第27話 お父さんには禁句があったみたいです

 気付いたらもうすぐ弟妹が八人目になりそうでした。

 そんな身重なのに凸とか力比べとかよく言い出せたねお母さん。さすが魔人。


 ……とまぁそんな訳でオー君の紹介も済んだので、また屋内へ戻る事に。

 弟妹達が帰って来たから騒がしくなったけど、私達のお話はお兄ちゃんを加えてまだまだ続く。


「別にね、増やす事はいいと思うの。そこはオー君の言う通りでもあるし、にぎやかなのは私もいいと思うから」

「「ハイ」」

「でもね、何度も言うけど二人の常識は非常識なの。子ども達の教育に最悪なほど悪影響を与えてるの。だから私が教えないといけなくなるの。オーケー?」

「「ハイ……」」


 ただし私が親に説教するという形で。


 こうなった私には親二人も逆らえない。

 お兄ちゃんもいつも通り苦笑いで黙って見守るだけだ。


「まぁまぁパム、二人にとってはもういつもの事だし」

「うん、言っても聞いてくれないしね」


 でも珍しい、そんなお兄ちゃんが二人をかばってる。

 この三年間で色々思う所があったのかな。


「だから僕もパムの真似をしてみようって考えているんだ。パムが訓練学校に行くって決めたから、僕がお前の代わりをしないといけないなって思ってさ」

「えっ……」


 そっか、お兄ちゃんもただ三年間を過ごしていた訳じゃないんだね。

 いなくなった私の代わりをしてくれようとしてたんだ。そっか……。


「でもそれじゃお兄ちゃんが何もできないんじゃ」

「あはは、僕は元々この家から離れるつもりはないよ」

「え、そうなの!? 働きに行ったりとかは?」

「するつもりはないよ。家畜の世話や畑仕事もあるし、二人や妹達の世話があるから家を出るなんてとても無理さ」


 ああそうなんだ、お兄ちゃんは学校に行く前の私の役目も果たしてくれてたんだ。

 親二人の面倒も見てるって所がもう。


「……テレルの言う通りだパム。なにも無理矢理に働く必要はないんだぞ」


 するとお父さんまでもが微笑んで話に入ってきた。


「それってどういう事?」

「なぁに、うちには結構な蓄えがあるからな。パパが召喚騎士だった頃の実入りがしっかりと」

「そ、そんなに!?」

「おう、なんたってお前を召喚騎士訓練学校に通わせられるくらいなんだぞ? 今みたいに自給自足で暮らせば二〇人家族でだって暮らせるくらいはある」


 そんなに蓄えがあるなんて知らなかった。

 三年前はそんな事一言も言ってなかったのに。聞かなかったんだけど。


「それにいつか子ども達が自立しようとしてもいいように計画も立てているぞ」

「パパがいつか亡くなって、ママもいなくなっても平気なようにってね」

「そうだったんだ」


 二人は私が思うよりずっと私達の事を考えていたんだね。

 そんな事も知らずに勝手に心配してたのか私は。ダメだなぁ、まだまだだ。


「だったら私も将来お金を稼いだらみんなのために――」

「ああーそういうのはいい。パムは自分が選んで進んだ道のために使いなさい」

「でも……」

「だから言ったろう、お前を学校に送れるくらいのお金はあると。あそこの学校、一般市民じゃそう簡単には行けないくらい学費が高額なんだぞぅ?」


 そういえばそうだったね。学校でもみんなぼやいてたっけ。

 だから生徒にはそれなりに高齢な人もいたりしたし。


「だから少しくらいは我儘を聞いてあげてもいいくらいだ。なんだったら卒業祝いに何か買ってあげてもいい」

「うん、それは僕も賛成。僕の分までたっぷり我儘を言うといいよ」

「お兄ちゃん……」


 そっか……こんな事も全部計画済みなんだ。私も少し見習わなきゃ。

 いつか働き始めたら、弟妹達の我儘を聞いてあげられるくらいに稼ぐとかでね。


 それにいつか、みんなにも子どもができた時に支えられるように。


「という訳でだ! 何か欲しい物でもあるなら言ってみなさい。軽い物ならなんでも聞いてあげられるだろうからな!」

「そうそう、甘えちゃってぇ~!」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えちゃおうかなぁ」


 じゃあどうしよう、欲しい物なんていっぱいあるよー。

 でもせっかくだから特別になりそうなものが欲しいし。


 あ、それなら……!


「なら私、欲しいのがある!」

「ほう~?」

「あのね、お父さんが良ければでいいんだけど」

「ふむふむ」

「もし良かったら、お父さんが召喚騎士だった頃に使っていた騎士鎧衣と礼装剣が欲しいの! おさがりでいいから!」


 そう、私はそれが欲しい。お父さん所縁の物ならなおさらに。

 私の目標であり、これから歩む人生の誇りにもしたいから。


 だってユリアンテが騎士鎧衣を騎装召換した時、すごくうらやましかったんだ。

 親から引き継がれた伝統の装備を自信満々に着られるってすごい事だもの!


 だから私も――


「あー……うん、そ、そうだね」

「そ、そうね、欲しくなるわよね……」


 ――え?

 なんで二人とも視線を逸らすの?

 なんでそう気まずくなってるの?


「す、すまん、涙が」

「あああパパダメ、泣かないでぇ」


 泣いてる!? なんで!?

 私いけない事言っちゃった!?


「ごめんねぇパムちゃん、その事はママ達の禁句だったのよ」


 禁句!? そこまで!?


「……し、仕方なかったんだ。お前達を育てるためには覚悟を決めるしかなかったんだよぉ」

「覚悟!? なんの!?」

「売る覚悟だよォ!!! 俺の! 自慢の! 誇りを質に入れる覚悟だよォォォ!!!!!」


 どうやら私は開いてはいけない扉を開いてしまったみたいです。

 途端にお父さんが嗚咽を漏らしながら叫び始めてしまった。


 おかげで周りで遊んでいた子ども達も驚いて黙ってしまってる。


「本当は嫌だったんだ……あれは当時の主君ティオヴェーデ皇帝陛下に功績を讃えられ、祝辞を賜りながらいただいた俺だけの騎士鎧衣と礼装剣だったから」

「ええ……」

「だけどぉ! 召喚騎士を辞めた俺達がお前達を養うためには必要だったんだ! 当時赤ん坊だった可愛い可愛いパムの笑顔を前に俺は覚悟を決めざるを得なかったあっ!」

「パパ……ウウッ!」


 とうとうお母さんまで泣き始めちゃった……。


「だから俺は鎧衣を売る許可をいただきに皇帝陛下の御下へと参じたのだ。しかしその時の皇帝陛下の〝え? 売るの? いいよー〟という気の抜けた返事は未だ忘れられんッ! きっと内心では相応にショックを受けていたのであろう……!」


 ああ、歯を食いしばっていらっしゃる。

 悔しさがにじみ出てくるかのようだ~……。


「それで、いくらくらいで売れたの?」

「二五〇万だ」

「――は?」

「二つ合わせて二五〇万ディラだよォォォーーー!!!!!」※日本円で二億円相当


 は? え? 二五〇万ディラ!?

 はあああああああ!!!??


「当たり前だろう! 皇国の上級錬金術士と精錬士、高級仕立て屋が集結して造り上げた世界に一つの最高高級品だぞ!? 魔導式がいくつも編み込まれた伝説装備アーティファクト級の逸品だったんだ!」

「あ、じゃ、じゃあそこまでじゃなくてもいいから」

「パムちゃん、騎士鎧衣の相場って知ってる?」

「し、しりません……」

「最低でも一〇万ディラはするのよ?」※日本円で八〇〇万円相当

「え"ッ!?」

「ちなみに礼装剣も中古品だろうと三万ディラはくだらん。どれも普通の市場じゃ出回らないがな」


 お、おう、どれも手がだせそうにないお値段なんですけど?

 Fランじゃ背伸びしても手が届きそうにありません!


「じゃ、じゃあ普通の剣と軽装鎧でいいです。ふもと村で売ってるような……」

「うん、それくらいなら、いいよー」


 ああ、お父さんも当時の皇帝陛下みたいになっちゃった。

 そうだよね、本当は誰かに受け継がせたかったんだろうし。


 ごめんねお父さん、無理言っちゃって。

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