第36話 七秒間を全力で稼いでみせます!

 ああ、心が奮い立つ。

 ゾクゾクして止まらない。

 ここまで高揚したのは初めてだ。


 魔人の血が訴えてくるんだ。〝戦え〟と。


 様々な欲求が燃え上がり、戦意へと集約されたのが手に取るようにわかる。

 だから今、私はガルドゲイオスを前にして笑っていた。

 これほどの強大かつ無慈悲な相手との戦いに悦んで。


「ギィイイイイイイイ!!!!!」


 ガルドゲイオスも私へとターゲットを変えたらしい。

 振り上げた右腕が私めがけて振り下ろされる。


 しかしそれをただ力の限りに剣で打ち、叩き返した。


 その力に負けたのはガルドゲイオス。

 巨大な掌が強く弾かれ、肩をものけぞらせる。


 だがその直後、左腕もが迫っていた。

 そこで私は腰に備えた手持ちの剣を抜き、その左腕さえも弾き返す。


「ギィヨオオオオオ!!!!!」

「はああああああ!!!!!」


 ここからはもうその応酬である。

 奴は完全に私へと狙いを定め、徹底的に殴りつけてくる。それも超高速で。

 だから私は徹底的に弾いて、弾いて、弾きまくってやった。負けず超高速で。

 宙に浮いていようが関係無い。奴の攻撃を弾く勢いで跳ね上がるだけだ。


 ――ここまでで残り四秒。


 聖霊銀剣フェルラティオの力はすごい。私にこれ以上ない力を与えてくれる。

 それに不思議と、鍔の薔薇模様が次第に花びらを開かせているようにも見える。

 まるで私の力を吸って成長しているかのように。


 つまり、まだまだ力を注げられるという事に他ならない。


「ギュエエエエエエッ!!!!!」

「ッ!?」


 ただ奴の方も一筋縄ではいかないみたい。

 腕だけでなく脚もが伸びてきた。まるで足先を掌のように変形させながら。


 そうして繰り出された打撃嵐は一層の激しさを増す。

 速度自体は落ちても四つ同時攻撃はさすがにきつい。

 おかげでもう手持ちの剣が折れて使い物にならなくなってしまった。


 しかも得物が減った途端、四本の腕が四方から同時に迫りくる。

 この攻撃を防いでみせろとでも言いたげに口元をニヤつかせながら。


 だから力の限りにその身を回し、同時に薙ぎ払ってやったのだ。

 銀剣の力がそれさえ可能とするほどに強大だったからこそ。


 ――ここまでで残り二秒。


 だけどこの時、奴は四本の腕を一つに集約させていた。

 まるで己の体を一本の腕へと変えるかのように。


 そうやって生まれた拳は私でもひきつってしまうほどに巨大。


 そんな物が空高く振り上げられ、直後に振り降ろされる。

 これを弾き返すのはさすがに無理だ。

 

 そこで私は魔法の力を使い、ほんの少しだけ体を弾かせる。

 奴の拳中心から逸れ、その端で受け流すために。

 そして目論見は成功。奴の拳端を剣で滑らせ、生じた衝撃も体を転がして殺す。

 さらには拳を足蹴にして強く飛び離れ、地上へと向けて落下していく。


 ただ、この高度で落ちれば今の私だってタダじゃ済まない。

 でもね、このまま落下を待つほど楽観的ではないよ。


 だから直後に魔法陣を切る。

 するとそれによって生じた緑の風が意思にそって舞い、地上に向けて濃い筋を形成していった。


 それは物理的に触れる事さえ叶う風のレール。

 ゆえに私はそこへと靴をかけ、背面向きに滑り降りていく。


 踵から散る火花。

 脚に掛かる重圧。

 それでもなお私はレールに沿うままに体を支え、落下慣性を殺していく。


 そのようにして勢いが次第に緩やかとなっていく最中、私は自らレールより跳ね飛んだ。


 そして着地。ここまで残り――0秒。


「少し時間を稼ぎすぎちゃったかな」

『問題無し。貴殿の協力に感謝する』


 そんな私が降り立ったのはオー君のすぐ傍。

 オー君もまた地上で今の七秒をしっかりと準備に費やしていたようだ。


 だからこそ今、オー君の表皮から光が放たれていた。

 体内から「ゴゥン、ゴゥン」という鳴動音を鳴り響かせて。


『フォーマティック・アサルトモード、起動』


 でももうすでに事は始まっていたらしい。

 直後にはもう彼の装甲が分かれ、開き、動き始めていたから。


 その様子はまるで開花のようだった。

 鉄の花弁が開き、中から輝きと共に内包物が姿を晒す。




 そうして現れたのはまるで人間。

 四肢を持ち、頭を有し、二つ目の、私達とそっくりな――鉄の人、だったんだ。

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