世界で一番優しくて、世界で一番ひどい男2
黒緋に側にいてほしいと望まれてから七日が経過しました。
今、私は黒緋と二人で
いつもなら黒緋は紫紺と鍛錬をしている時間ですが、今日は離寛が鍛錬の指導をしているのです。そのこともあって黒緋が食材の買い出しについてきてくれました。
もちろん天帝に買い出しに付き合わせるなんて
「鶯、見ろ。あそこの露店は海を渡ってきた商人の店のようだぞ」
「そうですね、初めて見ました。行ってみましょうか」
「ああ」
私と黒緋は異国の品々が並んでいる露店に来ました。
そこには見慣れぬ形の小物や調度品、絹織物が並べられています。
珍しい形や色の品々に見とれてしまう。山奥で育ったので異国の品を生まれて初めて見ました。
「どれも見事な品々ですね。こんな美しい
美しい品々のなかで
なんとなく
「店主、この
「こちらですね、ありがとうございます」
黒緋は店主から
「受け取ってほしい。お前への贈り物だ」
「ええっ!」
驚いて目を丸めてしまう。
贈り物なんていきなりすぎです。そもそも贈り物なんてされるのは生まれて初めてで……。
「ま、待ってくださいっ、受け取れません! 受け取る理由がありません!」
「なぜだ。この
「見てましたけどっ、だからといって……」
だから欲しくて見ていたわけではないのです。ただ美しいと思って見ていただけで……。
「……それとも私、
申し訳なくなって縮こまってしまいます。
そんな私に黒緋が少し困ったように目を丸めました。
「……まさかそんな反応をされるとは思わなかったな。ただ俺が贈りたいだけなんだが」
「そ、そういうものなんですか?」
おずおずと見つめると黒緋が優しく目を細めて私を見つめます。
「嫌でなければ受け取ってほしい。嫌ではないんだろ?」
「っ、は、はい! 嫌なわけありません! ありがとうございますっ……!」
私は
受け取ると黒緋も嬉しそうに笑んで、私の頬が熱くなっていきます。
「すみませんっ。こうして贈り物をしてもらうのは初めてで、どういう反応をすればいいのか迷ってしまってっ……。でも、嬉しいです。贈り物ってこんなに幸せな気持ちになれるんですね」
夢みたいでした。
贈り物ってすごいのですね。こんな幸せな気持ちになれるなんて、ほんとうに夢みたいです。
「ありがとうございます。大切にします」
両手で受け取った
この
こうして喜ぶ私に黒緋が
「
「も、
「そうか? 贈り物一つで喜んでくれるなら安いものだぞ」
「…………」
「お前はおもしろいな」
黒緋はそう言ってまた笑いました。
私はなんだか少し恥ずかしくなって、誤魔化すように頬をかいてしまう。
一人ではしゃいでちょっと恥ずかしいです。
もしかしたら黒緋にとって贈り物をするのは慣れたことなのかもしれませんね。贈ったり、贈られたり、彼にとってはなんともないことなのかもしれません。
「人が増えてきたな」
ふと黒緋が言いました。
気が付けば露店の周りには人が集まってきていました。珍しい異国の品々に足を止める人が多いのです。
「鶯、移動するぞ」
「あ……」
手を、握られました。
私の手を握ったまま黒緋が歩きだして、私は引っ張られるままについていきます。
人混みのなかを離れないようにしっかりと握られて、そのぬくもりと感触に意識が集中してしまう。胸が痛いほど高鳴って呼吸の仕方も忘れそう。
人混みを抜けて黒緋が立ち止まりました。
私も立ち止まります。でも握られた手が気になって落ち着きません。
そんな私に黒緋も気づいて、「いきなり悪かった」と申し訳なさそうに言いました。
でもそうしながらも手は握られたままで……。
「このままでもいいか?」
「え?」
「このまま、もうしばらく」
「あ、……はい」
小さく頷きました。
顔が耳まで熱いです。握られた手は黒緋のぬくもりとまじりあって、まるで自分の手じゃないみたい。
手を繋いで
でも気になりませんでした。だって今は手を繋いでいる黒緋に夢中で自分たち以外の言葉なんて聞こえません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます