第5話 従者契約、完了ですっ!
ついに夢にまで見た時がやってきた。
黒鉄鎧の人と従者契約を結ぶ事ができたのだ!
……ただこうすごく否定的な考えを持つ人だけど。
なんだか理屈っぽいし、よくわからない事ばかり呟くし。
で、でもそれでも私の従者になったんだから今だけだよね。
その内きっと心を通わせて、あの先輩みたいに会話しなくても意思疎通ができるようになるんだ!
だから!
「これからもよろしくね、オー君っ!」
親しみを込めて彼の名を呼ぶ。
些細だけど気持ちの籠ったささやかなお礼も兼ねて。
『提言。当機への略称呼びは他者への識別誤認を与える可能性を含む。よって当機を呼称する際は正式名称を正しく発音する事が妥当と判断』
「え、ええーっ!?」
でもすっぱり拒否されました。
「あ、じゃ、じゃあオー、オーブ、オーブブブさん」
『オーヴィウヴトTQH98-F33JL-0002151である』
「なげぇ!!!!!」
『これは当機が同番型式二一五一体目である事を示す。よって――』
「そ、そこまで覚えられないよぉ!」
『……マスターパムの知能レベルは当該原生高位生命体の解析記録による平均知能指数のおよそ70%程度と推定』
「プッ」
「先生も笑わないで!!!」
うう、遠回しにバカにされたぁ!
『以上の結論からマスターパムによる略称呼びは妥当と判断。よって当機はこれより〝オー君〟の呼称を許可する。識別誤認に注意されたし』
「君みたいにそんな長い名前の人は他にいないよぉ~はぁ」
事実だけどハッキリ言われてちょっとショック。
この子、かなり口が悪いなぁ。
まぁでもこれからわかり合えばいいよね。
そのうち悪態もつかなくなるかもしれないし。
「それで話は済んだかね、パム君」
「あ、はい。おかげで従者契約もできました」
先生も落ち着いたのがわかったのか歩み寄って来た。
オー君もさっきみたいにピカピカしないし、きっと大丈夫なのだろう。
「では次の召喚希望者もいるので、今はひとまず外へ出てもらっていいかな?」
「あ、そうですね、わかりました」
そうだ忘れてた、召喚希望者は私だけじゃないんだっけ。
契約が済んでもやり直したりできるから、まだ何人かいるみたいだ。
それなのに巻き込んでしまってごめんなさい。
そんな気持ちで遠巻きに見ていた人達に頭を下げておく。
召喚は成功してふてくされる理由もないし、今は素直に謝っておこう。
「では向こうへ。彼でも通れる物資搬入出用の大扉がある」
「了解です。オー君、重そうだけど歩ける?」
『マスターパムの命令を確認。歩行機能の制限を一部解除』
それでオー君にお願いしてみたら意外に素直だった。
先生が扉の方へ歩くと、オー君も大きな足(?)を交互に動かして歩いていく。
だけどすっごい遅い。
まるで牛、いやそれ以下かも。
足を上げて降ろして、をゆっくりしっかりやってる感じだなぁ。
ただ思ったより重くないのかな。
足を突いても「カシャッ、カシャッ」と軽い音しかしない。
……それで時間をかけてようやく外へ。
青い空、青々しい芝生が目立つスッキリとした空間が待っていた。
今まではなんて事のない景色だったのにな。
オー君のおかげでなんだかとっても新鮮な風景に見える。
――なんて、そう眺めていたら先生が歩み寄って来た。
「さて、それでだが。彼は見ての通り我々よりもずっと大きい。だから普通の従者と違ってどこにでも連れ歩く事は困難だろう」
「そ、そうですよね……」
「でもパム君にはこれから従者契約の証明書や手続きなどがある。それと卒業許可証の発行手続きもね」
「あ……」
「だからひとまず彼はここに置いていくといい。もちろん当校内に従者を置く事は許可されているから心配はいらない。寮も遠いだろうし、卒業まではここに置いておくのが得策だろう」
「ですね、彼を連れて歩いたら移動だけで一日が終わっちゃいそうだし」
先生はとても親身になって教えてくれた。
今まではいじめにも干渉してこなかったから「ただ優しいだけ」だと思っていたのだけど。
けどそれは違ったのかも。
この人はもしかしたら最初から親切にしてくれてたんだろうね。
私がただ気付かなかっただけで。
そう思うと、また一つ嬉しいが増えた。
「彼の管理は我々指導員の役目でもあるから、安心して手続きに行ってきなさい」
「はいっ! ――あ、でも」
だけど甘えてばかりはいけない。
オー君の事だけは私がしっかり面倒を見なきゃいけないから。
彼はまだ召喚されたばかりだし、もしかしたらお腹が空いているかもしれない。
「オー君、もし何か食べたい物があったら教えてください! 何か持ってくるから!」
『当機は兵器であり食料を必要としない。太陽光と複合二酸化炭素だけでの運用が可能である』
「そ、そうなんだ」
それってもしかして……オー君って
その割には全身が鎧に覆われてるけど。もしかしてこれって樹皮なのかな。
一体どこの出身なんだろう? ウチュトゴカリセフとか言ってたけど、そんな地名は知らないしなぁ。
まぁいいや、後で樹人族が大好きな栄養剤アンプルでも買っていってあげよう!
「それじゃあ先生、オー君の事おねがいしまつっ」
「まぁ常時見てあげられる訳じゃないが、引き受けたよ」
「じゃあまた後でね、オー君!」
『了解、マスターパムの起動命令があるまで待機。スリープモードを実行する』
先生もいるし、オー君も眠るみたいだし安心かな。
じゃあ私もやる事をやらなきゃ。
それで私はその後の時間を使い、事務所で色んな手続きなどを済ませた。
中には「召喚騎士となるにあたって」という講習まで受けさせられたり。
けどそんな経験が実感を与えてくれる。
もうすぐ憧れの召喚騎士になれる、後は時間の問題なんだって。
おかげで夢中になり、気付けばもう夕方に。
それなので続いて先生にオー君の事を任せ、私は寮へと戻った。
そして翌日。
「オー君っ! おっはよ――」
一日放置していたのは申し訳なく思う。
だけどまた会いたくて、話したくてただ夢中で会いに来た。
――それなのに。
「え、なに、これ……」
朝一でやってきたら、オー君はみっともない姿に変貌させられていた。
ゴミを被せられ、いろんな色の塗料をぶちまけられた状態という。
きっとあのお嬢様達の仕業に違いない。
だけどオー君は昨日の時のままだ。
ずっと芝生の上に佇んだまま動いてもいない。
昨日はあれだけ元気に私へと警戒心を露わにしていたのに。
その汚れきった姿を前に、私は膝を落とすしかなかったんだ。
浮かれすぎて彼を守る事をないがしろにしてしまった……そんな自分の情けなさに気付いてしまったのだから。
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