第33話 すべてが終わった訳ではないようです
宴も最高潮となり、あの怖い顔の団長さんもが踊り狂っている。
私の事情とかも知ったから安心しきったのだろう、とウルリット先輩が教えてくれた。
まぁそうですよね、私がこの中で一番の異物ですもの。
「ま、ガルドゲイオスが倒れたんだ。これで当面の問題は去った訳だしな、ああやって浮かれたくもなるだろうよ」
「もしかして一匹でも倒せばカオスゲイルは止まるのですか?」
「いや、そういう訳じゃないが。ただ脅威の一つがこうも手早く止まれば後は芋づる式だろうよ。少なくともお前さんがいればな」
「私頼みですか……」
「いいだろう頼っても? かつては神や魔人を呼ぶ召喚騎士が集って英雄となったが、そんな都合のいい展開なんて待ってられんさ。今はどこも自国の戦力を高めるので夢中なんだからな」
うーん、頼ってくれるのは嬉しいんですけどね。
なんだろう、魔王の脅威が忘れ去られつつあるのかな。
だとしたら悲しい現実だ。人々を恐怖させないために伝説を伏せておいたのが裏目に出てるんだろうなぁ。
「だから少なくとも俺達はお前を頼りたい。今まで力を奪って封じるだけだったガルドゲイオスをあそこまで圧倒したんだからな」
「……はい、がんばりますっ」
でもそれでもいい。私達がその脅威を知っているなら、私達だけで解決すればいいのだから。
ああ、熱意が溢れてくる。
ウルリット先輩の想いが伝わってきて、胸がポカポカしてくるんだ。
うーん、さすが隊長を任されるだけの事はある。カリスマ性がすごいよー。
「お、俺もがんばりますから!」
「おう、フィヨンもがんばれよぉ? 色々とな」
「え!? い、色々って!?」
「バーカ、俺が気付かねぇとでも思ってたのぉ?」
「い、いやだなぁ、先輩飲みすぎじゃないです?」
「ハハハッ、言うじゃねぇか。これでも酒に呑まれるほど弱くはねーっての」
部下に対する接し方もフランクだし、良い上司さんなんだろうね。
フィヨン君もこの人の部隊に入れて幸せだろうなぁ。
うらやましい。
「あ、あれパム? どこに行くの?」
「ちょっとオー君の所に行ってくる。ずっと放置するのも悪いしさ」
「あ、待って、俺も行くよ」
「おう、若者同士ゆっくりしてこいよぉ!」
「もぉ、ウルリット先輩だって言うほどの歳には見えませんよ?」
「はははっ! これでも二八で彼女募集中だ、応募いつでも待ってるぜ!」
そっか、募集中なんだ。
……よかった。
「じゃーたいちょーはウチとよろしくするにゃー!」
「おおっ、ケミッテ隊員、じゃあ今夜はヨロシクいっちゃいますかぁ!?」
あ、でも隊員さんとも仲良しそう。
そうだよね、あの人可愛いし明るいしケモミミ可愛いし。
私なんかとは天と地ほどの差だよね。
……そう思ったらなんだか溜息を漏らしてしまった。
そう落胆しつつ、付いてくるフィヨン君をしり目にオー君の下へと向かう。
それで外に出てみたらその暗さに驚いてしまった。もう夜だったんだ。
『マスターパムの精神的ストレスを検知。原因は先ほどの会話にあると断定。必要ならば武装の行使も辞さないとするが』
「そうやってなんでもかんでもぶっ放そうとしないのぉ、違うからぁ」
『了解』
オー君は酒場のすぐそこまで来ていた。いつも通り遅くても行動は早い。
『――マスターパムに問う』
「うん、何かな?」
『貴殿に鉱石の知識はあるか?』
「え? ま、まぁ一般的な知識くらいはあると思うけど」
でもなんかすぐに話を切り替えられてしまった。
なんだろう、オー君が好奇心をいきなり前面に押し出すなんて。
それも唐突に鉱石だなんて。
『では質問その一。このステラリエルにおいてAu、金、ゴールドの類の物質的強度はいかほどか』
「えっ!? あ、ええとぉ……」
「鉄よりは柔らかいね。あと引き伸ばしやすい」
『個体名フィヨンの回答に感謝する。それは当機が有する金の情報とおおむね合致しており、当機側の世界の物性と共通していると認識』
「あ、ありがとねフィヨン君」
「うん、これくらいなら大丈夫だよ。俺、雑学は割と得意だからさ」
うう、すぐ答えが出ないなんて情けない。
訓練学校でも素材とかは装備にどう有効だとか教わったのになぁ。
それにしても金かぁ。純金のアクセサリーとか憧れるなぁ。
いきなり誰かからもらったりとかさぁ! 妄想が捗るぅ~~!
