第17話 冤罪で捕まってしまいました
決闘が終わり、無事に次の日の朝を迎える。
それでも心の気分が晴れなくて、まだ昨日の曇りみたいにどんよりだ。
それだけオー君の力はすさまじかった。
あのエル・フェミナ砲というものを私がまた制限してしまうくらいに。
オー君いわく、あの攻撃は光とか音の影響を周囲に与えないらしい。
その原理はよくわからないが、攻撃そのものが破壊的エネルギーを飲み込みながら射出されるからだという話だ。
たしかに太陽を見た時のように目が眩んだけど、あの独特の痛みがなかった。
だから傍にいた私やユリアンテを巻き込まなかったし、エルク以外の被害者も出さなかったそう。その点は褒めたい。
だけどあのあと改めて攻撃痕を見て、私達は目を疑うしかなかったんだ。
「これだけの事ができる者なんて、この世にいる訳がない」と。
それだけの惨状だったから。
そのおかげか、闘技場の破壊を含めて訓練学校側からのお咎めは何も無し。
誰しもが目を眩ませてしまい、攻撃の一部始終を目視・確認した人がいないから。
エルクが死んだ事も、死結決闘の末だから罪に問われはしないだろう。
おかげで今日を予定している卒業式も敢行予定。
私も出席予定で、気分とは別にちょっとだけ嬉しくもある。
やっとこの日を迎える事ができたんだって安心感もあって。
「パムさん、起きてる?」
「あ、うん、今行くね」
卒業式だからみんなもどこか慌ただしい。
時間もまだ余裕があるのにコルタ君が迎えに来てしまうくらい。
でもそれは私も同じ。
それなのでいつもよりも早く起きて準備も整えてある。
あとは学校に行ってオー君と一緒に卒業式に出席すれば、晴れて正式な召喚騎士の仲間入りだ。楽しみだなぁ。
そう浮かれながら部屋を出て階下へ。
みんなで寮長さんに今までのお礼をし、寮を出る。
ああ、空が眩しい。
澄んだ青空も、降り注ぐ日光も、そしてその中を貫いて伸びる一本の木も。
そのすべてが今日のために用意されたものなんだって思えてならなくって。
「そこで止まれ、パム=ウィンストリン! 貴様を殺人容疑で拘束する!」
しかし晴れた気持ちは一瞬にして消え去ってしまった。
私達が外に出た途端、周囲から憲兵達が現れた事で。
「え、え!?」
「抵抗はよせ! お前の容疑はすでに固まっている!」
「ま、待ってください!? 私は殺人なんてしてない!」
「そうだぜ! パムはそんな事するような奴じゃ――」
「うるさい、お前達も公務執行妨害で捕まりたいかッ!?」
もう有無を言わさない一瞬の出来事だ。
あっという間に私は壁へ押し付けられ、背中に腕を回されて拘束されてしまった。
コルタ君達も抵抗しようとしたが、逆に羽交い絞めにされてしまっている。
「なんで!? 話を聞いて!」
「黙れ、言い訳は憲兵所本部で聞く! 犯人を連行しろ!」
「ううーーーっ!!?」
私一人に五人もの憲兵が付き、体を抑え付けてくる。苦しい。
そのせいで抵抗すら叶わず、そのまま憲兵所へと連行されてしまったのだった。
どうして、なんでこんな事に……。
☆☆☆☆☆
「被疑者パム=ウィンストリン。貴様の罪状は殺人。シュティエール公爵家令嬢ユリアンテ様の従者、魔人エルクを殺した罪である」
憲兵所へと連れて来られた私はすぐに尋問室に座らされた。
それで手足を拘束されたまま、身に覚えのない罪状を上げられている。
相手は一人。すごい怖い形相の人。
だけどこのまま負ける訳にもいかないわ。
「それはおかしいです!」
「何がだ?」
「エルクを殺したのは認めますが、あれは正式な死結決闘です! 騎士または従者の殺害は罪に問われないと決闘法にも定められていたはずですよ!?」
「なぁにぃ……っ!?」
「ヒッ!?」
でもやっぱり怖い!
ものすごく睨んでくるし、歯を見せつけて食いしばってくる!
