第21話 就職活動開始ですっ!

 召喚騎士訓練学校は門戸こそ広いが、三年に一度しか入学機会がなく、入学金も相応に高額。

 だから生徒達も卒業日までに必死に学び、資格を得ようと努力する。

 そのおかげで卒業者の就職先は恵まれていて、特に成績優秀者は高給役職にまで就けるという話だ。


 ただしそんな役職に就くには当然ながら個人で就職活動を行い、認められ、籍を勝ち取らなければならない。

 そのためにも早めに従者を召喚・契約し、評価ランクに目星を付け、己を売り込みに行くのである。


 でも私、就活なんて一切してませんでしたぁ!

 学校でもそこまで教えてもらえませんでしたぁ!


 ――という訳で私は早急に友達と別れ、職探しへと向かう事になった。


 行き先は〝クエストギルド〟。冒険者御用達の職業案内所だ。

 もちろん冒険者だけでなく市民の職業斡旋も行っているし、募集だけでなく依頼もできる。


 そんな所ならまだ何かしら募集は残っているはず!


「召喚騎士Fランク? そんなのに出せる就職先なんてもうないよ」


 しかし現実は甘くなかった。

 むしろ受付のお姉さんの口ぶりがとても辛口だった。


「パム=ウィンストリン。ああ昨日の騒動で発端になった子ね」

「そ、そうなんですぅ!」

「不運だったね。でもだからって優遇はできないよ。Dランクくらいならまだ都合できたかもしれないけどさ」

「で、ですよね」

「そもそも来るのが遅いのよ。二日前までなら募集で溢れていたんだけど二日前までは」


 う、何も言い返せない……。

 お姉さんもペンをカツカツ叩いてイライラしてて怖いし。


「今年は三年に一度の召喚騎士卒業シーズンで、かき入れ時だから募集だって相当にあったもんだよ。けどそれは半年前から卒業までの話」

「ううっ……」

「もうどこも募集を取り下げてしまったのよ。どこぞの商会とかならFランクでも募集があったくらいなんだけど」

「その取り下げた相手がまだ募集していたりとかはわかりませんか?」

「わかる訳がない。先方の都合なんだし」

「で、ですよねー……はぁ」


 薄々予想はしていたけど、まさかここまでとは。

 Fランクという重荷が私の足を強く引っ張ってくるっ!


 ――たとえユリアンテを倒せても、ランクに影響がある訳でもなく。

 大した成績が残せなかった私に与えられた召喚騎士ランクは最低のF。


 それでもこれからがんばってランクを上げる事もできる。

 だからとこれから努力していこうと思っていたのだけど、幸先がよろしくない。

 こればかりは誰も恨めな――いや、シュティエール家のせいだと思いたい。恨んでもどうしようもないけど。


「で、日雇いの仕事でもやってく? それなら冒険者向けのがあるけど」

「あーそうですねぇ~……どうしようかなぁー……」

「やるの? やらないの? はっきりしないなら次の人に順番を譲って欲しいんだけど?」

「え?」


 でもそう悩んでいたら受付のお姉さんに指を差されてしまって、それでふと裏を向いてみたら長者の列ができていた。ひええ……。


「ギルドも暇人を相手にしている余裕はないのよ。こういうシ・ゴ・トだから」

「ううっ……申し訳ありません」


 お姉さんの辛口がまた心に刺さる。

 私、何か恨みを買う事したかなぁ……?


 でも悔やんでも仕方ないので列から離れ、代わりにクエストボードの前へと足を運ぶ。


 さすが日雇い向けのクエストボード、色んな依頼があるなぁ。

 薬草探しとか魔物退治という定番から、畑を魔物から守る番人、街郊外工事の保安員とかもある。

 一応は住み込みの仕事もあるみたいだ。定職とまではいかないけど。


 まずは住む所を確保しないとだし、こういった住み込み系が妥当かなぁ……。


「おう嬢ちゃん、働く所を探してるのかぁ~?」

「えっ?」


 そうやって応募用紙を眺めていた時だった。

 途端に視界に影が映り、ふと振り返ってみる。


 するとすぐ後ろに大きな体躯の男の姿が。


 一瞬、悲鳴が出そうになった。

 それくらい大きくて見上げきれなくて、ついでに言うととても近くて。


 しかもその男がついには私の両肩をガシリと掴む。


「だったら俺様のパーティに来いよぉ? お嬢ちゃんみたいな可愛い子なら優遇してやるぜぇ? もちろん相応の事はしてもらうけどなぁ」

「え、え!?」

「なんたってこのB級上位ランカー冒険者ドルレ様の仲間になれるんだ、お前さんの今後の評価にも繋がるんじゃねぇかなぁ~?」


 ち、力が強い!

