ローエンスの精神世界
* * *
「うふふ♪ たっぷりと可愛がってあげるわね~坊や~?」
妖艶な笑みを浮かべてサキュバスが僕に迫ってくる。
寝間着を脱がされ、下着だけを身につけたあられもない姿にされてしまう。
「まあ、男の子なのに白くてスベスベな肌ね~♪」
サキュバスが僕の素肌をやらしい手つきで撫でる。
ゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡る。
金縛りにあった状態じゃ声を上げることも体を震わすことすらできないが、いまにも体が蕩けてしまいそうな快感が僕を襲った。
(ちょっと触られただけなのに、これだけ気持ちいいなんて……これがサキュバスの力!)
なんて恐ろしいんだ。
幼い僕ですら、こうなってしまうのなら成人男性なんて一発で陥落してしまうに違いない。
「ふふ。幼くてもやっぱりオスね。精気がみなぎる気配がわかるわよ?」
サキュバスは挑発的に言って、肉感的な肢体を素肌に押しつけてくる。
(う、わぁっ!)
サキュバスの大きすぎる乳房がスライムみたいにたぷたぷと形を変えて、僕の胸板の上にのしかかる。
「んっ……ほら、おっぱい好きでしょ?」
サキュバスはそのまま豊胸を上側へスライドさせて、僕の顔に乗せてくる。
(むぐぐ! 息が!)
隙間を埋めるほどの軟体物質で鼻も口も塞がれ、呼吸が困難になる。
それにも関わらず、この液体のようにとろふわな感触を歓迎している自分がいる。
柔らかい……気持ちいい……もっと、もっと欲しい……。
(……いや! ダメだ僕! しっかりと自分を保つんだ!)
快楽に呑まれそうになった自分を必死に理性で繋ぎ止める。
そうだ! いまさらおっぱいが何だ!? おっぱいの感触なんて日頃から師匠のおっぱいで慣れてるはずじゃないか!
そうさ! 目の前のサキュバスのおっぱいだって師匠のおっぱいと比べたら貧乳も同然だ! そんなおっぱいに負けるわけにはいかない!
「んぅ~なんだか誰かと比較されている気配……なるほどなるほど。あなたの師匠よりもおっぱいが大きければいいわけね?」
「っ!?」
このサキュバス、まさか思考まで読めるのか!?
ま、まずい!
「んっ♡ ほら、もっとおっぱい大きくしてあげたわよ♡」
(んぐっ!?)
顔面に乗せられた乳肉の重さが増す。
鼻と口だけでなく、耳すらも覆うほどのボリュームが迫ってくる。
これはまさか……!
「うふ、すごいでしょ? サキュバスは体型を自在に変化させられるの。どう? バスト200cm越えの超爆乳に包まれる感想は? 気持ちいいでしょ~♡」
200cm越えのバスト、だと?
もはや人外レベルの大きさのバストに包まれ、頭が朦朧としてくる。
乳房の感触の影響だけじゃない。
乳房から香るサキュバスの匂いも原因だ。
甘ったるいミルクのような香り……これは
問答無用でオスを堕落させる香りに包まれて、今度こそ僕の理性は密のように溶けていく。
──さあ、私に身を委ねて? 安心して。悔いなんて残らないくらい、気持ちよくさせてあげるから。
サキュバスの囁き声が脳内に響く。
じっくりとサキュバスの気配が僕の中に入ってくるのを感じる。
……ごめんなさい師匠。
僕は、どうやらここまでのようです。
* * *
共鳴は成功した。
これで少年の精神世界に入り込むことができる。
サキュバスはほくそ笑み、ローエンスの中へ自らの精神を侵入させる。
サキュバスの搾精方法は主に二種類。
ひとつは単純な肉体の交尾。これは盛ったオスに有効だ。
一方、まだ生殖能力が未熟な少年に対しては、物理世界ではなく、精神世界で交わることにしている。
どちらでも精気と魔力を存分に喰らうことができる。
そしてサキュバスにとって今回の狩りは、精気よりも魔力が狙いだった。
(これほど極上の魔力は見たこともないわ。たっぷりと味わわせてもらうわよ!)
サキュバスの精神体は海の中に沈み込むように、ローエンスの精神の中を降りていく。
(さあ、坊やはどこかしら~?)
精神世界にはその人間のすべてを司る『核』のようなものがある。
サキュバスはその『核』と交わることで、精気も魔力も、そして命もろとも奪うのだ。
……気配を感じる。
もっと、もっと奥だ。
芳醇なワインのような匂いが深淵の奥深くから香ってくる。
サキュバスは舌なめずりをして、もっとローエンスの深いところへ潜っていく。
そして見えてくる。
暗い世界の中で青白く光り輝く『核』が。
(うふふ。見つけたわ。もうすぐよ。もうすぐ可愛がってあげるからね、坊や……って、え?)
