はじめての恋1
翌日。
「綺麗にできました。しばらく誰も歩いてほしくないですね」
うんうん頷いて出来栄えに満足します。
広い庭園を見回して、ふと池で視線が止まりました。
庭園の真ん中にある広い池。朱色の橋が架かった
でも七日後の満月の夜、この池に
にわかに信じがたい……。
そもそもこの池に蓮の花はないし、赤ん坊が蓮から生まれるなんて聞いたことがありません。
やっぱりからかわれたのでしょうか……。一抹の不安を覚えてしまう。
でも、いえいえいえいえと首を横に振って不安を散らします。
黒緋はそんな
私は下腹部に手を当ててみます。そこに
「よく分かりませんが、いるんですよね。元気に生まれてきてください。待っていますからね」
私はそっと語りかけました。
できれば強い子がいいですが、今は無事に誕生してくれることを願います。黒緋もとても楽しみにしているんです。
私はまだ見ぬ赤ん坊に思いを
女性の目を引くような見目が整った男です。しかも男は腰に
なんとなく見ていると、視線に気づいた男が振り返って驚いた顔をしました。
「えっ、ええ!? どういうことだ!」
突然
失礼すぎます。あまりに失礼で眉間に皺を刻んでしまう。
でも不機嫌になる私に構わず男は驚いた顔で近づいてきます。
「あの、あんた、いったい誰!?」
失礼すぎる男は私を指差して言いました。
あまりの
「あなたの名は? 人を指差す前に名乗るべきではないですか?」
「ああそうだったっ、ごめんごめんっ! 俺は
「黒緋様のご友人でしたかっ。それは失礼しました。では離寛様、どうぞこちらへ」
「ちょ、ちょっと待ってっ。その顔で様付けされるのはちょっと……。離寛でいいから」
「え?」
この人いったいなんなんでしょう……。
敬称をつけずに呼べなんて不審が隠せません。
「そういうわけには参りません。見知らぬ
「いや、そうなんだけどそうじゃなくて……。ああ〜、その顔で離寛様とかほんと
離寛が空を
私はますます訳が分からなくなりました。不審たっぷりに見つめていると屋敷から黒緋が出てきました。
「鶯、庭掃除をしていると聞いたぞ。離寛、来てたのか」
黒緋は離寛にそう言いながらも私のところへ真っすぐ歩いてきます。
そして少し困った顔で私の手から
「どういうつもりだ。自分が
「そうですが、体になにも変わったところはありませんし」
「それでも子を孕んでいることには変わりない」
優しくたしなめられて、なにも言えなくなりました。
過保護なような気もしますが、どうしてでしょうね、悪い気はしないなんて。
「……すみませんでした」
「謝らなくていい。ただ次から気を付けてくれ。お前になにかあってからじゃ遅いんだ」
「黒緋様……」
なんだか照れくさいですね。
近い距離で目が合って頬がじわりと熱くなりました。
そんな私たちに離寛が苦笑して声をかけてきます。
「黒緋、俺もいるの知ってるだろ」
「ああ、そうだったな。悪かった。鶯が庭掃除をしていると聞いて慌てたんだ」
黒緋はそう言うと離寛を改めて紹介してくれます。
「鶯、この男は離寛。俺の古い友人だ。離寛、この女性は鶯。昨日からここに滞在している」
「昨日から?」
「ああ、しばらくここにいてもらうつもりだ。鶯は伊勢からきた白拍子でな、とても美しい
「初めまして、鶯と申します。黒緋様にはお世話になっています」
私は深々とお辞儀しました。
黒緋の古い友人なら丁重にもてなさなければ。今夜の酒や料理を用意しなければいけません。
「今から
「頼む」
黒緋はそう答えてくれましたが、「お前も手伝うのか?」と少しムッとした顔になりました。
その反応に苦笑してしまいます。
この屋敷の女官や下女は黒緋の式神たちなので、心配してくれるほど大変なことなどないのですよ。力仕事もほとんどありません。
「休んでいてほしいんだが」
「無茶はしませんからお手伝いさせてください。あんまり動かないというのも体に良くないそうですよ」
「そうなのか?」
「そうです」
「むっ……」
黒緋が
納得したようなしてないような、そんな様子にまた小さく笑ってしまいました。
「それでは支度がありますので私は失礼します。離寛様、どうぞごゆっくり」
私は黒緋と離寛にお
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます