冒険者としての躍進


 冒険者となって、フィーユと一緒にクエストをこなす日々が繰り返された。

 最初は水質の調査とか荒れ地の掃除など、初心者向けのクエストなどで成果を上げた。

 そうして徐々に難易度の高いクエストを請け負い、モンスターと戦う頻度が多くなった。


「ローくん! そっち行ったよ!」

「任せて!」


 そして現在、僕たちは山村を悩ませるモンスターの討伐をおこなっていた。

 亜音速で飛び交う巨大なハチ型のモンスター、ブラストビー。

 群れで行動し、動くものすべてに攻撃を仕掛ける凶暴なモンスターだ。

 あまりにも素早い動きをするため視覚でその姿をとらえることは難しく、毒針の攻撃も一発でも喰らうと即死レベル。討伐難易度の高い危険な相手だ。

 ……だが、いまの僕たちなら!


 まずフィーユの高火力広範囲魔法で標的を巣から炙り出し、キャディの魅了魔法で僕のほうへ引き寄せる。

 空気を破る勢いのスピードで大型のハチたちが向かってくる。

 いまだ! 新しい魔法を試すときだ!


遅緩スロー!」


 広範囲に展開される魔法。

 すると、目でも追えなかったブラストビーたちの動きが突然ピタリと止まる。

 いや、正確には動いているのだが、その動きはあまりにも緩慢だ。

 この遅緩魔法は、一定の空間に入ったものの動きを緩やかにする効果を持つ。

 しかし持続効果はたったの三秒だ。ここで決めるしかない!


「いまだフィーユ! 一緒に片付けるよ!」

「了解! 豪炎斬ブレイズザッパー!」


 フィーユの大技が炸裂し、ブラストビーの群れが瞬く間に半壊する。

 さすがフィーユ。一振りだけでも凄い威力だ。

 よし、僕も負けてられないぞ!


照準ロックオン!」


 瞳に魔力を込めて、残存する敵すべてを目視し、位置を把握。


「これで終わりだ! 雷槍ライトニングランス!!」


 複数の雷の槍を出現させ、一匹残らず串刺しにする。

 視界を広げ、あらゆる角度から標的を捉えることができる照準魔法に加え、特定の位置に振り下ろすことができる雷の中級攻撃魔法。

 これで群れのモンスターにも対応できるようになった。

 実技試験のときのように、もうモンスターの群れに苦戦させられることはない。


「残る群れの気配は……うん、無しだね。討伐完了だ」

「やったねローくん! えへへ、ボクたち絶好調だね! つい最近冒険者になったばかりなのにお互いにもうCランクだし! この調子ならあっという間にBランクに……いや、Aランクも夢じゃないよ!!」


 フィーユが目を星のようにキラキラさせながら言う。

 確かに新米冒険者としては異例のスピードでランクを上げている僕たちだけど、さすがにまだAランクは気が早いと思う。


「もう、フィーユはすぐに調子のるんだから。でも確かにここまで順調だね。新しく覚えた魔法も何とか使いこなせているし」

「ローくんって本当にいろんな魔法覚えるの早いよね~。前に話してくれたお師匠さんだっけ……その人とよっぽど過酷な修行をしてるんだね! いったいどんな修行なの!?」

「え? それは……ちょっと口にできないかな……」

「口にできないほどの過酷な修行なの!? こわ~い!」


 フィーユが勝手な想像をしてビクビクと恐怖に震える。

 彼女の頭の中でいったいどんな恐ろしい修行光景が広がっているのか知らないが、これは勘違いさせたままのほうがいいかな。

 だって女の子のフィーユには絶対に言えないよね、あんな修行内容。


 遅緩魔法を教わったときは……。


『あはーん♡ 遅緩魔法のコツは範囲指定よ♡ 標的を逃がさないためにも意図した場所に展開できるようになりなさ~い♡』

『師匠! 理屈はわかりますが、なぜ揺れる胸と捲れたスカートだけに遅緩魔法を使う必要があるのでしょうか!?』

『ふ、複雑な操作を覚えるために必要なことだからよ♡ さあ、三秒間じっくり見なさい♡ スローモーションで動く私の乳揺れとスカート捲りをおぉぉん♡♡♡』


 照準魔法のときだって……。


『いやーん♡ ほら、いろんな角度から見るのよ♡ 上から胸の谷間を♡ 下からスカートの中身を♡ あん♡ いろんなところからローエンスの視線を感じるぅ~♡』


 雷の槍のときだって……。


『魔法はイメージが重要よ! 槍よローエンス! 槍なのよ!? 男なら馴染み深いものがあるでしょ!? 思いきり突き込むの! 穴に突っ込むように♡ そして先っぽから思いきり熱いのをぶちまけるの♡ ドバァーって雷を♡」


 最後のはよくわからなかったけれど、凡そ人様には見せられない痴態の数々。

 まあ、相も変わらずそのハレンチな修行のおかげで僕は成長できているわけだが。


『覚えたい魔法があったらいつでも言いなさい♡ 前以上に過激に……げふんげふん! 厳しく指導してあげるから! 強くなりたければ勤勉であり続けなさい! ……だからちゃんと頻繁に帰ってくるのよ!? フィーユとかいう小娘とあまり夜営とかしちゃメッですからね~!?』


 僕が冒険者になったからか、この頃の師匠は以前以上に僕の育成に熱を入れてくれている。

 何だかんだ、僕のことを考えてくれているんだなぁ……。

 よ~し、師匠のご恩に報いるためにも、もっといろんなクエストをこなしてAランクを目指すぞ~!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る