深淵へ潜っていく最中、サキュバスは違和感を覚える。
青白く光っていたはずの『核』が繰り返し明滅している。
消えては光り、光っては消える。
まるで風前の灯火のように、弱々しい光を放っている。
(おかしいわね。外から見たときは膨大な魔力を持っていると思ったけど……どうして、こんなにも光が弱々しいの?)
ローエンスほどの魔力の持ち主ならば、精神の『核』は力強く光っているはずだ。
それがなぜ……。
サキュバスが疑問を覚えていると……。
精神の『核』がふたつに増えた。
(は?)
おかしい。精神の『核』は人間一人にひとつのはずだ。
なぜそれがふたつにも……いや、ふたつどころではない。
まだだ。まだ増える。
三つ、四つ、五つ……まだ増える。
(な、なに!? どういうこと!?)
異常な光景にサキュバスは混乱する。
気づけばサキュバスは無数の精神の『核』に囲い込まれていた。
そして、いずれの『核』もやはり明滅を繰り返している。
まるで、瞬きをする目のように……。
(ひっ!?)
サキュバスは気づいた。
違う。これは、精神の『核』ではない。
……目だ。本当に、瞬きを繰り返す目だった。
無数の目がギョロリと、サキュバスを睨み付けている。
土足で入り込んだ侵入者を恨みがましく見るように。
(な、何なの!? この子の精神世界はどうなってるの!? 『核』は!? 精神の『核』はいったいどこ!?)
サキュバスは逃げるように飛翔した。
本能が、警告を告げている。
私は、入り込んではならない領域に足を突っ込んでしまったのではないか?
(がはっ!?)
飛び立つサキュバスを掴むものがあった。
手だ。
黒く染まった巨大な手が「どこへ行くんだ?」とばかりにサキュバスの体を掴んだのだ。
サキュバスは怯えた。
何なの? 何なのよこの精神世界は!?
既知に存在しない状況に追い込まれ、サキュバスは狂乱した。
……だがその興奮状態も、一瞬で冷める。
(あ)
サキュバスは理解した。
自分の体を掴む手。
その手の持ち主が何なのかを。
精神の『核』は、あった。
だが、それはあまりにも巨大すぎた。
巨大すぎて、気づかなかったのだ。
自分はとうに、精神の『核』に近づいていたことを。
ソレのテリトリーに侵入してしまっていたことを。
(ひっ……ひぃ!)
ローエンスの精神の『核』を見て、サキュバスは恐怖で震えた。
黒い塊だった。
炎のように燃え上がりながら、無数の目を光らせて、おどろおどろしい余波を放出している。
これこそがローエンスの魔力の根源だった。
(く、狂ってる……何なのよ……このデタラメなくらいに膨大な魔力!?)
サキュバスは悟る。
外で感じ取っていた魔力は、ほんの一部に過ぎなかったのだと。
こんなもの……ひとりの人間が持っていい魔力ではない。
精神世界のすべてを黒く染め上げるほどの異常な魔力量。
なぜ、こんな魔力を持って生まれて、あの少年は平静を保っていられるのか?
(ば、化け物だわ……)
サキュバスは涙を流して身をすくませた。
原始的な恐怖が襲う。
この魔力の前では、自分はなんとちっぽけな存在だろうか。
こんな魔力、生まれて一度も見たことが……。
──いや、違う。
自分は、知っている。
目の前のと同じ気配をした魔力を。
魔族として生まれた者ならば、誰もが知っている。
あの至高にして、偉大にして、強大すぎる魔力の持ち主を。
(ありえない……ありえないありえないありえない! こんな坊やが……あの御方と同じ魔力を持っているはずが!)
黒い塊に裂け目が生じる。
まるで口を開くように。
(ひっ!?)
サキュバスの体が裂け目に引っ張られる。
……喰われる。
オスを喰らうサキュバスでありながら、その獲物である精神の『核』に取り込まれようとしている。
(た、助け……誰か助け……い、いや……いやああああああ!!!!)
サキュバスの悲鳴があると同時に……精神世界を繋ぐリンクが途切れた。
* * *
「……あれ?」
おかしいな。急に体が動くようになったぞ?
自由になった我が身を起こし、僕は周りを確認する。
サキュバスはいったいどこに?
「あ」
「ひぐっ……うぐっ……う、うぅ……」
サキュバスはいた。
僕のベッドの傍で縮こまり、子どものように泣いている。
「あの……」
「ひっ!? や、やめてぇ! こ、来ないでぇ!」
僕が声をかけると、サキュバスはまるでオバケを見るように怯えて大粒の涙を流す。
……何で?
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