第7話 オー君は変な所で抜けてます
オー君が動かなかった時は心が折れるかと思った。
だけど私がちゃんと人の話を聞かなかっただけだってわかって良かった。
ダメだな私、ちゃんとオー君の話を聞かなきゃ。がんばろう!
……けど問題はまだ解決した訳じゃない。
どちらにしろ連れ歩くのは無理。
かといって放置すればまた何かされてしまいかねない。
だってあのお嬢様達は校内寮住みで、誰よりも先にここへ来られちゃうから。
だからどうにかしないと。
でも今はとりあえず状況を説明しなきゃだね。
じゃないとまたオー君に悪態つかれちゃうし!
「あのね、君は眠ってる間にイタズラされたの。塗料でべっちゃりだったんだから」
『外装部状況チェック――軽度の汚損を確認、またマスターパムが汚損部の洗浄作業を行っていたとされる記録映像あり』
「うん、朝からずっとがんばってね、やっとここまで取れたんだ」
『状況把握。しかしこの行為は無意味である』
「ええーっ!? なんでーっ!?」
『マスターパム、五歩ほど離れる事を推奨する』
「え、あ、ちょっと待って」
せっかく掃除してあげたのに無意味だなんて! もう!
とはいえなんか意味ありげだし、言う通りにして離れてみよう。
『外部装甲プレチェンバー超振動、起動』
「なっ、ちょっ!?」
すると途端、「ブオンッ!」って変な音が鳴った!
あ、でもそれと同時に汚れが一瞬で消えちゃった!?
粉みたいに散って取れていっちゃったよ……。
『軽度の破損は修復機能および除去機能により即時修繕が可能』
「そ、それを先に言ってよぉ~!」
『指令がない限り当機は提言する事しかできない。外部装甲プレチェンバー超振動機能も、マスターパムの意図を汲んで実行に足る指令と認識したからである』
「なら先に起きよう!?」
じゃあこれって、私の半日が無駄だったって事!?
そ、そんなー。
「はぁ~……もういいや、疲れたぁ」
気が抜けちゃったのか、思わず尻餅をついてしまった。
でももういいか、オー君が無事だって事がわかっただけで。
――あれ、でも待てよ?
「そういえば今さっき私の記録映像があるとかなんとか言ってたけど、それってどういう事?」
そうだ、さっきオー君はしれっとなんかそんな事言ってた。
どういう理屈かはあいかわらずわからないけど。
『当機はスリープ中であろうと周囲の映像を逐一記録している』
「すっご……じゃあそれってもしかして」
『汚損実行犯の映像もあり。実行犯は総勢一七名。内三名は常に常駐。この三名は他の人物に指示を出していたと断定』
三人……だとするとやっぱりあのお嬢様を筆頭にした三人組かな。
いつもつるんでいるからそれだけでもうわかる。
ただその映像というのが見れないと証拠にはならないよね。
『当映像はマスターパムが左腕に装着している腕輪型機器を経由し、投影する事が可能』
「えっ!? これで!?」
この左腕に付けたブレスレットは昨日、召喚成功のしるしとして学校から貰ったんものだ。
聞くとなんでも、自分と従者のコンディションをいつでも閲覧できる魔法のブレスレットらしいけど。
「でも魔法ってオー君は理解できないんじゃ」
『当機器は精神性感応物質による思考介入型インテリジェンスモジュールである事が解析で判明。しかし極めて原始的であり、当機によるプログラム介入・改良は容易である』
「はぇ~~~……」
『当機器へのアクセスを開始。システム掌握完了。一部用途不明の機能はあるが支障はなし。アップデート開始――完了。これで当機保存の映像が閲覧可能となった』
「えっとじゃあ、ポチッと……」
そのブレスレットを試しに触れたら空中に映像が投射された。
ここまでは昨日と同じだから良かったのだけど。
「あ、なんか項目が一杯増えてる!? ってか増え過ぎ!!!」
なんか選択項目数がとんでもない事になってる。
昨日は「ステータス」、「スキル」、「ヘルプ」の三項しかなかったのに!
『追加分は全部で二九一項あり』
「想像を絶する多さ!」
『それらすべてが当機の機能操作および説明である。説明項は後来のため習熟・全記憶を推奨する』
「何日かかるかもわからない!」
どさくさに紛れてなんて事しちゃったのぉ!?
これでブレスレット壊れちゃったらどうしよう。買い替え高いって聞いたし。
「と、とにかく映像を……あ、これかな――あった!」
とりあえず気を取り直して探してみたら、すぐに映像の項目を発見。
それでさっそくと開いてみたら、例の彼女達の映像も見つかった。
観てみたらやっぱりユリアンテお嬢様だ。
取り巻きの二人と揃ってニヤニヤしてる顔が気持ち悪い。
きっと自分達だけでやるだけじゃ飽き足らず、校内寮の人にも命令してこんな事をさせたんだろうな。
……それにしてもこの映像、どう見ても動いてるよね。
写真かと思ったら違うんだ。これどうなってるの? 声まであるけど?
けどああ~~~この顔を見たらなんかイライラしてきた。
今までは我慢してきたけど、我慢にも限界があるよ!
「こうなったらいっそ抗議して――」
『提案』
「えっ?」
『対象がマスターパムの抗議を受け入れる可能性は極めて低い。ならばより威力的かつ合法的手段を講じる必要性があると判断』
『よって当機に最も穏便かつ最大効率の対策案あり』
だけどこの時、不思議とオー君の提案が頼もしく感じた。
この鉄鎧の奥で不敵な笑みを浮かべている、そんなイメージが湧いてきて。
だから私はオー君を信じ、託すことにしたんだ。
彼ならきっと言った通りにできるって信じられたから。
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