第38話 オー君の世界の現実は厳しそうです……
定期的に世界を襲うという
しかしその正体はオー君を派遣した宇宙統合管理政府が造った兵器だった。
私達を、私達だけで殺させ、殲滅するための環境に優しい兵器。
……優しい兵器?
そんなのあんまりだ。それはもう私達を人として見ていないって事じゃない!
それにその兵器が使われた事でもう一つの事実が明るみに。
オー君もがその兵器同様、私達を殲滅する為に送られた存在だったという事だ。
「……そっか、そうだったんだね。そんな事も知らずに私は君を呼んでしまった」
そんな話をオー君自身から聞かされ、たまらず落胆してしまった。
それでとぼとぼと彼の傍へ歩み寄り、そっと手を添える。
「なら君はこれからどうするの? 私達を、殺す?」
こんな事は考えたくなかった。どこかオー君に期待したい想いがあったから。
彼ならきっと『否定』とかいって、私達のために戦い続けてくれるんだって。
でも彼はそんな人情家じゃない。機械だから。
目的のために戦い、遂行する。
そこに彼の感情なんて関係ないんだ。そんなものは彼にはないのだから。
『否定』
……え?
『今の話はあくまで推測に過ぎず、その推測だけで当機の行動原理が変わる事はない。正規オペレーターから命令を受諾し、初めて遂行するものである』
「じゃ、じゃあ……」
『現在のオペレーターはマスターパムである。よって貴殿の意志に従い、当機はこれより当該殲滅兵器の即時破壊を推奨する。これによりこの世界から脅威の根源が取り払われ、以後カオスゲイルと呼ばれる現象は起きないものとなる』
う、うそ……オー君が私達に協力してくれる!?
でもなんで!? あなたの命令元がこの世界を滅ぼそうとしているのに!
『また当機が貴殿の命令を受け付けるのは一つ理由がある』
「そ、それはなんですか!?」
『それは当該殲滅兵器が、当機派遣時において〝非人道的兵器〟に分類されていたからである。そのための議論は当時にて解決済み、本来使用はされるべきではなかった』
『しかし実際に使用された事は誠に遺憾である。この事実は当機が批准する宇宙統合管理政府の法から著しく逸脱しており、看過する事は到底できない』
それってつまり、禁じ手を禁じていた人達が使用したから許せないって事?
けどそれってオー君が言うほどの秩序的行動とは思えないんだけど。
そう思い、オー君を見上げる。
すると彼もまた私の事を見たような気がした。視界がまだ共有されているから。
『ただし当機が派遣されてからすでに一六〇〇年ほどが経過している。おそらくその間に政府の法律または兵器運用項が訂正されたものと推測が可能』
「せ、せんろっぴゃくねん!? な、なんでそんなに……」
『それは当機オペレーターが作戦内容の提示を拒み、長期冷凍睡眠へと移行したためである』
「え……」
『当機は僚機四体とともにオペレーター一名を乗せた輸送船を伴い、百年をかけて作戦領域へ到達した。そしてオペレーターは本来であれば命令を言い渡して作戦を実行する予定だったが、当人はなぜか反発していた』
オー君自身にも込み入った事情があるみたいだ。
本来のオペレーターという人もまるで私達を攻撃したくないみたいな感じだし。
気になる……!
『当時の映像記録はアーカイブにある。閲覧を希望するか?』
「うん、お願い」
そこで私は好奇心のままに頷き応える。
するとブレスレットから光が放たれ、すぐに映像が出てきた。
真っ暗な空間の中にある四角い物体を映した映像だ。
その中には一人の人間が呟きながら動いている姿も見える。
『マスターグエス、次の命令を求む』
『嫌だ! もううんざりだ! 人間を殺して滅ぼす事だけが俺の人生なのか!? そんな非道な事のために派遣されて、しかも終わったらそのまま投棄だと!? そんなの絶対に嫌だ……! こんな箱の中だけで一生を終えるなんてまっぴらごめんだ!』
その人は箱の中で興奮しているようだった。
『マスターグエス、次の命令を求む。それが貴殿の使命である』
『うるさい黙れ機械ごときが! こんな箱に詰められて強制的に送り出されて、命令を遂行した後はお役御免、ゴミのように棄てられる! こんな事があってたまるか! 俺はお前達と違って生きているんだ! そういうなら生きている実感を俺にくれよぉ!』
『その命令は当機らには遂行不可能』
そうか、この人は箱から出られないんだね。
しかもそこまで広くない。だからとても窮屈でたまらないんだ。
『……当該宙域は次元ワープ航行では到達できない特殊歪曲領域に存在するため、どうしても物理移動が必要であった。そのため当オペレーターは宇宙統合管理政府の命を受けて出立したものである。ただし目的遂行後のオペレーター管理は当機らの命令項に含まれていない』
「そっか、だからこの人は嫌なんだ」
『その理由の説明を請う』
「こう悪態はついているけどさ、この人は多分君らと別れたくないんだと思う。だって作戦が終わったら会話する人がいなくなるでしょ?」
『把握』
そうだね、この暗くて狭い空間に一人だなんて私だって絶対嫌だ。
すぐに気が狂っておかしくなってしまいそうだもの。
ああ、外はとても広そうなのに、どうして出てはダメなのだろう?
『マスターグエス、次の命令を――何をしているのか?』
『俺はもう寝る! お前達じゃ起こせないから諦めろ!』
『マスターグエスの冷凍睡眠開始を確認』
『しかし物理的にアクセスが不可能な状態である。これでは当機らによる干渉は不可能』
『睡眠設定期間は一五〇〇年』
『了解、合わせてこれより当機らもスリープモードへ移行する』
なるほど、これで一五〇〇年が経過したって訳なんだね。
そんなに長い時間眠れるのもすごいと思うけど。
「それで眠ってる間に例の殲滅兵器が使われたって事なのかな」
『そう推測する。経年単位はあくまで当機ら側のものであり、こちらとは異なる。ただし法律の改定と投入までの期間、当該惑星への施行期間を考慮すると妥当と判定』
「そっか、その事はもう覆りそうにないね」
『肯定。しかし先ほど述べた通り、当機は貴殿の命令を最優先とするものである』
「わかった。それならお願い、私達に力を貸してください」
『了解。これより当機の目的は集態性変遷殲滅兵器ディボルタの破壊と設定する』
なんにせよ今は感謝しよう。
オー君が私達に力を貸してくれる、それだけでとても心強いから。
そう勇気をもらえた気がしたから、いつの間にか俯いていた顔を再びオー君へ見上げさせる。
するとふと、空に何かが動いているのが見えた。
「……おおーい! パム~~~!」
「えっ?」
あの羽ばたきはワイバーン?
そうなるともしかして、あれは――ええっ!?
あれってやっぱりウルリット先輩だ!
どうして!? なんでこんな所に!?
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