第41話 世界は滅びを求めていません

「おお、なんと邪悪な」

「体が黒く染まっていく」

「闇の炎に囚われた!」

「魔王だ、魔王が顕現するぞ!」


 この世界を滅ぼします すべてを破壊します

 プログラム実行、当文明的厄災への進化


 それが私の目的、使命


『――FAモードへ移行』


 無駄です 私はあなたのマスターです

 破壊は不可能 よってあなたの行動は無意味


 私を掴もうと無駄 何もできません

 なのに何をする気ですか


「あ、ああ、あなたの、行動は、むむいみ」

『外套装甲システム、強制連結システム作動』

「――あがッ!?」

「おお、なんということ」

「魔王の種子を鉄のつぼみの中へ突き刺した!?」

「なんて痛々しい!」


 あ、あ、いったいなにを

 う、ああ、意識が、薄れ――ていく。どうして? なんで?


 一体何が、起きているの……?


『……対魔法ワクチンプログラム、正常に作動。間に合った事は幸運である』

「ワク、チン……?」

『貴殿より魔法の話を聞き、その概念を基に同期システムを構築開始した。その結果プログラム的な魔法介入システムが完成し、現在に至る』

「じゃ、じゃあ私の身体は……?」

『現在正常化に向かっている』

「なんたることか!」

「魔王の気配が消えていくぞ!」

「奇跡じゃ!」


 あ、でもわかる。

 私の中にいた別の何かが、消えていくのがわかるよ。

 背中はすごい、痛いけどね……これ多分、相当深く刺さってる、よね。


 ああでも、その痛みも少しずつ消えていく。

 不思議、何が起きているのかさっぱりわからないのに。


『ただし当プログラムは未完成である』

「それって、どうなっちゃう、かな?」

『魔法性魂魄は消滅可能と推測。しかし機械的介入のため、貴殿の体をワクチンに適合するよう改造する必要があった』


『よって貴殿は今より、人とは言えない存在となる』


 ……そっか。

 でもまぁいいかな、これで完全にカオスゲイルが終わった訳だろうから。


 そう思うと不思議と心が軽くなっていく。

 まるで役目を果たした終えた後みたいに。


『否定。貴殿の精神は現在、システム的処理が行われて最適化されているため極度の安定状態にある』

「え? なんで私の考えが?」

『システムを通して思考を検出している。今の貴殿は外套装甲システムを介して当機と同期しているためである』

「ああそうなんだ。じゃあ一つになったんだね。あははっ、私の初めて、オー君に取られちゃったなぁ」

『……』

「でもいいかな、オー君となら」


 精神状態が安定しているおかげか、どんな事でも軽口に思えてしまう。

 本当ならオー君を愛してあげたいけれど、今の私では無理かもしれないね。


「オー君のした事にはすべてに意味がある。私はそう信じているから何も思わないよ。別に人じゃなくなったって構わない。だって私は私だもの」

『肯定。そして貴殿の寛容さに感謝する。当機はマスターパムに対し、著しい損害行為行った事は事実ゆえに』

「うん、もちろん――ううっ」

『!?』

「ああ、ちょっとごめん。やっぱり思ったより辛いやこれ」

『大変申し訳なく思う』

「らしくない事言っちゃってさ」


 何が辛いって、背中に刺さったアダプタがきついとかそんなんじゃない。


 今でも体が作り替えられているってわかるんだ。

 何かが体を巡って、肉ではない何かにされている。

 そうして隅々にまで改造を施す事で全身から魔王の魂を消し去るために。


 でも進んでいくにつれ、なんだか少しずつ頭が回るようにもなってきた。

 多分これはオー君と繋がる事で彼の思考力を得続ける事ができているから。


「今ならわかるよ、オーヴィウヴトTQH98-F33JL-0002151。私はパム=ウィンストリンでありながら君でもあるのだと」

『肯定。貴殿とリンクする事で当機の思考性能もまた貴殿のものとなる』

「そう、そしてこれは召喚騎士と従者の繋がりと同じ」


「つまりこの外套装甲こそが私の騎士鎧衣なのですね」


 だとしたら私は幸せです。

 これでオーヴィウヴトと真に繋がる事ができたから。

 色々と思い残す事もあるけれど、これならきっと私が懸念していた事もすべて解決できるでしょう。


『ではマスターパム、次の命令を求む』

「わかりました。ではオーヴィウヴトTQH98-F33JL-0002151に命令。私、パム=ウィンストリンを当該世界より脱出、宇宙空間へ誘いなさい」

『了解』


 お父さん、お母さん、兄妹達。

 ヒューデル君、コルタ君、ラライさん、フィヨン君。


 そしてウルリットさん。


 ごめんなさい、私はやはり戻れそうにありません。

 約束を守る事もできず、大変申し訳なく思います。


 ですが後悔はありません。


『外套装甲に謎の形状変化あり。解析不能』

「安心してくださいオーヴィウヴト、これは私の魔法とあなたの技術を組み合わせた変形魔術です」

『変形魔術!?』

「今、私が構築した魔法です」


 外套装甲が折りたたまれ、収縮し、私の中へとやってくる。

 そうして同化し、混ざり、すべてが同期する。


 その末に私は金属装甲を纏った一人の生体マシンとなったのです。


「それでは行きましょう」

『了解、では――』

「あ、待って」

『……なにか?』

「その前に、過去の私への贈り物をいたします。無くてはならない贈り物を」

『魔法は過去にも干渉可能か?』

「いえ、ただあなたの世界と時間軸が若干ずれているので可能かと思いました」

『貴殿の思考は今となっても不可解かつ非論理的である。しかしそれもいつか常識となる事を願ってやまない』

「機械のあなたに願われるのはとても喜ばしいですね。……はい、これで終わりました。きっとほんの数か月前の私に奇跡が訪れる事でしょう」


 そう、これはなくてはならない奇跡。

 これがなければきっとこの世界は救われなかった。


 その始まりは、私自身だったのですね。


「ではよろしくお願いします」

『……』

「オーヴィウヴト?」

『了解、それでは当機はこれよりオーバーロードバーストを敢行する。その後の貴殿の活躍に期待する』

「ありがとう、そしてさようなら、オーヴィウヴト2151」


 すべての準備が整った今、オーヴィウヴトが私を掴んで空へと舞い上がる。

 ずっとずっと高く、それでいて今まで以上に速く。


 そうして重力波帯へと突入した途端、その中での飛行を始めた。


 この世界からの脱出方法は唯一、この境目から弾かれる事。

 しかし生半可な速度や力では世界そのもの圧力に負けて引き戻されてしまう。


 だからオーヴィウヴトは私を送り出した直後、自爆したのです。

 その爆発的エネルギーが私を宇宙空間へと放り出すただ一つの方法だから。




 おかげで私は宇宙空間へと脱する事ができています。

 だからオーヴィウヴトTQ――いえオー君、あなたの犠牲は絶対に忘れません。

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