第11話 オー君の煽りが止まりません!

「あいかわらず面白いな、この玩具は」

「せっかくだから試してみましょうか? どこまで醜態を晒してくれるかを」


 抵抗も叶わない。

 呼吸すらまともにできない。

 あの魔人エルクに睨まれた以上、私にはもう生きる事さえ精一杯だ。


 そんな化け物とユリアンテが見下し、嘲笑している。

 悔しい。


 なのに顔も上げる事さえままならない……!


「まぁよそう。俺もそこまで鬼ではないし、教員も見ているのだからな。俺はお前の卒業が決まり、栄光への道が定まるまでは品行方正でいたいのだよ」

「さっすがエルク、ワタクシのパートナーだけの事はありますわねっ、ス・テ・キッ!」

「フフッ、愛するユリアンテのためならどんな事でもしてみせよう。それが真の従者の役目なのだから」

「あっはァ! そうっ、この絆を有するワタクシ達こそ真の召喚騎士とそのパートナー! そこにうずくまるゴミと0点クズのダメコンビとは断じて違うのですわっ!」


 ユリアンテとエルクの高笑いが聞こえる。

 きっと二人の事だ、いつもの勝ち誇った抱っこポーズでもキメてるんだろう。

 もう飽きるくらいに見てきたから、逆に見なくて済んで良かったくらいだ。


 ……ああ、やっと呼吸が整ってきた。

 突然の事でいつもより苦しかったけど、何とか耐えられたみたい。


 できればこのまま穏便に済ませられたらいいな。

 たしかに腹は立つけど、やり返したいとかは思わないし。


 だってもうすぐ卒業なんだもん。

 それまではできれば平和的に行きたいから。


「さて、それでは最後にそこのゴミへ見せつけてやろう。この俺様の実力の片鱗をな。喜べ、そして畏れるがいい。これが最強格である魔人の力なのだと」


 するとそんな声が聞こえ、ふと頭を上げる。

 そうしたらエルクが右手の小指先を掲げていて。


 そんな指先には、青い炎が灯っていた。


「――〝ガド・イクスプロイド〟ッ!」


 そして呪文と共にエルクが指を弾き、炎の玉が景色の向こうへと飛んでいく。

 先にあったのは、近接試験で使われた大岩で。


 その大岩もまもなく一瞬で大爆発、粉々になってしまった。


 す、すごすぎる……。

 あんなちっちゃな炎で岩がああも砕けちゃうなんて……!?


「あっはっは! これが俺様の力だぁ! ……ま、今さら見せつける必要なんてなかったがな」

「ええそうね。もうあなたの実力をわからない者なんていないでしょうし」

「そうだとも。それに俺達はもはや言わずと知れた最強の相棒同士だからな」


 それでまた二人の高笑いが場に木霊する。

 楽しそうに、嬉しそうに。

 

 ……ああ、羨ましい。


 本当は私もこんなパートナーが欲しかった。

 別に強くなくてもいい、せめて気軽に話ができればそれだけでよかったんだ。


 それなのに、どうしてオー君はいつも否定してばっかりなのだろう。

 話もまともにしてくれないし、いっつも噛み合わない。

 本当は私の事が嫌いなのかな。


 なんでなの? 君の気持ちを教えてよ、オー君……。


『異界性生命体、通称・魔人エルク』

「……あん?」

『貴殿の行為は一貫性に欠いている。目的と言動が一致しておらず、行為そのものが一切の無意味である』

「なんだと……!?」


 え、オー君が反論?

 でもこれって、もしかして……!?


『理由その一。貴殿および原生高位生命体・通称ユリアンテの発言はマスターパムの精神的ストレスを発生させるための故意的行為であった。しかし直後には己の名誉のためと自戒を促し、誇示し、愉悦に浸った』

「それの何が――」

『だが他者への侮辱行為は宇宙統合管理政府が定める人格保護法第二一項にある〝人格破壊を目的とした一切の言動の禁止〟に抵触する違法行為である』

「な、なんだそれは――」

『以上からその行動理念の矛盾性は、原始的に例えるならば〝火を見るよりも明らか〟である。よって品行方正という言葉は貴殿には一切当てはまらないと断言』


 まさか、私をかばってくれているの?

 あの屁理屈オー君が、自分から!?


 う、嬉しい……!


「てめぇ……! 好き勝手にベラベラと……!」

『理由その二』

「んなっ!?」

『貴殿は先ほど行った無意味な破壊行為であるが、あのオブジェクト破壊はこれより試験を行う者への著しい妨害行為にあたる。これもまた品行方正には遠い行いである』

「それがなんだって――」

『またその行為そのものにより、この場にいるすべての知的生命体に対し脅威的な威嚇となった。これは宇宙統合管理政府が定める人格保護法第一三項にある〝物理的破壊行為または示唆による人格攻撃の禁止〟に抵触する違法行為に相当するものと判定』

「またそれか!」

『以上から魔人エルクは他者に対し必要以上の脅威性を与える危険生命体であると断定。よってこれより当機は貴殿を有害性の高い害獣と認定する』

「が、害獣、だとぉ……ッ!? この俺を害獣だとおおおッッッ!!!??」


 え、でも待って? オー君?

 そこまで言ったら逆にエルクを怒らせるだけなんじゃ―― 


『なお先ほどの攻撃行動を元に能力レベルを解析した結果、貴殿の攻撃性能では当機を破壊する事は万が一にも不可能であると断定』

「「――ッ!?」」

『よって以後の議論は無意味である。以上、貴殿の論理的思考と知能の向上に役立てた事を光栄に思う』

「ああもういいぜぇ、御託はいらねぇ……! てめぇを八つ裂きにすりゃそれでいいんだからよおおおーーーーーーッ!!!!!」


 いいいい!? エルクめっちゃキレてるゥゥゥ!?

 赤い稲妻走らせるくらいにガチギレしてりゅゥゥゥゥゥ!!!!!


 どうすんのこれ、どーすんのォ!?

 オー君が守ってくれたのは嬉しいけどォ!


 エルクもう完全にブチギレて止まりそうにないんですけどォォォ!?

 ヒ、ヒィーーー! た、たぁすけてェーーーーーー!!!!!

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