「何をバカな事を! あの決闘は訓練であり模擬戦でしかない!」
「え……?」
「それにもかかわらず見習いごときが死結決闘などと戯言を! その上で勝てない事を知り、まさか謀略で殺すなどとは召喚騎士の恥さらしもいい所ではないか!」
「ぼ、謀略……!?」
ど、どういう事?
あの決闘は死結決闘だってユリアンテが言ってたのに。
それに謀略ってなに? 何のこと!?
私、そんなの知らない……。
「おおかた動機はこういう所だろう。お嬢様との格差に怒りを覚えた貴様は恨みのままに決闘を申し込んだ。それをお嬢様は潔く引き受け事をに挑んだ。しかし貴様はそれを機に魔人エルクの殺害を企てた」
「は……?」
「それは闘技場場外からの暗殺者による一方的な暗殺だ!」
え、何を言っているの、この人?
「なぜなら、闘技場においては強力な魔防壁があり、内部からの攻撃はすべて防がれてしまう」
「しかし、あの魔防壁は外部からの攻撃には弱く、簡単に開く事ができるのだ! すなわち、あの暗殺は外部からの攻撃に相違ない!」
唖然としてしまった。意味がわからなさ過ぎて。
私がもっとバカになっちゃったのかなって。
「で、でもそれだったらオー君も無事じゃ済まないですよね?」
「――えっ!?」
「だってエルクを消滅させるくらいの攻撃で狙い撃ちしたなら、そのまま軸線状のオー君にだって当たりますよ? それにオー君に続く跡だって残ってたじゃないですか……」
「そ、それは……」
死結決闘だってしっかり事前誓約を交わしたもの。
ユリアンテが自信満々に誓約書類を持ってきて血判だって押した。
たしかに書類提出は彼女に任せたけど、その事実を覆すのはこの国の法律だって無理なはずだ。
「死結決闘もちゃんと正式に誓約を取り交わしました! 書類があるはずです!」
「ふ、ふん、そんなものはない! 出されたのは闘技場の使用許可証だけだ!」
「えっ!?」
「訓練に誓約書は存在しない。よってあの決闘は決闘訓練となる!」
「そ、そんな……!?」
もしかしてユリアンテが提出していなかった!?
ううん、そんなはずはない。だって彼女は勝つ事しか頭に無かったから。
なのに書類を提出していなければ彼女が殺人容疑で起訴されちゃう。
だったらなんで……!?
「それに貴様の従者に攻撃が届かないギリギリを狙ったという事もあり得る」
「えっ!?」
「そんな事をできるのは数少ないとは思うが、できる奴ならできるのだろう。例えばそう、貴様の父親である〝両国崩し〟ゼネリオ=ウィンストリンとかな」
「なっ……!?」
「さしずめ決闘を挑んだのはいいものの勝ち目を見出せず、諦めて父親に泣きついたんだろう?〝パパ、どうしても殺して欲しい奴がいるの~〟ってなぁ!」
い、意味がわからない。
何が言いたいのかもわからない。
もしかして、私と家族を嵌めようとしているの?
「もう調べは付いているんだ! あとは貴様が白状すれば終わりなんだよ!」
「ひいっ!!?」
でも芽生え始めた猜疑心を、尋問官が机を叩いて吹き飛ばしてしまった。
なんで? どうして?
私は正しく事を済ませたはずなのに。
オー君がやってくれた事を受け入れただけなのに。
「まぁよしたまえよ」
するとそんな時、部屋の扉がガチャリと開く。
とても低く、それでいてしっかりとした声と共に。
「あまり強く言い過ぎるのも良くないよぉ?」
「え!? あ、はい申し訳ありませんっ、シュティエール卿!」
「え、シュティエール卿……?」
そうだ、この声は聞いた事がある。
あの肩幅の大きさも、少し出たお腹も。
そしてあの私を品定めするように見下した目も。
「君とは二度目となるかな。わたくしはグラテス=ドゥ=シュティエール。現シュティエール公爵家の当主である」
あれは三年前のあの日、リトナード召喚騎士訓練学校への入学が決まって家族と喜び合っていた時だったっけ。
彼はあの日、唐突に家へやってきたんだ。
ユリアンテが言った通りの、私を彼女の従者に任命する為にと。
……やっと明確に思い出した。わかってしまった。
この人はユリアンテの父親で、この国でとても偉い立場の人。
それでいて私を貶めようとした張本人なんだって。
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