第3話 再召喚、開始ですっ!
先輩騎士の言葉に励まされた私はそれからすべてを全力で打ち込んだ。
言われた通りにいびりを無視するまではできなかったけれど。
それでも気にも留めずに授業を受け、次のチャンスを確実にしようとした。
修練値とは知識を深める事で得られるもの。
それが必要な規定値へ達する事で召喚行為が行える。
だから私は授業を熱心に受け、すぐに不足修練値を補えた。
もうすぐ終学日だから色んな先生が手すきなのが幸いだったみたい。
そして終学日まで残り一ヵ月となった今日。
ついに私に最後のチャンスがやってくる。
「パム=ウィンストリン、前へ」
あいかわらずと薄暗い召喚専用部屋。
一目では見きれないほどに大きな転送魔法陣。
その中で私は先生に呼ばれ、魔法陣の上へと歩み行く。
「おや、その前髪は……」
「き、切りました。その方がいいと思って」
「そうか、いい気概だ。なら後は自分を精一杯出しきってきなさい」
「はいっ!」
元気強く挨拶したら先生は驚いていた。
まぁたしかに、散髪に行くお金もなくて自分で髪を切ったからみっともないけども。
でもそんなの関係無い。
今は目の前の事だけに集中するんだ。
「それでは召喚儀式、開始!」
先生が魔法陣の外側へと離れ、大声で合図する。
すると同時に魔法陣のラインが赤紫に輝き始めた。
「ふぅ、ふぅ……最後まで、諦めないでいこう!」
私もそれに合わせ、腰に携えた模造細剣を抜く。
そして気持ちを込め、そっと目線に合わせて水平に構えた。
するといつも通り、剣先に光がともる。
私の魔力と魔法陣の力に惹かれ、契約紋を記す準備ができたのだ。
今までの失敗が記憶に蘇る。怖い。
だけど大丈夫。
私にはできる。
今日までしっかり練習してきたんだから。
だから、恐れない!
「――召喚演舞、八契節。〝君、我に忘るる事なかれ〟」
その想いのまま題目を述べ、切っ先を水平に切る。
すると周囲から曲が微かに流れ始める。
演舞のために昔より語り継がれた召喚儀曲の一節だ。
その中で私は想いのままに剣を走らせながら一心に踊り、歌い始めた。
≪焦がれゆく世に 憂いゆく世に 涙なくして 君を語らん≫
切っ先で宙に文字を刻むんだ、合奏指揮者のように。
魔法陣に沿って舞い踊るんだ、民謡舞踏者のように。
≪夢を悟る世界 虹に浸る世界 我は逢いにいくよ その大背に乗りて≫
無我夢中となるにつれ、イメージが脳裏へ歌と共に流れてくる。
いつかワイバーンに乗って先輩騎士と見た雄大な夕日が、空が。
≪赤く割れる大地 黒く染まる海 なんという絶望に 苛まれようとも≫
ズレた手拍子が聴こえたけど関係無い。
私の心によぎる想いはそんな事じゃもう、止められないのだから。
≪いつかこの大背で 共に生き
「……間違えたか、今回もダメかもしれんな」
間違えてもいい。失敗してもかまわない。
最後まで、やりきるんだ! 全力で!
≪共に大地に沈もうとも 共に海に縛られようとも 我は決して離さない≫
不意に涙がこぼれ、浮いた召喚文字に混ざって灯る。
それでも私は、剣を奮う手も、舞い踊る足も止めない……っ!
あともう少しだから……!
もう少しですべてを出し切れるから!
≪だから共に行こう この世が終わるその時まで≫
そう自分に言い聞かせ続け、ただひたすらに文字を刻みながら踊る。
失敗のたびに溢れる悲壮感を心の中に押し込めて。
求める気持ちだけを歌に乗せて。
そうして奮う剣は、足は、とても軽やかだった。
周りの声も、曲さえも聴こえなくなるほどに。
それでいてただ無我夢中で踊り、願う。
私の夢を叶えてくれる従者の到来を。
私はもう、それだけでもかまわないから!
≪ただ君を想い連ねて 戯れようか 分かつ世界よ≫
「――従者・召ぉ喚ッ!!!」
ただその想いのままに歌を締め、大きく跳ねて中心へと剣を突く。
すると途端に光が魔法陣へ走り、一挙にして強く輝いた。
唸るような起動音が響き渡る。
文字に沿って光が走る。
微弱な振動が場を包む。
転送魔法陣と、私が描いた召喚文字。
その両方が惹かれ合うようにして、交互に輝き光を強めていく。
反応した力がスパークし、燐光をも弾き飛ばしながら。
でも。
「光が収まっていく……」
その輝きはすぐに勢いを失い始めていた。
今までと、失敗した時と同じように。
「やはりダメか」
先生もそう思っていたようだ。
これで本当に終わりなのか、と。
「――ッ!?」
だけど刹那、場が異様な激音に包まれた。
誰もが耳を塞いでしまうような「グワワーン!」とした大音が!
水の中で超巨大な太鼓を叩いたような、それでいてくぐもった感じの!
しかもさらには謎の衝撃波が私達を襲う。
浮かんでいた召喚文字が粉々に弾け飛ぶほど激しく。
その力はすさまじく、気付けば私も先生も吹き飛ばされていた。
それで壁へと打ち付けられ、床に落ち、ついには意識が朦朧に。
それでも気を強く持ち、諦めずに手を突いて立ち上がる。
周りを見ればギャラリーも飛ばされていたようだけど、そんなのどうだっていい。
今はただ、目の前に浮かぶ白煙の下へと行かなきゃ。
歩け、進め、雷光が弾けるあの場所まで!
その先を見通すまで、意識を手放す訳にはいかない……!
「――ッ!?」
しかし必死に向かうまでもなかったかもしれない。
白煙の方が次第に晴れていったから。
そしてそれは徐々に姿を晒す事となる。
巨大で黒光りする奇妙な物体。
まるで鉄鎧の包まれたような何かが、そこにすでに佇んでいたのだ。
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