第12話 決闘を申し込まれてしまいました……

 オー君が私をかばってくれたのはとっても嬉しい。

 けどね、オー君。


 魔人エルクをガチギレさせるのは違うと思うの。


 ほらもう今にも戦闘開始しそうだよ!?

 そのあおりだけで私も消し飛ばされそうなんだけど!?


「万が一にもお前を倒せないと言ったなぁ!? なら試してやろうか、俺の誇る最大級の魔法をてめぇにぶつけてよぉ……!」

「エルク、お、落ち着きなさい。乗せられてはいけないわ!」


 そ、そうだよ落ち着いてぇ!


『繰り返す。貴殿の攻撃能力では当機を破壊する事は不可能』


 オーくぅーーーーーーん!!!


「こ、こら君達、それ以上はもうやめなさい! 事を起こせば召喚騎士資格どころの話ではないぞ!?」


 先生も落ち着いて! そう言う割には逃げ腰ですよ!?


「知った事かッ! これ以上ない侮辱に、俺はかつてないほどの怒りを覚えたッ! てめぇをあの岩のように粉々にしないともう気が済まねぇーーーッ!!!」

「「「う、うわあああ!?」」」


 あ、大きな青い炎がエルクの体から湧き出てきた。

 これってもうダメなやつなんじゃ……。


「いい加減になさいエルクッ!」

「――ッ!?」


 でも今の叱責と共に、すぐに炎が縮まって消えてしまった。

 ユリアンテがエルクの頬に平手打ちを見舞ったのだ。


「……すまんユリアンテ、我を見失ってしまった」

「いいのですわ。ワタクシとて怒りを覚えている事には変わりありませんし」


 そうか、これが召喚騎士って事なんだろう。

 パートナーをなだめられる力を持つのもまた責任の一つなんだって。


 そういう意味では彼女も純粋にすごいと憧れるんだけど。


「しかしこのまま引き下がろうなどとはワタクシも思いません」

「えっ!?」


 だけど私にはそう思う余地すらなかったのかもしれない。

 オー君のパートナーであるという責任はそれくらい重かったらしい。


 ユリアンテの鋭い視線が私の心を突き刺してくる。


「よってパム=ウィンストリン、ワタクシはあなたに決闘を申し込みますわ」

「「「えっ!?」」」

「それも訓練生による疑似決闘ではありません。各々のプライドを賭けた正式な騎士決闘を。互いに望む形で決着を着けましょうか」


 でもその代償がまさか決闘だなんて。


 決闘については授業で教えてもらった事がある。

 だけどそれは古くからの慣習で、今は一般民間法があるからそこまで行われていないとも聞いた。


「今は形骸化して久しい決闘ですが、実際には正しく行う事ができます。よってワタクシ、ユリアンテ=ドゥ=シュティエールはパム=ウィンストリンに〝死結決闘〟を申し込みますわ」

「死結決闘!? ユ、ユリアンテ君、それは正式な召喚騎士でないと――」

「問題ありません。今ここで行う訳ではないので。例えばそう、卒業日前日などが最適でしょうね」

「ええっ!?」

「それであれば問題はないでしょう、先生?」

「そ、それはたしかに、そうだが……」


 そんな、先生もすごい狼狽えている。

 先生でさえ恐れる〝しけつ決闘〟って一体……!?


「パムが何も知らないようなのでお教えしますが、死結決闘とは両者陣営の誰かが死ぬまで続く究極の決闘です。ですので正式な召喚騎士でなければ行えない由緒正しき行為なのですよ」

「え……死ぬ、まで!?」

「ですがワタクシ達の召喚騎士資格は実は卒業日二日前より発行されます。つまりワタクシ達は厳密にいうと卒業日の二日前に実質の召喚騎士となるのです。ならばもうおわかりですね?」


「よって! 当決闘は卒業日の前日、瑠璃月の二四日に行うものとします。異論は認めませんわ。よろしくて?」


 卒業日の前日!?

 それって、まさか……!?


「そういう事なら仕方ねぇ。ユリアンテに免じて今日は引いてやる。だが半月後を覚悟していろ。その時はもう容赦しねぇ」

「ではごきげんようパム。せいぜい首を洗って待っている事ね。オーッホッホッホ!」


 わかってしまった。ユリアンテの意図がはっきりと。

 これはオー君の言動を逆手に取った、私への嫌がらせの極致なんだって。


 ユリアンテは意地でも私を召喚騎士にさせたくないんだ。


 ……召喚騎士訓練学校では卒業日までに従者契約を済まさなければならない。

 しかし万が一それが叶わなかった場合、その訓練生は卒業資格を失い、騎士資格も授与されずに退学扱いとなる。


 それに訓練学校は入学自体は楽でも再入学する事はできない。

 人生で一度きりの機会しか与えられない貴重な資格制度だから。


 だからもしこの決闘で負けた場合……召喚騎士にはもうなれない。


 負けてすぐに改めて従者召喚する事も叶わないだろう。

 卒業日を控えていて先生達のスケジュール的にも無理があるし、何より私にはもう再挑戦する資格がないから。

 ゆえにこの結末は避けられない。


 そんな事実に気付いた私は、去っていくユリアンテ達を前にして唖然と眺める事しかできなかったんだ。

 ただ力なくへたり込み、絶望に打ちひしがれて。




 せっかく憧れの召喚騎士になれると思ってた。

 三年間の苦労が報われて、両親や兄妹達にもいい報告ができると思ってた。


 それなのにこんな事になるなんて、そんなのってないよ……!

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