【読書日記】「熱帯」「放課後ひとり同盟」

 BOOKOFFの年末セールで10冊くらいまとめ買いしてしまった。

 ちゃんと著者にお金を回す意味でも新品を買うべきなのは分かっているんですが、それはそうとお金がない。


 社会人になったら全部新品で買うから許して……




 森見 登美彦「熱帯」


 いつもの森見節を期待してると、予想外に普通な感じの語り口でちょっと拍子抜け。と思いきや、話がどんどん奥まっていく。あまりに奇妙で唯一無二の読書体験になった。


 「熱帯」という読み終えられない謎の小説の正体を追い求める人たちの物語。話の構造はミステリーだが、実際は幻想小説とも言うべき不思議な展開。二転三転というよりは、現在地が曖昧なまま、気づけばまるで世界観が変貌している。夢を見ているときを思い出した。


 読み進めていくと、次第に自分はいったいどこまで連れていかれるのか?と不安になってくる。それくらい、物語が開始した地点から終了する地点までの距離が遠い。より具体的に言えば、最短距離は近いけどとんでもなく回り道をしている感じ?


 考察できそうな伏線が山のように張られていて、頑張って解明したいけどそもそもこの小説は理詰めで“解く”ことができるのかすら分からない。考察せずに感覚で楽しむのも正解な気はする。いずれにせよ、この小説はどこまで考えて作られたものなのか、森見登美彦の底知れなさが不気味。


 かなり難解だし、いつもの森見作品と比較してもキャッチーさに欠ける作品ではあるけど、そう評してしまうのは勿体ない。上手く言語化できない不思議な魅力に溢れた作品でした。





 小嶋 陽太郎「放課後ひとり同盟」


 表紙の感じからして、爽快感のある青春小説かと思いきや、それだけじゃない。この作品最大の特徴は言葉に出来ないイライラをそのまま扱っている点にあると感じた。


 小説という媒体の都合上、主人公の抱えている不満は上手く言語化されている場合が多い。もっと言えば、うまく言語化されていないと小説として成り立たせるのが難しい。


 しかし、本作は思春期特有の世間への濃ゆい不平不満が曖昧なまま描写されてる。「なんか分からないけどイライラする」感じが描写されてる作品は案外少ないと思う。


 しかも、その不平不満具合がなんとも生々しい。生活の全てに鬱屈した感情を抱いてしまうあの感覚。思春期を過ぎた私が読んでいると、もうちょっと穏やかにしてよ……なんて思ってしまうけど、青少年の感情をリアルに描写するときっとああなる。


 とはいえ、こういう生々しさを描写しつつも全体の印象としてはあっさりと爽快感がある。中には同情できないレベルでヤバめな登場人物も出てくるが、最終的には不思議と愛らしさを感じてしまう。


 クセの強いキャラクターと救いのある展開が最終的な読後感を心地よくしてるんだと思う。湿っぽさが残らないというか。


 少し尖った、けれど読みやすい青春小説を探している人におすすめです!

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