第35話 邪龍の被害は甚大過ぎます!

「大きい、大き過ぎる……!? これが邪龍ガルドゲイオス……!」

 

 オー君を軽々と掴み取れるほどの掌。

 それでいて怨念しか感じない、黒い灯みたいな眼。

 邪悪さを放ちながらも燦々と輝く金の骨体。


 そんな存在が虹膜の翼を仰いで私達を見下ろしてくる。

 その様子を前に私はもう狼狽えるばかりだった。


『この状態を維持する事は非常に危険。よって離脱を敢行する』

「お、おねがいオー君!」


 ガルドゲイオスは私達をさらに両手で掴もうとしていた。

 けれどそこでオー君が超振動を発生させて弾き飛ばす。


 さらにはすぐに飛行を再開し、一気にガルドゲイオスと距離を取った。


『対象、依然当機をターゲット認識中。追跡を開始』


 ただ後ろを振り向けば、奴がぴったりとついてきている!

 あんなに大きいのに速いだなんて!?


「振り切れそう!?」

『対象の機動力が想定を越えて高く、現状性能では困難。また可能速度に至れる高度へと達するには正体不明の重力波帯を越えなければならないため非推奨』

「だったら人がいない場所で応戦しよう!」

『了解』


 しかもガルドゲイオスは腕を振り、オー君を激しく叩く。

 その度に景色がグラグラと揺れ、その衝撃が計り知れないものだと教えてくれる。

 それでも私に当たった時に衝撃は来ないのだが。


『当機への損害軽微。この攻撃力ならば当機が破壊される心配はない』

「そ、そうなのかもだけどそれでも心配しちゃうよ!」


 その中で旋回・降下を始めて地上を見据える。

 オー君もおそらく周辺地域の状況を確かめているのだと思う。


 ただ思ったより周辺に人の施設らしきものはない。山脈の真上だからだろう。


『エル・フェミナ砲、発射』


 そう理解したのか、今度は後方に向けて光を放つオー君。

 しかしそれも先ほど同様、体に穴を開けて避けられてしまった。


 続いてもう一発撃ってもダメだ。完全に見切られている。


 地上付近へ到達するも奴の追跡は留まる事をしらない。

 山面をえぐろうとかまわず私達を執拗に追い、叩いてくる。しつこい!


『現状の対抗手段では決定的な損傷を与える事は非常に困難』

「だったら光線を拡散させて広範囲に放つ事とかできない!?」

『! ――可能。エル・フェミナ砲、反粒子収束比率を分散・断続放射開始』


 するとオー君が私の命令を受けた直後に急速上昇。

 さらには敵へと正面を向けるようにぐるっと身を回す。


 その途端、またしても光が場を包んだ。


『ギャオオオオオオオ!!!??』

「わわっ!? なにこれ、映像が見える!? ガルドゲイオスにいっぱい穴が開いてる!?」


 そんな私の前にはいきなり映像が現れた。

 様子が見えない私のためにオー君が見せてくれたのだろう。


 ただそのガルドゲイオスの様子が少しおかしい。


「もしかして効かなかった!?」

『否定。マスターパムの提言した攻撃法は現状で最高効率であった。よって対象に損傷を与える事に成功』

「やった!」

『ただし本攻撃は著しい放出エネルギーを消耗するため連続発射は不可能』

「ううっ、そんな!?」

『また拡散による出力低下はまぬがれず、一点に対する損傷率はおよそ0.3%程度と断定。このまま戦闘を行えば対象を消滅させるのにはおよそ二日かかると推定』


 そんな、そこまで時間がかかるの!?

 奴のブレスの被害は計り知れないのに!?


 現に今もブレスが放たれ、弾いた光がはるか彼方で大爆発を引き起こしてしまっている!


 あっちはたしか訓練学校でお世話になったザーツェベルク地方のはず!

 村や畑も多い国だからあんな大きな爆発が起きたら巻き込まれている人がいてもおかしくないよ!


 こんなのが二日!?

 無理だよそんなの!

 それこそこの周辺一帯の国が滅びてしまう!


 どうすれば、どうすればいいの……!?


『このままでは被害が拡大、周辺地域の壊滅は免れない』

「わかってる! だけどどうしたら――」

『よって事態の早期解決を図るため、当機は〝フォーマティック・アサルトモード〟の使用を提言する』

「えっ!?」


 な、なにそれ、私知らない。

 でもそれならガルドゲイオスを手早く倒せる……!?


『しかし問題点が一つあり』

「その問題って……?」

『このモードへの切り替えにはマスターパムの降機が必須であり、また七秒程度の無防備硬直が発生するものである。そのため現状はオペレーターの安全確保義務の観点より非推奨――』


「わかった。なら私が降りて時間を稼げばいいんだね」


 もう考える必要なんてないんだ。

 そうして欲しいと言うのなら、私は喜んで受け入れるよ。


 そのための力はもう、この手にあるのだから。


 ゆえに私はゆっくりとオー君の背で立ち上がっていた。

 ガルドゲイオスが攻撃を繰り返す中で、そっと振り返りながらに。


『……了解。マスターパムの健闘を祈る』

「うん、ありがとっ!」


 そして攻撃の合間をぬって自ら跳び上がり、天地逆転したままに奴と対峙する。

 鞘から剣を抜き、その切っ先から魔力を吐き出しながら。


 オー君が信じてくれたから。

 ウルリット先輩達が託してくれたから。


 だから私はこの銀剣に誓って、七秒間を全力で稼いでみせるよ。

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