第20話 学校を卒業したら待っているのはもちろん……

 一時はどうなるかと思った。

 まさか冤罪で捕まって暴力まで振られるとは思わなかったな。


 だけどオー君が機転を利かせてくれて助かった。

 夢や希望を失わなくて済んだのは単に彼のおかげだ。

 先日は怖いと感じたけど、有り余る力だけに頼らない知恵を見せつけられたから、もう怖いだなんてちっとも思わない。


 なお、その知恵で追い詰められた二人はというと――


 シュティエール公爵は憲兵達に逮捕され、すぐさま首都へと護送された。

 憲兵副所長いわく、国家議会によって然るべき処罰を決める事になるそうだ。

 軽くても国家議員の辞職、最悪の場合は爵位剥奪もあり得るらしい。


 憲兵所長の方はあの後に部下達と市民に問い詰められ、全部自白した。

 シュティエール公爵にそそのかされ、私を追い詰める手伝いをさせられたのだと。

 もちろん隷属要求の事も知っていたらしく、そのせいでお縄に付く事に。

 

 ……ともろもろの問題は解決。

 私もユリアンテとの決闘が死結決闘であった事が認められ、罪状も消えた。

 結局のところユリアンテが持っていった誓約書は見つからなかったけれど。


 それで一番の問題である、召喚騎士訓練学校の卒業式はといえば!


「召喚騎士資格証書授与! パム=ウィンストリン殿、貴殿は当訓練校において召喚騎士となり得るに足る知識と経験、そして従者を獲得し今に至った。よって貴殿を正式な召喚騎士と認め、今後の世界発展、守護に寄与する事を許可するものである! おめでとう!」

「あ、ありがとうございまつっ!」


 無事、敢行! ただしあの事件の翌日に!


 それというのも、あの憲兵所包囲デモにはなんと訓練学校の教師達も参加してくれていたらしい。

 そりゃそうだよね、あの人達の何人かは決闘に立ち会っていたんだもの。

 なのにそれが嘘だなんて言われて生徒も捕まったら「は?」ってなるのも当然だ。


 それに多くの生徒達もデモに参加していたのだから、もう卒業式どころじゃない。

 だから一日延期し、今日改めて卒業式が行われた訳だ。なんて粋な計らい!


 けれど当然、ユリアンテの姿はない。

 まぁもう従者がいなくなってしまったのだから当り前なのだけど。


 それに先日の問題で父親が問題を起こして連行されてしまえば、あの人の性格じゃ顔を出す事さえ恥ずかしくてできはしないだろう。

 彼女の財力と修練値なら寸前で再度召喚もできただろうけど、もうそれどころじゃないんじゃないかな。


 そんな訳でユリアンテ抜きで卒業式が執り行われ、とうとう卒業へ。

 私はコルタ君達と共に寮へと戻ってきた。

 オー君も一人で歩いて帰還中だし、その内こっちに戻ってくる事だろう。


「っしゃあ! 改めて、みんな卒業おっめでとぉう!」

「「「おめでとー!」」」

「昨日はどうなるかと思ったが、こうなってくれて嬉しいぜ!」


 戻ってきたら戻ってきたで、庭ですぐヒューデル君が騒ぎ始めた。

 昨日のデモも先導してくれていたみたいだし、本気で応援してくれていたのがわかってとても嬉しい。


「さぁて、やっと卒業できたので言いたかった事が一つある!」

「お、なんだいヒューデル?」

「パムさん、好きです! 付き合ってください!」

「「「おおー!」」」


 それでもっていきなり告白ですか。

 しかもなんかちゃっかりラブレターまで用意しちゃってぇ……。


「ごめんなさい!」

「「「あちゃー!」」」


 でも残念、今はちょっとそんな気持ちじゃないんだ。


「くぅーダメかぁ! ちなみにいつかチャンスはある?」

「え? あ、そうだなぁ。もうちょっと落ち着いたり、生活が安定したりしたら?」

「クッ、安定かッ! 今の俺には厳しい世界だぜ……!」


 それでも諦めてない所は熱血ヒューデル君らしい。

 そういう真っ直ぐな所は嫌いじゃないかな。


「ヒューデルはさーこれから冒険者始めるんだってぇー」

「召喚騎士なのに冒険者なんて珍しいよな」

「言うなよぉ、冒険者は引く手数多なんだぜ?」

「誰でもやれるとも言う」

「ウルセー」


 へぇ、冒険者かぁ。

 もしかしたら私もそういった職の方が似合ってるかもしれない。

 色んな所を見て歩きたいし、人助けもしたいし、なによりオー君の知見も広めてあげたいし。


「コルタ君は?」

「実は僕もヒューデル君とラライさんと一緒で、冒険者になるんだ」

「そういう事。コルタは従者がフェアリー族でヒーラー向きだからな、ランクは低いが重宝される。だから誘ったんだ」

「そんでアタシのタッグが後衛で、ヒューデルコンビが前衛って訳やな」

「おおーすごい、バランス取れてるー。召喚騎士パーティとか豪勢だし」

「こういう時、召喚騎士ってのはいいんだよなぁ。二人で一人分だからよ」

「維持費も二倍やけどな!」

「あはは、僕の従者はそこまでコスト掛からないから金銭面で助かるよ」


 さすが、コルタ君達は日雇いの多い事で有名な冒険者でもしっかりビジョンが見えてるみたい。


 他のみんなももうやりたい事決めてるんだ。

 フィヨン君は自国の騎士団員。

 マルット君とナザリーさんは結婚してこの街で自営業。

 すごいなぁ、明確ながあるって。


「それでパムはどこに行くって決めてるんだ?」

「え? あ、まだ決めてなくて」

「「「え?」」」


 ……え?


「待ちぃやパム、アンタもしかしてまだ就活しとらんの?」

「え? え?」

「おいおい、それはまずいんじゃないの? 普通は卒業までに職に就くもんでしょ」

「あ、えっとぉ」

「なんだぁ、俺達のパーティに入るフラグかこれは? 恋、育んじゃう?」

「ヒューデル、キモッ」

「ああん!? なんか言ったかナザリー!?」

「「「ハハハ!」」」


 ……ヤバイ。

 とってもヤバーイ。


 悲報! 私、就活してなかった!


 そりゃそうだよねぇ!

 卒業できるかどうかもわからなかったのに就活もなにもないよぉ!

 ずっと稽古とか決闘対策しててまだ職探しも何もしてませぇん!!!


 どーしよ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る