【読書日記】「君が手にするはずだった黄金について」「あおいのヒミツ!」「スピノザの診察室」「成瀬は天下を取りにいく」
本屋大賞ノミネート作を全部読もう作戦の3週目です。
修論発表が終わり、なんとか一段落ついたので今週から読書ペースを加速させていこう! という具合です。
小説執筆の方もぼちぼちしてまして、4月までに書き終えられればなという感じです。
小川哲「君が手にするはずだった黄金について」
連作短編形式でどの作品にも違う魅力があったけど、やはり表題作の「君が手にするはずだった黄金について」が一番刺さった。人間の持つ多面性や複雑性を分かりやすくせずにそのまま描くタイプの作品って、読者に考えさせる余白を作ってくれるから好きなんですよね。
帯に朝井リョウさんの名前があるんですが、本作は朝井リョウ好きには絶対に刺さる一作だと思います。
「理解できない人」を描きつつ、なのにその人を嫌悪しきれない。奇妙な魅力があるような、でもやっぱりシンプルクズなような……。そんな不思議な人物が描かれています。
短編集なので、他にも独特な雰囲気のミステリーっぽい作品があれば軽妙な語り口が気持ちいいエッセイも入ってたりして、一冊でいろんな味が楽しめます。
吹井乃菜「あおいのヒミツ!幻のレシピ復活させちゃいます⁉」
こちら、角川つばさ文庫から出版されてる児童書なんですが、「角川つばさ文庫小説賞」に興味があって手に取ってみた一冊。
「角川つばさ文庫小説賞」は毎年金賞は出てるんですが、大賞は案外出ていない。そんな中、本作は数年ぶりの大賞受賞作。
物語はとうふ屋の一人娘が地元の商店街のピンチを救うというシンプルな展開なんですが、さすが大賞作という感じで、細かいところに物語としての上手さを感じた。
児童書なので、小難しい描写は避けつつ、でも幼稚になりすぎないバランス感覚。安易に恋愛要素に振り切らず、友情や家族愛をしっかり描く真摯さ。余計なものがそぎ落とされているからこそ、物語の本質的な部分を感じた。
まぼろしのとうふを再現できたシーンでは普通に泣いてしまった(児童書で泣く成人男性の図)。それくらい、シンプルだけど質の高い児童書という印象。
とはいっても、私自身児童書を全く通ってきていない身なので、もっと面白いのが山ほどあるぞ! という可能性はあるかもしれない。
ただ、少なくとも児童書経験のなかった私は先々週の「放課後ミステリークラブ」と、この「あおいのヒミツ!」で児童文庫の奥深さを知った今日この頃です。
夏川草介「スピノザの診察室」
京都の地域病院ではたらく内科医を描く医療小説。
しかし、地方の病院というのもあって終始凪いだような空気感が独特の心地よさを醸し出してる。主人公である哲郎の性格の影響もかなりあると思うけど。
医療ものに求める、ハラハラドキドキなオペシーンや緊迫感のある救急救命シーンをある程度抑えつつ、全体としてこれだけ静謐な雰囲気になるのは、中々他作品では味わえない。
読書するときに印象的なフレーズをメモってるんですけど本作では
「訳が分からないということがわかるだけでも大切だ。『分かった』と思う読書の方がはるかに危険だからね」
という一節が記憶に残った。昨今の情報社会にも通ずる一節だと思う。
私は読後に哲学書を読んでみたいと生まれて初めて思った(特にスピノザのやつ)。ちなみに、タイトルのスピノザというのは哲学者の名前です。
哲学というと教養のある人が会話に混ぜるとかっこいい小難しいやつ、という程度のイメージだったんですが、本作を読んでみて哲学は死という悲劇を扱うために人類に必要な学問なのかな、と思った。
自分にとって死がより身近になってくる数十年後にもう一度読み返したいと思える一冊でした。
宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」
今年の話題作(と勝手に思ってる)。シンプルに最高の青春小説だった。
なにより成瀬というキャラクターがあまりにも強すぎる。物語の魅力は展開かキャラのどちらかだと思うけど、本作は間違いなくキャラに振り切ってる。
ぶっとんだ面白いキャラクターが一人登場するだけでこれだけ物語が動くのかと感心してしまった。成瀬の人生を最初から最後までずっと眺めていたいと本気で願ってしまった。
ちなみに、作中の舞台は滋賀の大津で、関西人はニヤッとしてしまう滋賀ネタが大量に含まれている。特に滋賀県民は必読。平和堂ネタや「うみのこ」ネタとかね。
文章も平易ですごく読みやすい上、短編形式なので万人におすすめできる一冊です。
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