高火力魔法はロマン
* * *
魔法で明かりをつけて、フィーユと洞窟の奥へと入っていく。
いまのところ、スライムが出てくる様子はない。
「わ~、仮想空間の中とはいえ、本当に冒険している気分! ワクワクするな~!」
フィーユは目をキラキラとさせながら僕の隣を歩く。
こんな変哲もない洞窟の中を歩いているだけでも、彼女にとっては楽しいらしい。
「フィーユは、どうして冒険者になろうと思ったの?」
「ん? へへ、それはもちろん、憧れの勇者様のような凄い魔法剣士になるためだよ!」
「勇者様?」
「え~!? ローくんまさか勇者様知らないの!? あの邪悪な魔王を倒した伝説の勇者様だよ!?」
「ご、ごめん。僕すっごい田舎で暮らしてたから、そういうのに詳しくなくて」
「本当~? だったらすっごい田舎だな~。ちょうどボクたちが生まれる十三年前のこととはいえ、み~んなが語り継いでる伝説だよ?」
「……十三年前」
勇者と魔王の戦い。
僕が生まれる前に、そんな壮大な出来事があったのか。
「魔王ってひどいんだよ! 人間と和平交渉を結ぶフリをして……実は油断させるための罠だったの! 魔族がとつぜん人々を襲いはじめたことで、怒った人類は当時最強だった魔法剣士を勇者様にして魔王城に向かわせたの! 戦いの結果は相打ちだったけど……勇者様は見事、邪悪な魔王を倒したの! いまこうしてボクたちが生きていられるのは、勇者様のおかげなんだよ!」
フィーユは嬉々として勇者の伝説を語る。
「ボクもいつか、そんな勇者様みたいに立派な剣士になって、苦しんでる人々を守るんだ! そのために冒険者になって、強くなるって決めたんだ!」
迷いのない瞳を輝かせて、フィーユは拳を握った。
凄いなフィーユは。
僕と同い年なのに、そんな立派な夢を掲げて、頑張っているんだ。
「そういうローくんは、どうして冒険者に?」
「僕は……フィーユの夢と比べると大したことじゃないよ。僕を拾ってくれた師匠に恥じないような立派な魔法使いになりたいと思って」
「師匠?」
「うん。ちょっと変わった人だけれど、行き場所のない僕を育ててくれたんだ。だから冒険者になっていろんな経験を積んで、立派な魔法使いになって恩返しがしたいんだ。……あはは。平凡な夢でしょ?」
「そんなことない! 偉いよローくん! すごく立派だと思う!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ! よし! こうなったらお互い絶対に合格しないとね!」
「フィーユ……うん! そうだね!」
叶えたい夢は違えど、僕たちの気持ちは重なった。
彼女とならどんな試験も乗り越えられるような気がした。
『……っ!? ローエンス様! 杖を構えてください! モンスターの気配です!』
「っ!」
キャディの警告で、僕は咄嗟に杖を構える。
「ローくん?」
「フィーユ、気をつけて……近くにいる」
「っ!?」
明かりの届かない暗闇の奥から、ぬちゃぬちゃとした粘ついた音がする。
間違いない、スライムだ!
「抜剣!」
掛け声と共にフィーユが剣を抜く。
柄に赤い魔法石が埋め込まれた両刃の長剣を、前に突き出す。
「任せてローくん! スライムなんてボクが一瞬で片してみせるから!
フィーユが呪文を唱えると、握る剣に炎が纏った。
え? 火の上位呪文? まさかフィーユ……こんな場所で使う気か!?
「待ってフィーユ! 洞窟で火の魔法は……」
「せいやあああ!」
僕がストップをかける前に、フィーユは魔法を放ってしまった。
高圧の破壊光が放たれ、凄まじい爆撃が起こる。
「やった! 見たローくん!? 木っ端微塵だよ!」
「フィーユ! 走って! いますぐ此処を離れるんだ!」
「え?」
何考えているんだフィーユは!
こんな狭い場所であんな高火力の魔法を撃ったら……。
「洞窟が崩れるぞ!」
「へ? う、うわあああ!!」
あっという間に洞窟の天井が崩れ始める。
スライムどころか、僕らまでペシャンコになってしまう!
「
落石を念力魔法で抑え、何とか逃走時間を稼ぐ。
「はぁ、はぁ……あれ? なんか息苦しいような……」
「洞窟はもともと酸素が薄いんだ! そこであんな火の上位呪文なんて使ったら、余計に酸素が薄くなるよ!」
「ご、ごめんローくん。ボクそんなつもりじゃ……」
「とにかく、洞窟での戦闘で激しい攻撃や火の呪文はダメだよ。使うなら別の魔法を……」
「あ、あのね、ローくん」
「なに!?」
「……ボク、火の魔法しか使えない」
「……え?」
「それも、威力の高い上位魔法だけ……」
「基礎魔法は!?」
「だ、だって……派手な魔法のほうがかっこいいし、基礎とかめんどくさいし……」
「……フィーユ」
「はい」
「……君はそんな心構えで勇者を目指しているのか!?」
「うわ~ん! 村の大人たちと同じこと言われた~!!」
そりゃ言うよ!
勇者を志していながら基礎を疎かにするだなんて!
さっきの僕の感動を返せ!
『……ローエンス様、この女とは縁を切って放っておいたほうがいいですよ? 絶対にローエンス様の足を引っ張りますから』
『そういうわけにはいかないよ! パーティーを組んだ以上、運命共同体だ!』
キャディが善意でパーティー解散を勧めてくるが、ここで彼女を見捨てるのはさすがに良心が痛む。
……それに、こうしてパーティーを組んだ時点で、きっとギルドの審査官はパーティー内でどう立ち回るか見ているはずだ。
仲間を見捨てて、自分だけ生き残るのか、助けるのか……ここでフィーユを切り捨てたら、きっと僕は失格になるだろう。
なんとしても、二人でこの試験を乗り越えなくては!
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