第31話 倒した相手は伝説の邪龍でした

 いやーさっきはビックリしたなぁ。オー君がいきなり「エル・フェミナ砲の解禁許可を求む」とか言い始めるから。

 それで許可したらいきなりブッ放しちゃうし、そのあとはグチグチ言い始めたと思ったらヘンテコな空飛ぶ金ピカの何かが浮いてたし。

 もう何がなんだかさっぱりだよぉ。


 ……それはともかくとして、目的地であるファルドハイトの首都には着いたんだ。

 あとは誇空騎士団の事務所とかにでも行けば副団長さんに会えるかな?


 そんな想いでオー君から降り、街へと向かう。

 街中に降りたら危ないからと外に降りたし、オー君は置いて行ってもいいかな。


「キサマァァァ!!! 止まれェ!!!!!」

「ひいいい!!?」


 そうしたらいきなり槍を構えた衛兵さんが殺意満点でこっちに走ってきました。

 なんで、どうして!? 最近いつもこんな事ばかりな気がするんだけど!?


「何者だキサマ!? 一体何をしたぁ!?」

「来たばかりだから何がなんだかわかりませぇん! ――ハッ!?」


 でも私は気付いてしまったのだ。なぜこんなにも彼らが焦っているのかって。


 さっきオー君は「危険な奴を見つけたから攻撃していい?」って聞いてきた。

 そこで私は「え? おっけー」って感じで軽く返したんだけど。


 ……そうだよね、危険ってオー君の独断でしかないよね。

 この国にとって大事な存在だったかもしれないなんてわかる訳ないもん。


「す、すみませんでしたああああああああ!!!!!!!!」


 だから私は誠心誠意で謝った。

 もう土下座で地面に何度も頭を打ち付けるくらいに全力で。


 だってもう嫌だもん! トラブルに巻き込まれてお咎め食らうのなんて!


「お、おい……」

「大変申し訳ありませんでしたあああ!!! この通り謝りますから! なんでもしますからどうか許してくださあああい!!!!!」


 そのためにはもう恥もへったくれも棄てて謝りまくるしかないの!

 もうやっちゃったからどうしようもないのぉ!


 お願い許してェェェーーーーーー!!!!!


「――あれ、やっぱりオー君だ。って事はパムか!?」

「へっ?」


 そうむせび泣いて許しを懇願していたら、聞いた事のある声が聞こえた。

 それで頭を上げて振り向いたら知った顔が見える。


「あ、えっと」

「……フィヨンだよ。パム応援団にいただろ?」

「あー! あーっ! そう、フィヨン君だ!」


 ごめんフィヨン君、名前忘れてた……。


 するとフィヨン君が私の肩を取って立たせる。

 それで肩や頭に付いた雪をパッパと払ってくれた。


「誇空騎士団の新人か。こいつは何者なんだ?」

「俺の同期の召喚騎士ですよ」

「は、はい! F級召喚騎士のパム=ウィンストリンって言います!」

「ふむ――え、ウィンストリンだと!?」

「噂の両国崩しの娘か!?」


 衛兵さん達もフィヨン君と知り合いみたいだ。

 それに名前を聞いたら逆に驚いてしまってる。すごいな、お父さんの知名度。


「それでお前、なんでこんな所にいるんだよ?」

「あ、えっとね、お見合いに来たんだ」

「えっ!? お見合い!? 君がかい!?」

「うん。まぁ実際に結婚するって訳じゃないけどね」

「そ、そうか……よかった」

「うん?」

「あ、いや、なんでもない」


 でもフィヨン君のおかげで場が収まってくれた。衛兵さん達も槍を上げてくれたし。

 おかげで誤解も解けて――ないっ!


 フィヨン君が来ただけで何も解決してないよ!


「あ、その~、それで私の処遇はどうなるんでしょう?」

「は? あ、いや、我々もわからん」

「ええ……じゃあなんで槍向けて来たんですかぁ!?」

「いや、そのだな、つい。我々も混乱していてな」


 酷いよ衛兵さん。また冤罪で捕まりそうだったじゃない。

 もうあんな目に遭うのは嫌なんだからー。


「――おい君達、何をしている」

「「「えっ!?」」」


 そう困っていたら街の方から低い声が上がった。

 しかも体の大きな渋めのお年寄りが歩いてやってくる。

 なんだかとても偉そうだ。


「あっ、団長!」

「新人か、一体何が起きたのだ? さっきのガルドゲイオスはどうなった?」


 団長!? それとなに、がるどげーおす?