 抵抗、できない……!?

 それにB級って!?


 それって国が雇う事もあるくらいの高ランクでしょ!?

 召喚騎士だって卒業したてじゃCまでにしかなれないのに!


 どうしてそんなすごい人がこんな辺境の街にいるの!?


「へへへ、抵抗したって無駄だぜ。俺ぁちょいと魔力減衰術に長けててなぁ、たとえ召喚騎士でもお嬢ちゃんみたいなFラン程度じゃどうにもなんねぇよぉ?」

「ええっ!?」

「ほらほら歩くぅ。なぁにすぐ済むからよぉ」

「あっ、ちょっ!? 何がぁ!?」


 でも有無を言わさず振り向き返されて、肩を押されるままにボードから離される。

 それで遂には公道側の壁際にまで押し込まれてしまった。

 顔を壁に押し付けられて、ちょっと苦しい!


「俺のパーティに入るならちょいとしなきゃなぁ」

「あなたのパーティに入る気なんてありませんよおっ!」

「グフフ、そう冷たい事言うなよぉ」

「それに試験っていったい何なんですかぁ!?」

「そんなのわかってンだろうが。ここですんだよォ!」

「――えッ!?」


 なにそれ、どういう事!?

 致すってまさか、嘘!? ここで!? は!?


 や、やだ、背中になんか当たってる!?


「泣いても叫んでも構わんぜ? どうせ周りの奴らはC以下の雑魚どもだ。いくら騒ぎ立てようが俺様には抵抗なんざできねぇ。ギルドだって俺のありがたみがよぉくわかってるからよぉ、ちゃんと見て見ぬフリしてくれるってもんよ」


 う、嘘でしょ!? じゃあ本当なの!?

 公然の面前で私を犯すって事!?


「だが俺様自慢の剣ですぐに気持ち良くなってよがるようになるぜぇ~。今までの女どものようにな。そして懇願するのさ、〝どうか私をドルレ様のお傍に置いてください、お願いしますぅ〟ってなぁ!」

「イヤ! そんなの絶対にイヤァ!」

「グハハハッ! 俺に愛された方が得策だぜぇ? その分の報酬もしっかり払ってやるからよぉ!」


 ダメだ、周りの人も言われた通り動こうとしない。

 見てはいるけど、誰も彼も見て見ぬフリだ。

 あとは楽しそうに待ってるような奴ばかり!


 でも私もぜんぜん抵抗できない!

 壁に手を突いて抵抗しようとしても力がまったく敵わない!


「誰か助けて! お願い!」

「無駄だって言ってんだろうが。入れるまで腰動かすんじゃねぇよ!」

「どこまで抵抗できるかな?」「もう無理だろあれ」「早く入れちまえ」


 なんでえ!? 私ただ仕事を探しに来ただけなのにどうしてえっ!!!

 うああああああ!!!??


 イヤ、イヤイヤ! こんなの絶対にイヤ!

 お願いだからもうやめてよぉ!


 本当に、助けて、オー君……!


「よしよし、やっと大人しくなって――」

「「「な、なんだぁ!?」」」

「――え?」


 そんな時だった。

 途端、鼓膜をつんざくような「ギィーン!」という音が鳴り響く。

 しかも横を向けば、壁から何やら赤い火の粉が噴出していて。


 するとふと、手を突いていた壁の圧力がすっと消えていく。

 ――ううん、これは違う。


 壁の方が離れているんだ。

 公道側へとゆっくりと倒れるようにして。

 

 それでとうとう本当に倒れ、ガシャリと砕けてしまった。

 しかもその先には見慣れた大きな黒鎧が一体。


『警告。通称ドルレに告ぐ、今すぐマスターパムに対する猥褻行為を停止せよ。さもなくば実力を行使する』

「オ、オーくぅん……!」


 助かった……! 本当に危ない所だった!

 でも絶対に来てくれるって信じてた!

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