【読書日記】「薬指の標本」「蕎麦,食べていけ!」「放課後ミステリクラブ1」

 修士論文の執筆が佳境を迎えていたせいで更新頻度が落ちておりますが、ひと段落ついて安心です。



 今年の本屋大賞ノミネート作が発表されましたね!


 去年は本屋大賞ノミネート全部読む!作戦を実施して、大変良かったので、今年もやる予定です。


 生意気にもランキングとかつけてみたり? ランキングつけたがりおじさんなんで……



 一冊目

 小川洋子「薬指の標本」


 初めて、小説における文体の美しさに気づかせてくれた小川洋子さんの短編集。短編集とはいっても、収録されてるのは2作だけど。


 いかにも、純文学! という感じで内容そのものの解釈は難しいけど、相変わらず文章の美しさは健在。小川洋子作品は、幻想的で少し浮遊感のある現実離れした世界観にも関わらず、生々しい身体性? みたいなものを感じるのが特徴だと思う。本作では「薬指」だし同著者の激推し作品である「猫を抱いて象と泳ぐ」では「唇」がフォーカスされていた。


 確か、同著者の「密やかな結晶」だったと思うけど、試食コーナーでの老婆の食事シーンの描写に、「老婆の真っ黒な口内に食べ物が吸い込まれていく」みたいな節があって、それがずっと印象に残ってる。そういう、幻想的とグロさとちょうど間のような描写が小川洋子作品の好きなところ。


 はっきりとしたつかみどころのない浮遊感のある純文学が読みたい人におすすめです!




 二冊目

 江上剛「蕎麦、食べていけ!」


 衰退していく地方を復活させるために、地元信用金庫勤務の弟とメガバンク勤務の兄が対立する物語。


 私が好きな地方創生ものということで、期待しながら手に取ったが、いまいち没入できなかった。


 著者が銀行の人というのもあって、そのあたりの描写はすごく緻密で迫力があったが、それ以外のパートはなんとも目が滑ってしまって……


 多分、文体がシンプルで読みやすいのはいいけど淡泊すぎて逆に絵が浮かばない事態に陥ってる気がした。経済学者が小説風に書いた実用書みたいな印象。


 地方創生ものとしては、期待する展開ど真ん中で行ってくれてるからもっと楽しめてもいいはずなんですけどね。戦後に農地を開拓していった老人の回想シーンは結構良かったけど……


 物語の展開に粗があっても、何か突出した魅力があるような尖った作品は割と好きなんですけど、本作は尖りがない上で、基本的なセリフ回しとか描写に違和感を持ってしまったから、なんとも感想に困ってしまった。


 すみません、ネガティブな感想は言わない信条なんですが、期待値が高かっただけに、もうちょっとやりようがあったんじゃないかと思ってしまいました。


 でも、こういう文句垂れ流してるいまいちな小説の方が案外良作より記憶に残ったりするんですよね。




 三冊目

 知念実希人「放課後ミステリクラブ 金魚の泳ぐプール事件」


 ここから、今年の本屋大賞勢。


 児童小説初の本屋大賞ノミネート作品ということで、最近少し児童小説に興味があった私としてはナイスタイミング! ということで本屋大賞全部読む作戦の一冊目として手に取った。


 いやぁ、すごい! 児童小説で本格ミステリを完璧にやってのけた。作中の描写だけから真実を推測可能になってる。ちなみに、私は読者への挑戦状が解けなくて、マジで悔しかった。


 一般のミステリ小説と比べて、装飾が少ない分「本格ミステリの入門書」的なストイックさを感じた。ある種の論理クイズのような側面もあって、子供と親が一緒に読めばすごい頭の体操になるんじゃないかな? 自分が親なら絶対子供に読ませたい。


 児童小説というのもあって、文章そのものは非常に読みやすいけど幼稚ではない。なんというか、児童小説の可能性をすごく感じた。捻った文学的表現とか、考えさせるテーマとかを排して、物語の本質だけを抽出したような児童小説というジャンルの奥深さを思い知った。


 小説執筆を趣味にしている人間として、やはり児童小説には一度挑戦するべき。どうしても、足し算思考になってしまう創作において、児童小説というジャンルは「何が必要で何が必要でないか」を明らかにしてくれると思う。


 例えば、本作を読んでいて思ったのは情景描写がほとんどない。でも、考えてみれば情景描写が物語を進めるための必須要素であることは少ない気がする。本作でも、推理に必要な部分に関してはしっかり描写されてるし。


 ちなみにカクヨムでは「角川つばさ文庫小説賞」という児童小説の賞が(夏頃でしたっけ?)に開催されるので、皆さんも一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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