第10話 オー君に評価試験は必要ないようです
朝ご飯も食べて元気いっぱい。
これでオー君との能力評価試験もきっとバッチリだと思う。
そんな意気込みで学校へ。
道中で天突くほどに成長した一本の木を眺め、「はぇ~……」と声を漏らしつつ。
それで色々と手続きを済ませ、校内にある野外修練場へと向かう。
以前から戦闘訓練実習でもお世話になった場所だから、もうなじみ深い。
もうすぐここともお別れだと思うとしみじみしちゃうなぁ。
「パム=ウィンストリン、すでに君の従者はこちらに搬入済みだ。すぐに準備し、自分の順番を待ちなさい」
「は、はぃ~」
「ん、なんだ? 随分とテンション低いが、何か嫌な事でもあったのか?」
「あ、いえ、その……ちょっと気分を抑えておかないとならなくて」
「? まぁいい、評価の際は召喚の時みたいにシャキッとしたまえよ」
うう、テンション上げ過ぎるとまた〝香り〟が出ちゃうから。
少しだけ自制を強めにしないと。
……とはいうものの、割と順番待ちが多くて落ち着くだけの時間は充分にあった。
可能な限り評価を上げるためにみんな必死みたい。がんばれー。
『当機がこの場所へ搬入された理由を請う』
「言ったじゃない、今日は評価試験だって」
『当機が評価を受ける意味は――』
「私達はキミの力を知らないから受けるの。ちゃんとやってね?」
『了解、善処する』
あとの問題はオー君の方だけど、こっちもなんとかなりそう。
強く言えば聞いてくれるみたい。よかった。
それで安心していたら、やっと私達の番がやってくる。
「十八番、パム=ウィンストリンと、オー(略)氏」
「は、はいっ」
『当機の略称はオー君でありオーカッコリャクカッコトジルではない』
「もういいからぁ! やるよぉ!」
『訂正を要求する。その名はすでに当機の正式名称を呼称できるに足る長さである』
こ、細かいっ。
すごくどうでもいい所ばかりツッコまないでほしい!
「ではまず遠距離攻撃適正から。手段は問わないのであの目標を君の能力で攻撃して欲しい」
でも先生は慣れているようで、無表情で説明を始めた。
それで指を差したのは遠くにある木製の的。弓の練習でもお世話になったなぁ。
「じゃあオー君、あの的に攻撃しましょう。ここから動かずにババーンと!」
『拒否する』
「えッ!?」
『指定ターゲットは樹木により製造された極めて原始的な物体である。よって当機に搭載された武装を使用する事は非常に非効率的であり、またターゲットの破壊は行動理念に即していない。無意味な行為である』
「評価の意味ーーーっ!!!」
『当機が推測するに、脆弱な当ターゲットを破壊する事が当機の評価に繋がるとは考えにくい。よってマスターパムの命令は妥当性を欠くものと判断、実行するべきではないと独自解釈する』
ちょ、待って、え、待って待って!
この子それ本気で言ってるのこれェ!?
「お、お願いだから、ね? ほら、この弓使っていいからぁ」
『当機が原始的武装を使用する必要性についての説明を請う』
「君が使ってくれないと評価試験がダメダメになるのぉ!」
『必要性についての説明を請う』
「……パム=ウィンストリン、遠隔攻撃の評価0点」
「オンギャーーーーーー!!!!!」
……私さ、オー君が歩くの遅いから、きっと遠距離系かなって思ってた。
だから最初に自慢の力を見せつけられれば最高かなって。
なのにれいてんッ! 0点ってなに!?
さっきまでの遠距離不得意な従者さんでも5点くらいは取ってたよ!?
的に当たらなくても届かなくてもそれくらい手に入るのによ!?
じゃあもしかしてこの後も……?
――その予想は奇しくも正しかった。
私はその後もオー君の屁理屈に何度も頭を抱える事となる。
「次は近距離戦闘の評価だ。あの岩をどこまで削れるか試してくれ」
『質問を繰り返す。当機がターゲットを破壊するに足る明確な理由の説明を請う』
「次は身体能力測定だ。あのグラウンドを全速力で突き抜けて欲しい」
『推測するに、現文明の測定能力で当機の航行速度を測るのは不可能』
「次は耐久試験だ。試験相手の攻撃にどれだけ耐えられるかな?」
『警告。当機に攻撃した場合は最大の反撃を行うものとする』
「つ、次は魔法力試験だ。どんな魔法を使えるか……」
『当機に魔法と呼ばれる不確定概念を出力する装置は装備されていない』
「……最後は知性試験だ」
『これは知的生命体に対する思考テストであり、AIである当機が答える必要性はないと判断』
もうめちゃくちゃである。
とにかくめちゃくちゃにオー君の屁理屈が炸裂し、試験は最悪の結果へ。
「パム=ウィンストリンおよびオー君氏、総合評価……0点」
もう頭が真っ白だよ。
過去にこんな点数取った人いるの? ねぇ誰か教えて?
でも周囲からは答えじゃなく嘲笑が聞こえてくる。
おかげで絶望まみれで思わず膝を突いてしまった……!
お嬢様がいないのにどうしてこんな笑いものに、ピェーーーッ!
こんなのあんまりだよぉ……!
「ウッフフフフ、ほんとあいかわらずザマァないですわね、パム=ウィンストリン」
「――ッ!?」
でもどうやらお嬢様がいないというのはもう間違いだったらしい。
この笑い声、いやらしい声色、まさかもう戻っていたなんて。
それで振り向けば、やっぱり。
「このユリアンテ様が久々に表へと出てきてさしあげましたのに、なんてひどい試験結果を見せつけられたのでしょう。あまりにも抱腹絶倒モノ過ぎてまた倒れてしまいそうですわぁ!」
ああ、嫌な所を見られてしまった。
よりにもよってこの人に。
しかも今回はこの女だけじゃないなんて。
「ああまったくだユリアンテェ~。お前が言っていたこの女、ここまで醜悪な結果を出しておきながらまだのうのうと息しているぞ?」
「そうねエルク、ワタクシ達の力を見せつけた時と比べるともう酷すぎて酷すぎて。これがワタクシでしたらすぐに毒を含んで死んでしまいますわぁ!」
「ああ、この魔人エルクの力と比べればあんな鉄屑などあってないようなものだ。なにせ前代未聞の0点従者などとは、舐めるなと言われても無理だよ……ハハッ!」
魔人エルク。
噂だと総合評価・満点という異常値を叩き出したという化け物。
そもそも魔人の従者を召喚できた事自体が稀なんだ。
聖獣や神獣、大精霊を呼ぶのと同じくらいすごい事だから。
でもそんなすごい存在があの陰険お嬢様の従者だなんて……!
「その程度の召喚騎士見習いが俺の女に手を出した事、後悔させてやろうか?」
そして恐ろしいのはこの魔人の本性。
その凶暴性はどんな従者よりもずっと強い。
殺気を含んだ目力だけで私を過呼吸にさせてしまうくらいに。
「アッ、ア"ッ、カヒッ……!?」
「おいおい、ちょっと殺気を飛ばしただけでこれか?」
「あらあら、この調子でもう一つ脅せば失禁してしまうのではなくて?」
だからユリアンテには逆らえない。
家柄ではなくこの魔人を従えているから。
誰もが報復を恐れてる。
ううん、こんなの抵抗できる訳がない……!
怖い……!
そんな相手に私はとうとう睨まれてしまったみたい。
だからごめんなさいお父さんお母さん。
もしかしたら私、もう生きて帰れないかもしれません。
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