【読書日記】「水車小屋のネネ」「レーエンデ国物語」

 本屋大賞ノミネート作品全部読もう計画の2冊目と3冊目です。



 津村記久子「水車小屋のネネ」


 ネネという名前のヨウム(鳥)を中心に描かれる物語。


 作中で過ぎる時間は40年と壮大だが、びっくりするぐらい事件が起きない。味の濃いエンタメ小説のつもりで読むと、拍子抜けするかもしれないが、読み進めていくごとにこの世界への愛しさが増していく。


 私は、物語における起伏みたいなメタ視点で読んでしまう愚かな読者なので、そろそろ悲劇が訪れるはずだ! と思って、気を張ってページをめくると存外何も起きない。というのを繰り返しているうちに、本気で悲劇なんて起きないでくれ! 祈るようになってくるし、終盤には不要な心配をせずに穏やかな気持ちでページをめくれるようになってくる。


 「悪意」だったり「生きづらさ」が描かれがちな昨今の小説に対して、本作は徹底して終始「良心」が描かれていく。40年という営みの中で人と人とを繋ぐ「良心」が受け継がれていく様は、読んでいて心が浄化される。


 生きていくことに対して「なんとかなるさ」とどこか牧歌的に詩ってくれる本作は、本当に心に染みわたる。良い小説だったなぁ……というしみじみとした読後感が心地よい。


 加えて、途中に挟まる挿絵も本作の朗らかな雰囲気を倍増させる良いはたらきをしていて、挿絵をいれるという采配を決断した出版社を称賛したい。


 平和で心が浄化される小説を読みたい人におすすめです!





 多崎礼「レーエンデ国物語」


 圧巻の一冊だった。聖イジョルニ帝国のレーエンデ地方を舞台とした本格ファンタジー。


 私はファンタジー小説をほとんど通ってこなかったんですが、あまりの世界観にページをめくる手が止まらなかった。何よりも、著者の筆致が凄まじくてレーエンデへの魅了が止まらない。(知らない単語が結構出てきたのでその都度調べた……)


 読後に思わず放心してしまうほど、壮大な物語を浴びてなお、本作が序章にすぎないという衝撃ね。続編が出てるので必読です。まずは本屋大賞勢を読まないとダメなんですけどね。ああ、読むべき小説が多すぎる……。


 個人的にポイント高かったのが距離の単位がメートルじゃなかった、という点で作者のこだわりというか本格ファンタジーを作るぞという気概を感じた。(本格ファンタジー界隈では当たり前だったらすみません)


 なろう系だったり、指輪物語ベースの世界観系の異世界ファンタジーが主流の昨今で、本作はかなり影響が大きいんじゃないかな? なんてことを勝手に思ってました。これを読んで衝撃を受けた人たちが本格ファンタジーを書き始めたり……。


 十二国記も最近ちょっと再ブームが起きたりしてるらしいですし、本格ファンタジーが復権する時は近いかも?

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