れもない青春ど真ん中だと言える。


 文字が上手く読めない不良青年や70代のおじいちゃんが繰り広げる物語は、多くの人生経験を経ている分、普通の高校生たちが送る青春よりも何倍も濃く感じる。


 著者の知識が活かされた科学描写も流石の一言で、知的好奇心がくすぐられるこの感じは本格SFを読んでいるときのそれに近い。


 読んで良かったと断言できるし、全ての人におすすめしたい。何かを成し遂げるのに生まれも育ちも関係ない!と明るい気持ちになれる一冊です。





 井上 夢人「プラスティック」


 本屋大賞の超発掘部門を受賞したらしい作品。(そんな部門があったことを初めて知った)


 出版が30年前ということで、ワープロやフロッピーとったアイテムは時代を感じさせるけど、肝心のミステリー部分は全く古さを感じなかった。


 正直何を言ってもネタバレになってしまうタイプの作品なので、読んでくれとしか言いようがない。(なんかこの言い回し毎回出てくるような……)


 トリックそのものに革新的な新しさがあるという訳ではないけど、そもそもミステリーってトリックの奇抜さを競う競技じゃないよな、と改めて思わせてくれた。


 小説全体の構成を貫く少しメタ的なギミックもあったりして、創意工夫が凝らしてある。


 ミステリー好きは必読の名作です。






 乗代 雄介「旅する練習」


 これまた魅力的なPOPと帯文に惹かれて購入した一冊。芥川賞の候補作でもあるらしい。


 実は、この記事を書いてる直前に本作を読み終わったところなんですけど、ちょっとまだ余韻が抜けない感じがします。


 その、なんというか。読んだ人なら分かってくれると思う。この気持ち。


 物語は、小説家の叔父とサッカー少女である姪の二人が我孫子から鹿島まで歩くというただそれだけ。


 ロードノベルであり、なんでもない日常を切り取った作品でもある。


 なんだけど!


 本作の裏テーマ?として「常人の何でもない日常は記録に残らないものである」というのがある。これは巻末の解説を読んで初めて理解したんですけどね。


 つまり、なんでもない日常が文章として記録されている時点で、それは日常とは異なる何かが包含されていることを意味しているという訳です。


 は? 何言ってんだ? って感じですよね。


 正直、この小説は二人の道中で描かれるハッとさせられる一節や精緻な風景描写だけで十分に作品の質が担保されてるんですよ。


 読者の人生に影響を与え得る金言がいくつも登場して、「これは読み返すたびに新しい発見がありそうだな」と思えるくらい心に染みる。


 『本当に大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きる』ってフレーズがめちゃくちゃ心に残ってる。


 これから生きていく中でよりどころとできるような一節に出会えることは本当に稀で、本作はその稀な作品の一つになった。


 だというのに! どうしてこんなことになってしまったんだ!


 読書メーター眺めているとこのラストに不服な人もいるようですが、ここにこそ本作の本質が詰まってるとも感じます。


 ちょっと、しばらくはこの小説を思い出して苦しくなる日々が続きそうです。


 それなりの語彙力が要求される文体は、いかにも「文学作品」という感じで読みやすいタイプの作品ではないですが、それを乗り越えるだけの価値があると思います。

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