『しかしそうなると先ほどの個体名ガルドゲイオスの物質的強度が不可解となる』
「「――え?」」
『対象の構成物質は主に金であり、当機の攻撃力であれば瞬時に素粒子崩壊させる事が可能だった。だが対象はエル・フェミナ砲の直撃を受けたにもかかわらず、対象の四割ほどが消滅せずに液化飛散してしまった。これは当機の知る限りあり得ない事である』
そ、それってあのガルドゲイオスっていうのが魔法の力で強化されていて、オー君じゃ解析できなかったから気になるって事?
たしかにオー君は魔法がわからないからそれはあり得るんだけど。
それでもここまで気にするというのは、タダごとじゃないって事だ。
『解析によれば対象の物質的強度は、貴殿らよりも当機の範疇に近い』
今のオー君の一言を聞いた途端、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
嫌な予感がする。
なにかとてつもない事が起きるんじゃないかって。
でもフィヨン君は首を傾げているから多分気付いていない。
だからこれはきっと私だけが察した予感なんだ。
「は、話終わった? ならさパム、ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど……」
もしかしたらオー君も何か感じているのかもしれない。
今の解析結果を答えてすぐに黙り込んでしまったし。
「俺、実は君がここに来た事はもしかして運命なのかなって思ってならなくて!」
試しに肺一杯に空気を吸い込んでみる。
たとえ寒くても、意識を集中すれば「危険の香り」を感じ取れるはずだから。
「あの時はヒューデルに遠慮しちゃって言い出せなかった。だけど今なら言える。俺は、君の事がずっと――」
「……来るッ!」
「――えっ?」
予感は正しかった。
香りはたしかにあった。
そして私がこうして感じた事を、奴もまた勘付いたのかもしれない。
途端、真っ暗だった空が昼のように明るくなる。
まるで太陽がすぐ近くに落ちてきたような、白黒としか感じられなくなる眩しさだ。
でもそんな輝きがまもなく弱くなり、影がゆっくりと蠢いていく。
そうして建物の影が私達を避けた時、その事実に気付く事となる。
空に、金の球が浮いていたんだ。
周囲に眩いばかりの光を放ちながら。
「あ、あああ、あれはそんなまさか……!?」
そうだ、フィヨン君が恐れるのも無理はない。
あの黄金の輝きは間違い無く、あのガルドゲイオスだ。
あいつはまだ倒せてなかったんだ。
オー君のエル・フェミナ砲でさえ一撃で倒せないほどの相手だったから。
「オー君っ!」
『了解。搭乗席展開』
「フィヨン君ごめん、大事な話?があったんだよね。それ後で聞くから!」
「え、あ、ああ……」
「私が行かなきゃならないから……だから!」
すでにオー君は飛び立つ準備ができていて、激しい気流を生み出している。
そうして雪が舞い散る中で、私はフィヨン君に微笑みを向けた。
だけどフィヨン君はなんだか申し訳なさそうに顔を背けていて。
「いや、いい。俺の事は構わないからさ」
「うん?」
「俺は、君とは違うんだ。高嶺の花である君とは、根本から……」
言いたい事がよくわからないけど、もう用はないって事でいいのかな?
だったらもう行かなきゃ。あれをあのままにはしていけない気がするから。
……なんだろうな、さっき団長さんに話を聞いてから胸騒ぎが止まらないんだ。
まるでやっと自分の使命に気付いたような、そんな感じがして。
もしかしたら私の中の魔人の血が騒いでいるのかもしれない。
〝あの存在は放っておいてはいけないものだ〟って。
だから――
そう思うままにオー君へと飛び乗る。
視線はもうあの黄金球に釘付けだ。
「待て、パム君!」
「――ッ!?」
するとそんな時、団長さん達が走ってやって来た。
さっきのが中でもわかるくらい強い輝きだったからかな。
「これを使いたまえっ!!!」
それで私に一本の何かを投げてくれて。
受け取ったのは剣だった。
銀細工であしらわれた、流線形の形状がとても美しい装飾剣。
それでいて鍔中心には薔薇の紋様が刻まれていて気品ささえ感じさせる。
「それは聖霊銀剣フェルラティオ! 今のワシが持つにはもったいないほどの最高品質の礼装剣だ! 持って行きなさい!」
「……はいっ! ありがとうございますっ!」
この剣を渡してくれたのはきっと、私に全部任せるためなんかじゃない。
自分達の力が至らない事を知っていて、希望を託してくれたのだと思う。
それでみなさんの熱い視線が私に注がれていたんだ。
強く握られた拳を胸元で震わせながら。
悔しいからこそ、私に託したいのだと。
だから微笑みを返す。
そして空へと発つ。
みなさんの想いが籠った剣を片手に握り締めて。
「行こうオー君、あの怪物を私達が倒すんだ! かつての英雄の代わりに!」
『了解。目標、個体名ガルドゲイオス』
今は弱さなんていらない。
そんな事なんて気にしてはいられない。
何がなんでも成さなければ、先輩のいるファルドハイトに未来はないのだから。
『目的、対象の完全消滅』
――そのためならば、私は魔人に
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