ギルドの実技試験


    * * *


「よく来たわね、一攫千金を狙おうとする愚かな人間ども! あてぃしはこの冒険者ギルドで実技試験の審査を務めるゴーレムよ! 最近はバカみたいに冒険者になろうとする輩が多くて、とても捌ききれないっていうから、あてぃしみたいな使い魔がこき使われているってワケ! この実技試験も突破できないような雑魚はとっとと追い出してやるから覚悟おし!」


 口調は女性だが声は野太い男性のゴーレムがそう説明をする。

 広々とした試験会場には、僕以外にもたくさんの人が集められている。

 どうやら実技試験は一緒くたに審査するようだ。


「アンタたちには今から魔法で作った仮想空間に入ってもらうわ! その中に出現するモンスターと戦うの! 魔法研究機関が編み出した最新技術よ! とくとご覧なさい!」


 天井に浮かんでいる球体が眩い光を放つ。

 すると、僕らのいる場所がとつぜん荒野になったり、草原になったり、海になったり、山岳地帯になったりした!

 空気の匂いも、地面の感触もまるで本物だった。

 すごい! なんて技術だ!


「仮想空間のモンスターといっても、忠実に再現してるから舐めてかかると痛い目見るわよ! まあ死ぬことはないけど、みっともないところを見せたら即失格だから本気でやりなさい! いまこの場にいる連中で即席のパーティーを組むのも自由! 腕に自信があるのならソロでやるのも自由! 試験終了までモンスター相手に生き残れた者を合格者とするわ!」


 なるほど。

 方法は問わないので、最後までモンスターにやられないようにすればいいのか。

 僕はどうしよう。一応ソロでやれる自信はあるけど、念のため誰かとパーティーを組んだほうがいいだろうか?

 ……うぅ、でも初めて会った人に声かける自信がないな。


「くくく、ついにこの日が来た。俺様の実力を見せてやるぜ」

「きひひ、実技試験で躓いてたまるかよ」

「ひょひょひょ、モンスターなど諸共狩り尽くしてさしあげますよ」


 しかも、なんか強面でおっかなさそうな人ばっかりだし。

 みんな変な笑い声だし。

 近寄らないでおこう。


「ねえ、そこの君! 良かったらボクとパーティー組まない?」

「え?」


 おっかない人たちとは異なる、爽やかで愛らしい声がする。


「はじめまして! ボクはフィーユ! 魔法剣士だよ!」


 赤毛の長髪をポニーテールにした、同い年くらいの女の子だった。

 動きやすさを重視した身軽な格好で、腰元には長剣の鞘がある。

 魔法剣士……こんな幼い女の子が剣を振るうのか。


「えっと、僕はローエンス。魔法使い見習いです」

「歳はいくつ?」

「十三です」

「じゃあボクと同じだね! 良かった! 歳が同じくらいの子がいて安心したよ! なんか周りがおっかない感じの大人ばっかりだから心許なかったんだよね!」

「あ、わかります」

「わかってくれる!? ボクたち気が合うね!」


 そう言ってフィーユさんは僕の手を握ってブンブンと振る。

 それに合わせて……。


 ぶるんぶるん!


 フィーユさんの小柄な体に似つかわしくない豊かな胸元も激しく揺れる。

 ……同い年? 同い年ってことはフィーユさん十三歳だよね?

 十三歳で、この膨らみ?


『ひゃ~。最近の子どもは発育いいですね~ローエンス様。あ、よろしければあたしが催淫かけてエッチなシチュエーションに持ち込んであげましょうか?』

「っ!?」

「んっ? どったの? 急に顔赤くして?」

「い、いえ何でも!」


 とんでもない発言はフィーユさんには聞こえていない。

 いまのは使い魔の主人である僕にしか聞こえない念話だ。

 僕は慌てて、使い魔のキャディに注意をする。


『こらキャディ! 変なこと考えないで!』

『え~? でもサキュバスとしては主人のエッチな気持ちは尊重したいところがございまして……』

『そういう気遣いいいから!』


 契約した使い魔とは念話で会話することができる。

 そして現在キャディは姿を隠す魔法を使って、僕の傍に控えている。一応、僕のサポートをする形で付いてきてくれている。

 ただ師匠曰く、サキュバスを使い魔として連れていると知られたら結構な大騒ぎになりかねないということで、姿を見せないように言いつけている。

 なにせモンスターの中でも上位種の一角であるサキュバスだ。たとえ使い魔だとしても警戒する人間は後を絶たないだろう。

 なるべく目立つことはしないようにと伝えたが……頼むから、変な真似はしないでくれよ?


「こほん。僕でよければ、喜んで組ませていただきます」

「ほんと!? ありがとう! それじゃ、よろしくね! あ、敬語はいいよ! 気軽にフィーユって呼んでね! ボクもローくんって呼ぶから!」

「う、うん。わかった。よろしくね、フィーユ」


 随分と気さくな女の子だ。人見知りの僕でもあっという間に心を許してしまう明るさと人なつっこさが彼女にはある。

 いままで、歳の近い女の子とこんな風にやり取りしたことがなかったから、なんだか新鮮な気分だ。


「さて準備はいいかしら? 早速実技試験を始めるわよ!」


 ゴーレムの宣言で空間に変化が起こる。

 場所は深い森林の中。昼間にも関わらず、空は夜になっている。

 そして目の前には、洞窟の入り口があった。


「これって……」

「洞窟の中に入れってことかな?」


 僕とフィーユは同時に首を傾げると、空から「その通り!」とゴーレムの声がした。


『実技試験は洞窟の中でやってもらうわ! 洞窟の中にいるのはスライムの群れよ!』


 スライムの群れ?

 再生力と伸縮性に優れていること以外は、特にパワーもないモンスターじゃないか。

 そんな弱いモンスターが相手なのか?


「な~んだ。スライムなら楽勝だよ。ボクなんて十歳のときに村に迷い込んできたスライム追っ払ったことあるもん。良かったね、ローくん! 簡単そうな実技テストで!」

「う、うん」


 ……本当にそうだろうか?

 ギルドの試験がそんなに甘いものとは思えない。

 それに師匠は言っていたじゃないか。


『環境や条件によって脅威度が上がるモンスターもいるわ。地の利を活かすのは、決して人間だけではないってことよ?』


 確かに僕はスライム以上に強いモンスターとは戦ってきた。

 けれど洞窟での戦闘を経験したことがない。もしかしたら……それが大きな失敗の元になるかもしれない。


『冒険者を目指すならスライム程度に苦戦しないでちょうだいね~? それじゃ試験開始!』


 ゴーレムの意味深な発言によって、試験は始まった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る