第24話 帰郷する事になりました

 オー君の知識を深める事に夢中だったからか、気付けばもう夕方となっていた。

 でもそこでオー君も体調が戻ったようで、ひとまず帰還する事に。

 理屈はわからないけど、高高度飛行しなければ調子を崩す事はないそう。


 そこで退寮の準備もあるからと直接寮へ帰還。

 すでにひと気の乏しくなった寮で私は必死に荷物を片付けた。


 そのおかげですべてが終わった時はもう夜中。

 でも泊まるところを用意していなかったからと、寮長の計らいで今日だけは泊まっていい事になった。


 ――そして翌日。


「それじゃあ改めて、今まで本当にお世話になりました!」

「うんうん、これからも頑張るんだよ。もうあたしはいないんだからね、負けるんじゃないよぉ?」

「はいっ!」


 最後に、今までお世話になった寮長へ心からの挨拶を。あと昨日の猪肉もプレゼントする事にした。

 他の荷物もまとめてオー君にくくり付けてあるし、移動の準備も万端だ。


 ……昨日あんな事があったから、この街で働こうなんて気はもう起きない。

 それに嫌な思い出の方が多いし、居座り続ける理由なんて無いだろう。


 だから私はひとまず実家に帰る事にしたのだ。

 卒業も果たしたし、独り立ち前に積もる話もしたいから。


 それなので寮長と別れた後には一人でマルット君とナザリーさんのお店へ。

 軽く別れの挨拶を済ませ、再びオー君の下へと戻った。


 どうやら二人いわく、コルタ君達ももう旅立ったそうな。

 もう二度と会えるかもわからないのに昨日ちゃんと別れの挨拶をしなかったのは失敗だったかもしれない。残念。


 そんな後悔に頭を悩ませつつオー君へと跨る。

 するとまたしても景色が一瞬で空中へと変わり、すぐに水平飛行へ。


「ちなみにどれくらいで着きそう?」

『到着まであと二分』

「早いよ!? 普通に馬車とかで行ったら二日はかかるのに!」


 でもその速さのおかげで、そうこう話している内にもう着陸。

 それで降りて見回せば見た事のある景色が周囲に広がっていた。


 故郷の高原だ。

 この清々しい空気が三年ぶりで本当に懐かしい。


 それに丘の方を見ればよく知る家の姿も。そう、あれは我が家だ。


 それでいてもたってもいられなくなり、走って向かう。

 数日前には「もうすぐ帰ります」って手紙も送ったし、家族もきっと首を長くして待ってくれているに違いないから。


「ただいまーっ!」


 それなので帰ったら元気に挨拶だ!

 ……と思ったのに居間には誰もいない。


 ただその代わり、奥の方から物音が聞こえてくる。


 それも肉を激しく叩くような音が何度も何度も。

 あと耳をすませば喘ぎ声も聞こえてくるし。


「ああもう、またあの二人は……」


 何が起きているのか察してしまって、つい頭を抱えてしまった。

 せっかくの長女の凱旋帰還なのに、あろう事か醜い喘ぎ声で迎えるなんて。


 だったらと思いっきり息を吸い込み、お腹に力を溜める。そして――


「たっだいまあああーーー!!!!! 長女のパムが帰りましたよおおおーーー!!!!!」


 大声で叫んでやった。


 そうしたらすぐに奥で「ドッタンドッタン」と転がり落ちるような音が。

 しかも間も無く「ドタタタ」と駆けてくるような足音まで。


「おおーっ! パム、帰ってきたかーっ!」

「ああーん、パムちゃん久しぶりぃ~~~!」


 すると案の定、両親の二人が揃って現れた。

 それもご丁寧に致していた姿のままで。せめて下着くらい着てこいっての。


 ――だなんて呆れていたのも束の間、一瞬でお母さんが私の前へ。


「んん-ーーっ!」

「んもっ!?」


 それで有無を言わさずいつものご挨拶。

 頬に、だとかそういうレベルではなく口へ直接。

 直後に「じゅぼるるる!」なんて下品な音が場に響くほどにすごいやつ。


「んっ、やっぱりパムちゃんだわぁ!」

「体液の味で自分の娘を認識するのはどうかと思うの」


 懐かしいとはいえ、私にとっては日常茶飯事だった事だからもう気にもならない。

 もちろんこれが非常識なのもわかっているつもりだし。


「よし、それじゃあ今度はパパとも一発!」

「死ね、このヘンタイクソ親父」

「ひどい! ママとはしっかりやったのに!」


 それでも平気で自分達の常識を押し付けてくる所が究極に嫌いだ。


 だから暴言を吐き捨てた後、近づくお父さんのアレに唾も吐き捨ててやった。

 ドン引きしようが知ったことか。このド変態どもめ。


「娘の久々の帰郷なのに全裸で迎えるなんてあり得ます?」

「いやぁ~~~もうそろそろかなぁとは思っていたけど、報せが来なかったからさぁ」

「ええーーー手紙送ったのに!」

「いやぁ、そんなの来てないぞ?」

「ママもしらなーい」


 そんなぁ、一週間前くらいに送ったのになぁ。


「とりあえず服着てきてよ。そのまま積もった話をするつもりなの?」

「パパは一向にかまわないよ!」「ママも~!」

「あ"?」

「「着替えてきまーす!」」


 はぁ~~~、これだから絶倫男とサキュバスのコンビは……。


 万年発情期の貞操概念ぶっ壊れ両親を持つと苦労が絶えない。

 五年前のようにまた縄で縛って吊り下げてやろうかと思ったし。

 ま、つい反射で捕縛縄を取り出したら素直になってくれたから良かったけど。


 ……それから少ししたら二人がちゃんと服を着て現れる。

 それに今度はきちんとした抱擁での帰還の挨拶だ。


 うんっ、これが普通だよね! ぎゅってしてとっても安心できるっ!


「それで今の時期に帰ってきたって事はやっぱり?」

「もちろん! 私、ちゃんと言った通りになってきたよ、召喚騎士に!」

「そうか。宣言通りやりきったんだな。よくやったぞパム」

「うんっ!」


 そんな二人の笑顔も一つの励みになった。

 この優しさがあるから私は両親の事が大好きなんだ。




 人はいつか大人になって親から独立したいと願うもの。

 だけどこうして甘えたいと思った時だけは子どもに戻りたいとも願う。


 私はどちらも願えるような両親に恵まれた境遇を、とても感謝してやまない。

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