第8話 仕返しされるなんて聞いてませんわ!(ユリアンテ視点)

 アッハハ! 先日はとても愉快でしたわ。

 上位生達を行使しての、あのゴキブリへのお仕置きはもう最高。

 その後のアレの情けない掃除姿と言ったら、もう笑いが止まりませんね。


 フフッ、しかしこれで思い知る事でしょう。

 自分がいかに愚かで小さな存在であるか、と。

 奴のようなゴミが栄誉ある召喚騎士になるなどおこがましいにも程がありますもの。


 さて、では今日もアレの鉄屑従者にご挨拶しに行くとしましょう。

 今日もたっぷりと塗料を用意してあげましたからね、ウッフフフ!


「しかし何もユリアンテお嬢様自らがやらなくとも」

「あたち達が代わりにやりますよぉ?」

「いいえ、そういう訳にもいきません」

 

 バッチェルもウェリーもいい子達。

 こうしてワタクシの付き人として存分に働いてくれる。

 これくらいに能があればアレもまだ役立てるというのに。


「あなた達はワタクシの大事な友。そんな友だけに手を汚させるなどワタクシのプライドが許しませんから」

「「お嬢様……」」

「このように汚れ仕事も自ら進んで行う、それが真の貴族というものです」


 フフッ、そう、ワタクシはそこらの名ばかりの貴族とは訳が違う。

 見せかけの権威に綺麗事……そんな物に執着し、汚れ仕事さえできない無能共とは格が違うと言えます。


 ワタクシこそ真の貴族であり、エリートオブエリート。

 どのような事でもそつなくこなすのがその証となるのです。


「ウフフッ、ほら見なさい、奴の鉄屑従者ですわよ」

「あいかわらずあの場所に放置ですね」

「懲りない奴ーっ!」


 対してアレは親が優れているだけの出来損ない。

 成績も能力も最底辺で、生きている価値さえないゴミ。

 お父さまの言う通り、排除するに足ると言える存在でした。


 だからこそ早く処分しなければなりません。


「情報通り、アイツは家に帰っているみたいですね」

「まるで警戒してないじゃん。ウッケるー!」

「自衛を働けるまでの知能はないのでしょう。でしたらさっさと事を済ませてしまいましょうか。その知能がない事を後悔し尽くさせるために」


 せっかくですから奴のお粗末な掃除跡でも見て笑うとしま――


 あれ?

 おかしいですわね、まったく汚れていない?


「ユリアンテお嬢様、準備できました!」

「どっばぁってやっちゃいましょー!」

「え、ええそうですわね」


 おかしい、昨日の塗料は相当なしつこさのはずなのに。

 仕入れ品を間違えて水性絵具にでもしてしまったかしら?


 ……まぁいいですわ。

 なんたって今日の塗料はさらに特別なもの。

 建材に使えば向こう三〇年は剥げ知らずという、昨日のとは比べ物にならない一級品なのですから!

 乾いてしまえば最後、三〇年はカラフルな鉄屑の誕生となるでしょうねぇ!


 そんな塗料をたっぷりと入れたバケツが差し出される。

 それをワタクシを含めた三人で魔法を使って宙へと浮かせた。

 訓練生と言えど上位者であればこの程度の魔法、造作もありませんわ!


 そのバケツがついに鉄屑の頭上へ。


 青、赤、黄、緑、茶、紫……ウッフフフ!

 ものすごい量。これはもうどうなってしまうのかしらっ!


「ではいきますわ。さん」

「に!」

「いちっ!」


 はい、投下!

 アッハハハハハ!!! これでもうドロッドロのグッチャグチャよおっ!!!

 ざまぁみろパム=ウィンストリン! お前の居場所はもうこの学校には――


『汚損実行を確認』

「「「――えっ?」」」

『カウンタープログラム発動。外部装甲プレチェンバー超振動、出力20%で起動』


 そんな、この鉄屑、起きて――


 しかしそう考える間もなく、「バヂャッ!」という音と共に視界が塞がれてしまった。


 その時一瞬見えたのは、塗料が鉄屑から浮かび上がっていた所。

 さらにはその塗料がいっぺんに私達めがけて降り掛かってきた所。


 それで気付けばワタクシ達は地面に倒れていた。

 なんだか全身に違和感を感じながら。


「あ、え、ご、ごれっでぇ!?」

「う"ああ!?」

「に"ゃーーー!」


 と、塗料がワタクシ達にかかっている!?

 そんな、なんでえっ!?


「な、なんどが視界は見え……あ、ああ!?」


 そこでどうなったか確認しようと体を起こそうとした。

 だけど体が、自由に動かないっ!?


「ま、まざがごれ、塗料ががわいでるぅぅぅーーーーーー!!?」

「「ひ、ひいいいーーーーーーッ!!?」」


 手も足も、自慢のお洋服も全部塗料でびったびた!

 しかも乾くのに一時間はかかるはずなのに、もうすでにカッピカピ!

 おまけに口や鼻、まぶたなどにまでかかってしまって、動かす事もままならない!?


「あ、ああ、いだっ、いだいっ!」

「おじょーざまぁ! だずげでぇぇぇ!」

「あああああ!? なんで、なんでえええ!?」


 これじゃ起きる事も叶わない!

 それに瞬きするだけで痛いの! いやああああああ!!!


『最重要兵器である当機への汚損行為は極めて重罪である』

「ひっ!?」

『また汚損に繋がらなくとも、行為を認められた時点で罪状は発生する』

「あ、ああ……」

『よって宇宙統合管理政府が準ずる法律に基づき、執行される刑罰は――』

「やだ、やだぁ!」


『死刑』


 な、なんなのコイツゥッッッ!!!??

 訳がわからない! でもこ、怖すぎるゥーーーッ!!!!!


 ――その恐怖に駆られ、ワタクシは必死で逃げた。

 ただ無我夢中で、二人を踏みつけ蹴りつけてもかまわず一人だけで。

 辱められた、死にたくない、そんな辛い想いに苛まれながら。


 ワタクシはアイツから、それだけの言い得ない威圧感を感じてしまっていた!


 あまりの恐怖に、そこからの記憶は曖昧。

 一目散に自室へと帰り、すぐにお風呂に入って震えて。

 取れない塗料と延々と戦い続けたりもして。


「取れない! 塗料が取れない! ああああーーーーーーっ!!!」


 そのおかげでワタクシは向こう一週間、部屋から出る事が叶わなかったのでした。

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