【読書日記】「夏物語」「イデアの再臨」「エレファントヘッド」「西の魔女が死んだ」

 お久しぶりです。

 更新サボってたせいで四冊も溜まってました。


 研修が終わっていよいよ正式に会社員生活が始まったというところで、中々本を読む余裕が生まれないですね。


 せっかくの休日に一日中スマホを眺めたり。

 経験上、本を読もうとならないのはシンプルにメンタル不調なので、休息優先でぼちぼちやっていきましょう。




 川上未映子「夏物語」


 帯文が村上春樹という見たことないで思わず手に取ってしまった一冊。

 川上未映子作品は「黄色い家」に続いて二冊目だったのですが、作者のバックグラウンドもあるのか、夜職や貧困の描き方が抜群に上手い。


 ファッションとしての貧困ではなくて、もっと生活に根差した思想みたいな部分から描いているから、生々しさが段違い。


 ちょうど最近読んだ「そして、バトンは渡された」と同じく家族が描かれた作品なのにまるで印象が別物で、こういうのが様々な小説を読む醍醐味だと改めて思った。


 生まれることとは? 命とは? みたいな壮大なテーマに踏みこみつつも突然関西弁の面白小話が挟まったりするから、読み心地が良かった。


『子供のことを考えて子供を産んだ親なんて一人もいない』という一節にハッとさせられた。


 人はどうして子供を産むんだろうな、と全くもって当事者じゃない私が考えさせられたわけだから、当事者の方々が読んだら全く違う感想になるのかもしれない。


 いやでも、人間はみんな同じ人間である親から生まれてるから、そういう意味で本作は読者全員が当事者と言えるのかも。


 テーマの重みから、描写力までまさしく文学作品という感じ。







 五条紀夫「イデアの再臨」


 なんかすごいらしいという噂を聞きつけて読了。


 確かに、すごいわ。


 メタ系のギミックが盛り盛りで、その勢いのままラストまで突っ切るから気持ちがいい。


 こういうギミック系はネタバレ厳禁の一点勝負が多いけど、本作は最初から最後までギミックをやり続けた上で、純粋に展開が面白いから多分ネタバレされても余裕で楽しめる。


 どんでん返しとか叙述トリックではなくて、小説という媒体を最大限活かした異能力バトルもの。


 ミステリーと言うにはあまりに謎解き以外のパーツが面白すぎる。


 文体もすごぶる読みやすくて、一日であっという間に読了してしまった。


 とはいえ、普段本を読まない人よりはある程度読書に慣れた人が変わり種として読むのが一番楽しめそう。






 白井智之「エレファントヘッド」


 これまたTwitterの一部界隈で話題になっていた作品。


 実際に読んでみると、話題になるのも納得。


 SFじみた特殊設定に叙述トリックやら多重解決やら本格ミステリやら、ありとあらゆる要素が詰め込まれた上で、すべてを塗りつぶす圧倒的なゴア表現。


 “異常”な作品としか表現できない。作者は一体どんな脳みそしてるんだ。


 正直、トリックも設定も結構複雑で、私自身完全に理解できてはないけど、それでも「なんかすごい」で十分に楽しめるレベルには作りこまれてる。


 色々と猟奇的な描写が多いので、人は選びそうだけどミステリー好きは必読の一冊です。


 特殊設定ミステリーもいくところまでいったな、という気持ち。そんなにミステリーガチ勢じゃないけど。






 梨木香歩「西の魔女が死んだ」


 言わずと知れた超有名作。何気に読んだことがなかったので手に取ってみた。


 読書感想文の課題図書なんかによく選定されてるイメージのある本書だけど、読んでみるとその理由もなんとなく理解できた。


 「魔女修行」は昨今のメンタルヘルスの実用書に書かれてるような内容に通ずるものを感じたし、それを説教臭くない形で小学生の目線から上手く描いてるから、この作品から学べることはたくさんあると思う。


 ただ、もしこの作品を読書感想文のために嫌々読んだとして、当時の自分がこの読後感と同じものを感じられたかと言うと疑問だけども。(それは一旦置いておいて)


 心の機微や、自然の美しさ、人の生き死に、本作で描かれるこれらを通して読後に読者の人生が少しだけ良い方向に転がるような、素敵な作品でした。


 物語ラストのおばあちゃんからのメッセージが露骨に感動を狙ってない、ちょっと茶目っ気のある文言でめちゃくちゃ感動してしまった。こういう作品を書いてみたい。


 “ためになる読書”というと、実用書やビジネス書がもてはやされている(最近そのことをより実感してる)けど、やっぱり私は小説こそ人生を変えられる一番の媒体だと信じていて、そのことを改めて思い出しました。

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