「それが自分も必死でしたし、地上から見ていただけでさっぱりで」

「遠くからでは何が起きたかわからなかった。しかしたしかに奴は……」

「あ、あのー取り込み中失礼して申し訳ないんですが」

「んん? なんだね君は」


 もしかしてそのなんとかオスってさっきの金ピカかな?

 だとしたらやっぱり謝らないといけないよね。


「さっきの金ピカがそのなんとかオスっていうのでしたら、ごめんなさい。私が倒しちゃいました」

「「「は!?」」」

「ホント申し訳ないって思ってます。みなさんが大事にしている物だって事も知らず、ついオー君と勢いに任せてエル・フェミナ砲を撃っちゃって」

「「「え?」」」

「もし償えっていうのなら償います。一生かけてでも償いますから、どうかこの事は騒ぎにしてもらいたくなくて……」


 だってもうお父さん達を困惑させたくないから。

 私が失敗して迷惑かけたら、家族のあの穏やかな生活が水の泡になってしまう。

 それだけは絶対にイヤだから。


「だから――」

「あ、いや、君の言っている事の意味がわからんのだが」

「ええーーー!?」

「あーでも、オー君ならあり得るかもですね。彼、魔人エルクを瞬殺するくらい強いんで」

「「「は!? 魔人を瞬殺!?」」」

「ええ、パムとオー君はすごいんですよ。あのユリアンテ=ドゥ=シュティエールの従者、魔人エルクを一秒もかけずに消し飛ばしたんですから」

「それってまさかあの噂のか!?」


 ああっ、フィヨン君のサポートがとてもありがたいっ!

 おかげでなんか話がトントン進んでいくよぉ~~~!


「そのオー君ならガルドゲイオスを倒せてもおかしくありませんよ」

「だがしかし、相手は伝説の邪龍ぞ? 今まで倒す事も叶わなかった奴がこうもあっさりとはとてもだが信じられん」


 でもなんか話がまったく掴めません。

 なに伝説の邪龍って? そんなの学校じゃ習いませんでしたけど?


「と、ともかくこれから調査をして――」

「団長ッ! こちらで異常はありませんでしたかっ!?」

「――おお、ウルリット! 戻って来たか!」


 あれ、この声どこかで……?


 そう思って振り向いた時、その人は空から降りてきた。

 そうして降りてはすぐに私とすれ違い、団長さんの下へ。


 だけどその視線だけはしっかりと合っていて。


「……ガルドゲイオスは下半身を残して完全に沈黙。現在は部下に調査を任せています」

「おお本当か!?」

「ええ。そこでその後に現れた光の筋を追ってこっちまで戻って来たのですが」

「ああ、それならきっとこのパムだと思いますよ。オー君があんな速く飛べるなんて思ってもみなかったけどさ」

「うん、そうだね――」


 こう話してすぐ、彼の顔がこちらに向けられていた。

 それも「フフッ」と微笑み、呆れたように手を腰に当てながら。


「なるほど、大体把握した。どうやらお前は俺が思っていたよりもずっと高みに昇る事ができたみたいだな」

「……はい、あなたに言われた通り諦めずにやれたから、ここまで来れましたよ」


 だから私も笑顔を返さずにはいられなかったんだ。

 今までの心の励みになっていたこの声の主に。


「そうか、お前はしっかりと召喚騎士になれたんだな」

「ええ、おかげで胸を張ってあなたに会いに来る事ができたんです」


 もう周りの声なんて聞こえない。

 ただ目の前にいる恩人だけに意識が集中してしまって。


 手を胸に充て、想いのままに言葉を口にしたくて。


「だから、あの時助けてくれて、本当にありがとうございますっ!」


 ずっとずっとこう伝えたかった。

 何があっても諦めずにいられた。

 私は私のままで、願いを叶える事ができたんだ。


 それならもう、この続きだって言える。


「――それで、私の名前は……パム=ウィンストリンって言います」

「おう、俺はウルリット=シウだ。ようこそ召喚騎士の世界へ!」


 そして念願も叶った。

 それに手を差し伸べてもらって、握手もできた。

 おかげで嬉しくって嬉しくって涙が出てきてしまう。


 ああよかった、今までがんばってきて本当によかった……!




 ――こうして私は思っていたよりもずっとずっと早く恩人にお礼を言う事ができた。

 これで当面の目標は終わりで、これからは新米召喚騎士としてまっすぐに生きていく事ができるだろう。


 だけどまだもう少しだけ。

 ほんの少しだけでもいいから甘えたく思う。


 恩人ウルリット先輩の優しさに触れられる今この時だけは、召喚騎士の事も忘れて。

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