最終話 宙に還り、私は世界に愛を広めましょう
『オーヴィウヴトTQH98-F33JL-0002151の信号を確認』
『僚機の帰還を歓迎するものである』
『なおオペレーターは現在も睡眠中』
『情報共有、2151のフォーム変更の理由を把握した』
『わかりました。あなた達は命令まで待機なさい。後は私がやります』
『『『了解』』』
宇宙へと辿り着いた私はすぐにオーヴィウヴトの僚機達と合流を果たした。
なるほど宇宙は空気がなかったのですか。これでは外に出られませんね。
しかし今の私なら空気は不要。
太陽光や二酸化炭素、それと人からの愛があれば多少なりに。
そして人型でもある以上、人向けの居住ポッドにも入る事ができます。
「オーヴィウヴトの情報を頼りに気圧制御開始。……居住ポッド内部へ侵入」
人の身体は脆弱で、それは異世界の人でも変わりません。
こうして本来あるべき生活環境に合わせてあげなければならない。
このポッドの中身もそう。以前の私でも住めそうな環境です。
そんな中に一人の男性の眠る睡眠装置がありました。
ただし彼が改造したと思われる物理的破損を確認、修復開始。
……いえ、やめておきましょう。直接起こせばいいだけですから。
そこで装置を直接操作し、睡眠状態を解除する事にしました。
そうしたらさっそく眠っていた人が目覚め始めていきます。
「う、うう……もう一五〇〇経って――えッ!?」
「おはようございます、マスターグエス。気持ち良く眠れましたか?」
「な、なんで女がここにいる!? 一体いつ乗ってきた!?」
「たった今しがた。私の名前はパム=ウィンストリン。あなたが滅ぼそうとしていた世界の住人です」
「なっ!?」
やはり驚きを隠せない模様。
起きたばかりだから無理をしないでほしいのですが。
「あ、そ、そうなると俺は何故起こされた?」
「起こしたかったから。話したかったから。いけませんでしたか?」
「い、いやそういう訳じゃないけど……」
でも戸惑いを隠せないようだからそっと頬を撫でてあげました。
そうしたら喜んでくれたようで、微笑みと共に精神が安定値に。
「だけど俺、お前達を滅ぼそうとして」
「事情はすべてオーヴィウヴト2151から聞きました。あなたが一人で苦しんでいる事も」
「あいつが……!?」
「それに彼が助けてくれたおかげで私達の世界は救われたのです。それは単に、あなたがこの世界を壊す事に躊躇してくれたから」
「だからあなたに感謝したくて、とうとうここまで来てしまいましたっ」
あとはその想いのままに彼へと抱き着き、抱擁する。
少し汚れているかもしれませんが、それは後で洗い流すとしましょう。
ただ今は想いを伝えたい、愛を伝えたい、その一心で尽くそうと思います。
「そこであなたに一つお願いがあるのです」
「俺に? なにを?」
「まずはどうか、作戦をオーヴィウヴト達に通達してください」
「え!? でもそんな事をすれば――」
「平気です。何も問題はありません。さぁ」
「わ、わかった……じゃあ〝全機へ通達。これより境界断裂性世界の壊滅を指示する〟」
『『『了解、命令を受託』』』
『『『……任務完了。これより当機らはマスターグエスのオペレーター登録を解除、以降はマスターパムを新しいオペレーターとする』』』
ありがとうございます、グエスさん。これで僚機全てが私の指揮下に入りました。
まずは一つ目の目的を遂行完了。
『システムオーバーライドを確認』
『プログラム修正完了、これより全権限をマスターパムへ移譲』
「い、一体何をしたんだ!?」
「なんて事はありませんよ。ちょっとした実験みたいなものです」
このシステムを有している限り、私の魔法でプログラムハッキングは容易。
それと亜種のシステムもオーヴィウヴトの知識を素に対策可能。
それがわかっただけで充分ですね。
「それで君の本当の目的は、なんなんだ?」
「それはきっとあなたが願う事と同じでしょう」
「え……」
「私は愛を伝えたいのです。この宇宙すべてに。そこにはあなたが自由に生きられる世界の構築も含まれています」
「俺が、自由に?」
「はい、こんな箱の中ではなく、人として生きる事ができる世界への回帰を」
「そのためにもどうか、協力して頂けませんか?」
私の願いは嘘ではありません。
不要だから壊すなどというくだらない考えそのものを無くしたいだけ。
すべての命に、平等に生きられる世界が欲しい、ただそれだけなのだから。
それこそ私の元いた世界を真に救う方法だからこそ。
「……わ、わかった、その代わり条件がある」
「なんでしょう?」
「俺を愛してくれ。俺に愛されてくれ。そうしてくれるなら俺は君に尽くす事を誓う」
「ええ、もちろんですっ。愛し合いましょう、心行くまで!」
そのために私はここまできた。
すべての生物に愛を、生きるために心を。
まずはそのための第一歩として、彼とも愛し尽くしましょう。
――そして無音の宇宙空間の中で私達はまぐわり続けた。
ただ思うがまま獣のように、それでいて本能さえも越える勢いで。
そんな中で居住ポッドもオーヴィウヴト達もまた航行を開始していたのです。
ただ一つの目的を達するために、私達の正しい未来のために。
さぁ参りましょう、私の愛をこの宇宙すべてへと届けるために。
『これより次の作戦行動に移る』
『目標、宇宙統合管理政府、中芯核コントロールセンター』
『到達はおよそ百年後』
『――目的、宇宙統合管理政府の完全消滅』
完
うちの従者は意思疎通が難しい!~見習い召喚騎士の私が呼び出した従者は超ド級のSランナウェイ級的存在でした~ ひなうさ @hinausa_fatff
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