第9話 のびのびと学習できるのは幸せですっ

「ねぇ聞いた? お嬢様がカラフルになってたって話」

「知ってるー! また嫌がらせしようとして失敗したんだって噂だよね」

「ぶっちゃけザマァって感じ」


 最近こんな噂話が学校中から聞こえてくる。

 でも不思議と「誰がやった」とか「何が原因」とかは聞こえてこない。


 きっとオー君が上手くやった結果なのだろう。

 勘付いている子もいるみたいだけど、深くは切り込もうとしないから結局誰もわからないって所かな。みんな目を付けられたくないだろうし。


 ちなみに私はオー君のやった「かうんたーあたっく」の結果を知らない。

 興味もなかったし、これで嫌がらせが止まればいいなって思うくらいだから。

 それに「穏便に」って言ってたからきっと暴力とかはしてないはず。うん。


 だけどその「穏便」はどうやら思っていた以上に効果が出ていたみたいだ。


「――以上で従者に関する座学は終了となる」

「ありがとうございました」


 なんたってあれからもう一週間、その間ずっとお嬢様がいないおかげでのびのびと授業が受けられたんだから。

 あの人、必要無いクセにいっつも私の所に来てはイビってきてたもんなぁ。

 ほんと調子狂ってやり辛いったらない。


「受講者はもう君しかいないからね、進みも早くて私も助かったよ。それで明日からは従者と合同での能力評価試験と、今日までのおさらいを兼ねた筆記試験がある。どちらも資格ランクに影響するから気を抜かないように」

「はいっ!」

「それでだがパム君、良かったらこの後一緒に食事でも」

「では失礼します!」


 ああ、自由っていいなぁ~!

 ……なんかその分、男の先生や知らない男子に誘われる事が増えたけど。


 まぁでもそういうのはあとあと!

 今は召喚騎士になる事だけに集中しなきゃ!


 それにしてもランクかぁ。

 私だと成績が悪いからやっぱりDかE辺りかな。

 さすがに最低のFはないかなーとは思いたいけど、ちょっと怪しい。

 オー君の戦闘能力次第になりそう。


 ううん、あのオー君だからもしかしたらすごい事するかも?

 ドバーン、バキーンってやっていきなりB級とか! ……ないよねーさすがに。


 そんなありもしない妄想に浸りながらオー君の下へと訪れる。

 しばらくお嬢様がいないおかげでこっちの方も平和だ。

 光合成を行う姿(?)がとても凛々しいですっ!


「ごめんオー君、私もう寮に帰ろうと思ってるんだけど」

『了解。では当機もスリープモードへ――』

「あ、待って」

『なにか?』

「これこれ、とっておきの栄養剤アンプル買ってきたの! 魔導生物学研究所お墨付きの逸品! オー君が喜んでくれたらいいなって思って」

『成分確認、植物用の成長促進化合液であると判定。当機には不要である』

「ええーっ!? 高かったのにぃ!」


 ショック!

 じゃあこれどうすればいいのかな……。


「まぁいいや。それにしてオー君ってすごいよね、見ただけで何でもわかるって」

『当機には遠離対象式精密分析システムが搭載されている。作戦領域において標的が偽装している場合、その正体をラグなく解析・即消去を可能とするためである』

「ふ、ふーん……(またよくわからない事を)」


 仕方ない、栄養剤は街路樹にでも刺しておこっと。


「じゃあそういう訳で」

『ではスリープモードへ――』

「あ、そうだオー君」

『……』

「明日、オー君の能力試験があるから協力してね」

『戦闘力の試験は試作機の性能評価にて実施済みのため無意味である。当機の戦闘力は――』

「あーはいはい、御託は良いから~! じゃあ明日よろしくね~!」

『……マスターパムの音声到達距離外への移動を確認、スリープモードへ移行』


 こうして私はまたオー君と別れ、帰路に就く。

 前よりもずっとのびのびに帰られてとっても嬉しいな。


 ただ今日はちょっと帰るのが早いから夕日は見れそうにない。

 あの夕焼けを見てからというものの、いつもあの橋から夕日を眺めるのが日課になっていただけに残念だ。


 だけどもう平気。

 今の私にはそれに悔いるような弱さはもう残っていないから。

 ううん、ちょっとはあるだろうけど今ならグッと我慢できそう。


 だって今はオー君がいてくれるから、それだけで私はもう登り続ける事なんて何も怖くないんだもの。




 ――そんな風に気持ちを昂らせながら夜を迎え、そうして気が付けばすぐ朝になっていました。ぐっもーにん。


「あっ」


 でも気持ち良く寝すぎたようで、寝過ごしてしまっていたみたい。

 慌てて服を着替えて寮の一階、食堂へと駆け下りる。


 寮長は優しいけど時間に厳しい!

 ご飯の時間も決まってるから、遅れたら何も食べさせてもらえない!


「まままだ間に合いますかーっ!」

「あらぁパムちゃん良かったわねぇ、あと十三秒あるわよぉ?」

「それじゃ食べきれる気がしませぇん!」


 それで急いだ結果は滑り込みほぼアウト。

 私の脳内に「チーン」って金音が鳴り響く。


「でもやっと従者召喚に成功したし、今日くらいは大目に見てあげるわ」

「えっ!?」

「ほら早くしな、でもゆっくり噛んでお食べよ」

「あああありがとうございまつっ!」


 でも寮長、さすがお母さんみがあって優しい!

 ああ、オー君が呼べてイイコト尽くしだよぉ……!


「でもね、身なりはしっかりしな」

「へっ?」

「お尻、パンツ見えてるよ」

「あ……えへへへ」


 しかしその代償はあまりにも大きかった。

 どおりで男子達がみんな私を見ていた訳だぁ~……。


 でも振り向いた途端に目を背けたらバレッバレだよぉ? まぁもういいけどさ。


 そんな訳で恥ずかしがりながらも朝食をいただく事に。

 しかも寮長さんの計らいでいつもよりなんか多め。役得!

 ただし気付けば周りに男子が集まってる気がする。あと鼻息の音もすごい。


 うーん、私に近寄ってもいい事ない気がするんだけども。

 まだお嬢様が面倒だし、お父さんの立場なんて全然利用できないし。


「なんかね、パムさんがユリアンテお嬢様に一矢報いたって噂が立ってるんだよ」

「ええっ!?」


 そんな中で話し掛けてくれたのは丸眼鏡のコルタ君。

 こうやって話すのは久しぶりかもしれない。二年ぶりくらいかな?


「あの人、君だけじゃなく僕達にも当たりが強かったからね。だからそんな噂もあって真相を気になってる人が多いんだと思う」

「そんなぁ、私はそれほどの事はしてないのに……(って信じてる)」


 そういえば彼はこの寮に入ってすぐの頃もこうしてよく話してくれたっけ。あの頃はまだちょっと楽しかったな。

 以降はずっとお嬢様の攻撃が激しかったから敬遠されていたけれど、私としては事故みたいなものだと思っているから別段気にしてはいない。


「それにさ、ほら、最近君、その、が強いっていうか」

「えっうそっ!? ホントに!?」

「う、うん」


 あ、あちゃあ……最近必死になりすぎてたからかなぁ。

 気付かない内にが効かなくなってたんだ。

 ちょっと気を付けないと……。


 ありがとう、そしてごめんねコルタ君、股間を大きくさせちゃって。


 それにしても、どおりで最近やたらと男の人が寄ってくると思ったぁ。

 体質って嫌だなぁ、ホント。




 そんな訳で私は一層気を引き締めて試練に挑む事になった。

 今日はオー君の能力評価が待っているんだから、いつも以上に張りきらないとね。

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