第23話 魔法の勉強のお時間です

 景色が回っている。それもどんどんと加速しながら目まぐるしく。


 でも不思議。それにもかかわらず私自身に回っている感覚が訪れない。

 まるでまっすぐ椅子に座ったまま景色だけが動いているといった感じ。


 だから落ちているなんて言われても実感が湧かないんだ。

 今まさに地面が差し迫っているっていうのに、近づいて来てるって感じしかしない。

 ただ地面とぶつかった瞬間だけは思わず目を瞑ってしまった。

 だけど音も揺れもなく、目を開ければ周りに土や草が飛び散っていく様が見えるだけで。


 そしてとうとうオー君と地面の間に私が挟まれる、という状態で動きが止まった。

 すると今度はゆっくりと浮かび上がり、正姿勢へと戻っていく。


『提言。当機はこれより各部機能状態のチェック作業へ移行。よってしばらく行動不可能となる。マスターパムは降機し、作業終了まで待機されたし』

「あ、はーい」


 こんなオー君からの指示が来ると、周囲を覆っていた膜が消えていく。

 いつの間にかこんなのが張られていたんだね。


 それに驚きつつも、言われた通りに地面へ降りる。

 そうしたらスッキリとした澄んだ空気が鼻孔を撫でてくれた。


「んーーーっ! ああーいい空気! さっきまでの嫌な気分が忘れられそう~」


 気分のまま腕を伸ばして体も反らせる。

 まるで故郷の田舎みたいな心地良い感じだ。


 それでふと周りを見渡してみたけど、ここは見た事のない平原だった。

 遠くを眺めれば獣や魔物がゆるりと歩く姿も見られる。


「オー君、ここどこらへん?」

『離脱地より当機定義の方角、北北西一二四キロメートルの地点である。当文化単位に換算すると約一一〇テルヤームとなる』

「えええええ!? 一一〇テルヤームゥ!? たったこの数分で!? いくらなんでも飛び過ぎだよぉ……」


 さすがにそんな距離を行った先となるとどこかも予想が付かないや。

 そのホクホクセーっていうのもよくわからないし。


 ただ周囲に街とかがないのはわかる。

 遠くには林も見えるし、まだ開拓が届いていない地域なのかな。


「ゴフッ、ゴゴフッ」

「えっ!?」


 そう眺めていた時、妙な音が聞こえた。

 それで咄嗟に振り向いてみたら案の定、すぐ近くに人並みに大きい獣の姿が。


 あれはパイルホーンボアだ……!

 突撃槍のように真っ直ぐ伸びた牙が特徴的の、好戦的な魔物!


 しかも蹄で地面を掻いて準備万端。間違いなく私を狙っている!


 でもオー君は動けない。

 だったらもう私だけでやるしかない!


「人ならともかく、魔物相手ならあっ!」


 今の私に武器は無い。だけど問題も無い。

 だからと即座に駆けだしたのだ。魔物へと向けて。


 狙いは道端にあった人頭サイズの岩。それを掴み、片手で持ち上げる。

 しかしそんな中で相手も突撃開始、まっすぐとこっちへ駆けてきた。

 

 パイルホーンボアは角に魔力が籠っていて非常に強力で、正面突破はほぼ不可能。大概は串刺しにされてしまうだろう。

 かといって左右に避けても尋常ならざる脚力と反射神経で捉えられてしまう。

 並みの冒険者でも死ぬ可能性の多い危険な魔物だ。


 だからこそ私は突き刺さりそうなほどの寸前で、跳ね飛んだ。


 さらにはその身を捻らせ、遠心力を生む。

 そうして岩に溜め込んだ力を魔物の後頭部へと向けて奮った。 


 ゆえに一撃で岩石炸裂。


 ただし手ごたえあり。

 その証拠に、着地した時にはもう魔物はヨレヨレとよろめき、倒れ、そして痙攣して動かなくなった。


 でもこれは単に気絶しただけで致命傷とはいかない。

 そこで私は右手に魔力を込め、雷の短刃を呼ぶ。


「〝ネザ・プレテス〟――ごめんね、でもこれは襲ってきた君のせいだから」


 そしてゆっくり歩み寄り、脊髄へと向けて一刺し。これでこの子は力尽きた。

 命を無駄にしないためにも食料用に血抜き腸抜きもしておかないとね。


『マスターパムに提言。当機は貴殿の戦闘能力を見誤っていた模様』

「えっ?」


 なんだろう急に? オー君が私の事を褒めるなんて意外だなぁ。


『そこでマスターパムに問う。貴殿の今見せた戦闘能力は身体機能に見合わない性能を有していた。それはなぜか?』

「ああ~そうか、オー君にはわからないんだ。そう、これが魔法ってものなんだよ」

『魔法。この世界における魔法とは解析不能な技術を示す抽象的代名詞ではないのか?』

「まぁ完全に解明できてはいないけどさ、大体は理屈がわかってる力だよ」

『当機ではその現象を測定・確認できず。具体的な詳細の説明を請う』


 なんか興味津々みたい。オー君にしては珍しい。

 ともあれ教えるくらいなら全然おっけー!


 ――という事で血抜きを行いつつ軽い説明を始めてみる。


「えっとね、魔法っていうのは魔力という力を操って自分の力にしたり、自然現象を引き起こしたりする能力なんだ。魔力は人の中にあったり、大地に流れていたりもするよ」

『気やフォース、命力といった精神感応力の事か?』

「それらが何かわかんないから何とも言えないかな……だけど意思次第で簡単に操れる便利な力って事。魔物もそういう力を使える獣だから魔物っていうの」

『把握。重要な情報の提供に感謝する』


 オー君みたいな博識な人でも知らない事があるんだなぁ。


 でも魔法を知らないなんて、どこの世界から来たんだろう?

 もしかして神層界とかだったりして。神族って常識知らずな人達ばかりっていうし。


『もう一つマスターパムに問う』

「はいはーい、なんでも教えちゃうよー」

『当該世界の固有名称は?』

「えっとね、【ステラリエル】っていうんだよ」

『了解。よって以降、魔法と呼称された能力を〝ステラリエル式精神感応操作術〟、略称SSST-001と命名する』

「あら、新しい名前作っちゃった。まぁいいけどね」


 それって今度から私もえすえすえすって言わないといけないのかな?

 う~~~舌噛みそう~。


『なお当能力を使用したマスターパムの身体性能は、先ほどの暴漢・通称ドルレと同等であると推測』

「え? それはちょっと言い過ぎだよぉ。私はあんな強くないってぇ」

『否定。当機の測定に間違いはない。唯一異なる点は対人か対獣かの違いである』

「まぁたしかに魔物や動物相手なら人よりは怖くないけどさぁ……そう言われてもさすがに実感はないかなぁ」


 ま、根拠のよくわからない話だし受け流しておこう。


 なんにせよ自分で納得できてるならそれでいいや。

 オー君の知識が広がってくれるなら私も嬉しいから。


 そんな訳でオー君の調子が戻るまでの間、魔法の知識を色々と語ったのでした。

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