第27話 忙しい文化祭1日目
「どうしよ、どうしよ!」
「本番まで後10分だよ!」
軽音楽部のあるグループが1人行方不明で舞台裏でどうしようかと相談していた。
俺はこの方達にそろそろ舞台袖に行ってくださいと伝えなくてはならないのだが、この状況で言うのは違う気がする。
タイミングを見計らって伝えようと考えているとグループのリーダーらしき女子に声をかけられた。
「あなた、暇?」
「へっ?」
「暇よね。なら、私たちのメンバーのまこちゃん探してきてくれない?」
誰ですか、まこちゃんとやらは。それに俺は迷子のこを探す当番は割り当てられてないんですけど。
かといって相手は先輩で、本当に困っている様子だったので俺は頷くことしかできなかった。
(暇ではないんだけど……)
まこちゃんとやらの顔を俺は知らないので取り敢えずまずは校内放送でどこにいるか呼び出すことにした。
放送室でまこちゃんさんを待つわけにも行かないので校内で情報集めをする。
まこちゃんさんの学年は3年生。だから3年生の出し物にいる人に聞いてみよう。
何人かの人に聞いていくが、結果見つからず、体育館のステージ裏に戻ってきて「見つかりませんでした」と言うつもりでいたが、まこちゃんさんがいた。
「ごめん、少年。まこちゃん、見つかった。探してくれてありがとね」
(み、見つかったのなら良かった……)
俺は先輩に良かったですねと俺は走り回っていたので息切れしながら言った。
探してくれたお礼にチョコをもらい、それを食べてステージ裏での仕事を頑張ることにした。
その後もトラブルが続き、俺は動きっぱなしだった。雨音と同じところで仕事しているはずなのに全く会うことがない。
すれ違うことはあったかもしれないが、それも覚えてないほどにバタバタして忙しかった。
午前は終わり、お昼になると葉月先輩がお疲れ様と言ってもう終わっていいよと呼び掛けられたので雨音と中庭でお弁当を食べることにした。
「楽しかったですね。蒼空くん、お疲れ様」
「うん、雨音もお疲れ様」
お互いにお疲れ様と言い合い、お腹も空いているので弁当を食べ始める。
「そう言えば、雨音って自分でお弁当作ってるのか?」
一人暮らしなので用意するお母さんは当然いないので雨音が作っているのだろうが、一応聞いてみた。
「そうですよ。もし、良ければ明日から蒼空くんのお弁当も私が作ってきましょうか?」
「えっ、いや、それは悪いよ。朝お弁当作るのってかなり大変だろうし」
俺はいつも母さんが作ってくれているが、前に一度自分で朝早くに起きてお弁当を作った時、大変だと感じた。
だから2人分となるとさらに時間もかかるし、大変なのは間違いないだろう。
「蒼空くんに私の作ったものを食べてもらえるのならそんなこと気にしませんよ。それに私、料理好きですから」
雨音が作る弁当は食べてなくても絶対に美味しい。それが学校がある日は毎日食べられることになるとどれだけ幸せだろうか。
ここでお願いしようかなと言ってしまえば雨音は明日から俺の分まで作ってきてくれるだろう。けど、ダメだ。
返答に迷っていると雨音はいいことを思い付いたのか口を開いた。
「蒼空くんが遠慮しているようなのでここで提案です。食費は半分出すこと、帰り道スーパーに一緒に寄る、これを条件に私は蒼空くんのお弁当を作ります。どうですか?」
「……毎日作ってもらうかどうかは後で決めるとして1日、お試しで。雨音、意外と2人分作ってみたら大変かもしれないからな」
お試しなら雨音が1度やってみて大変だと思ってもやっぱり二人分作るのは無理と言い出しやすい。
「はい、ではそうしましょう」
明日どの出し物を回ろうかと話し、お昼休憩は雨音と過ごした。
お昼休憩が終わった後は、文化祭1日目の午後の部が始まった。
俺と雨音はクラス当番だ。雨音はメイド服に着替えるとのことで別れた。俺は1人で教室に向かい、中に入ると陽菜が手招きしていた。
彼女はすでに着替えているようでメイド服を着ていた。
「どうどう?」
「ん、可愛い」
「感想短っ! あっ、わかった、あまねんのメイド服を先に見たからリアクションが薄いんだね。うん、納得」
1人で何かに納得した陽菜はうんうんと頷く。
雨音は陽菜に俺にメイド服を着たところを見せたことを言ったのか。
「玲央にはもう見せたのか?」
「うん、見せたよ。そだ、私、玲央に告白しようと思うんだ」
彼女はそう言って小さく笑った。自分の気持ちに気付き、決めたことだからもう前に突き進むだけ、そんな表情をしていた。
「頑張れ。応援してる」
「うん、頑張る。だからさ─────」
***
「あっ、君、この後、一緒に回らない?」
「すみません、そのようなサービスはこの喫茶店では行っていません」
近くにいた俺はナンパされている雨音を見た。彼女はキッパリと断っていたが、相手はしつこく彼女に言う。
「接客終わってからでいいからさ。なっ?」
ああいう奴は早めに追い払わないと他のお客さんが何事かと思う。
雨音を助けるため俺は彼女の前に立ち、ナンパしたお客さんに向けてニコニコと笑いながら注意した。
「お客様、ここはそういう場所ではないんでまだ彼女にそのようなことを言うのならお帰りください」
「ちっ」
舌打ちして相手は黙り込んだので取り敢えずこれで雨音にまたナンパすることはないだろう。
「蒼空くん、ありがとうございます」
「困ったことがあったらすぐに助けに行くから」
「わかりました、困ったら助けを呼びます」
彼女は嬉しそうにそう言って、接客へ戻っていった。
雨音と入れ違いに玲央がこちらへ来た。
「蒼空、列の整理お願い」
「わかった」
玲央に頼まれ、教室を出て列の整理をしていると文化祭には似合わないスーツを着ている男性が話しかけてきた。
「すみません、水篠雨音さんいますか?」
答えようとしたが、怪しいと思ってしまった。理由はわからないが何となくこの人には雨音のことを教えてはならない気がした。
「あぁ、すまないね。私は怪しい者ではないよ。水篠雨音の父親の
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