第5話 じぇらっ……

 放課後。水篠は、あの場所に寝に行かずちゃんと教室にいた。


 今までなら一緒にいることがなかった4人だが、一緒に教室を出て水篠と丹波さんがよくいくカフェへと向かうことになった。


 着いたカフェは、店内がオシャレで玲央と二人っきりでは絶対に行かない場所だった。


 こういうところって女子が多いから行きにくいんだよなぁ。


 由香と行ったときも……って、俺は、もう由香との関係は何もないのに何で思い出してしまうんだろう。


 振られて俺も彼女への好きな気持ちは薄くなっていったと思っていたが、完全にはなくならない。


 彼女とはあれから一度も会っていない。まぁ、会っても気まずいだけだし、会わない方がいいか。


「ツンツン。式宮くんは、決まりましたか?」


 隣に座る水篠から頬をツンツンとふにふにされて、横を向くと彼女と目が合った。


 ツンツンって言うところが可愛いと思いながらも俺は彼女とメニュー表見る。


「水篠は、どれにするか決まったのか?」


 ここによく来ているとのことなので何かオススメがあるか気になったので聞いてみた。


「私は、このチーズケーキと紅茶のセットです」


「チーズケーキか……じゃあ、俺も紅茶にしてケーキは、ショートケーキにしようかな」


「いいですね、ここのショートケーキは美味しいですよ」


 どうやら水篠は、ここのショートケーキを食べたことがあるらしい。


 全員決まったところで注文し、注文したものが届くまで話して待つことになった。


「さてさて、まずは自己紹介タイムにしちゃう? あまねんと玲央は、話したことないみたいだし」


「そ、そうですね。クラスメイトなのでご存知かもしれませんが、水篠雨音です」


 彼女は、礼儀正しく挨拶し、玲央に向かってペコリとお辞儀した。


「これまたご丁寧に。蒼空の親友の朝日玲央です」


「2人とも普通すぎるよー。あまねんは、好きなこととかないの?」


 お互いのことを知るには自己紹介が短すぎると思った丹波さんは、水篠に尋ねた。


「好きなこと……そうですね、お菓子作りとか好きですよ」


「昼寝は……」

「式宮くん、何か言いましたか? あらあら、ケーキがきましたよ、食べましょうね?」

「そ、そうだな……」


 寝ることが至福の時間だと彼女が言っていたので好きなことはてっきり寝ることかと思ったが、彼女は、ニコニコしながら俺の言葉を遮ってきた。


 注文したショートケーキが届き、さっそく食べることにする。すると、隣で水篠は、もう食べ始めていた。


 凄い幸せそうに食べてる……。何だか水篠がリスに見えてくるんだが……。


「ん……美味しい」


 自分も頼んだショートケーキを口に入れると口の中に甘い香りが広がった。


「式宮くん、こちらも食べますか?」


「ん?」


 横を向くと水篠は、一口サイズのケーキを突き刺したフォークを俺に向けていた。


「はい、あ〜んです」


 ニコニコしながら彼女は俺に食べてほしそうな表情をして待っていた。


「あ、あ〜んって俺は────」


 玲央と丹波さんもいるし、食べさせてもらうのは色々とマズイ気がしていらないと言おうとしたが、水篠が頬をぷくっ〜としていて言おうにも言えなくなってしまった。


 どうしようかと困っていると斜め前に座る丹波さんが口を開いた。


「あまねん、それ、間接キスになるよ」


「えっ……あっ、や、やっぱりなしです。今の私の行動は綺麗さっぱり忘れてください!」


 丹波さんの言葉を聞いた水篠は、顔を真っ赤にしてフォークを皿の上に乗せて俺の服の袖をぎゅっと握り、泣きそうな目でお願いしてきた。


「わ、わかった……わ、忘れるよ」


 と言っても今すぐ忘れるのは難しいな。水篠を見ると思い出してしまう。


「ねぇ、玲央、追加注文したいしショーケースにあるケーキ見に行ってもいい?」


「何で……あっ、いや、見に行こうか」


 丹波さんは、玲央を誘い、ショーケースにあるケーキを見に行くといって行ってしまった。


 行く前に、丹波さんは、耳元で水篠に何か囁いていたが、俺には聞こえなかった。


「あ、あの、式宮くんのフォーク少しお借りしてもいいですか?」


「俺の? 別にいいけど……」


 何をするのだろかと思い、彼女のことを見ていると水篠は、借りた俺のフォークをチーズケーキに突き刺し、それを俺の方に向けた。


「ど、どうぞ……」


「えっ、もらっていいのか?」


 さっき、忘れてとか言っていたけど、リベンジ的なやつだろうか。


「ど、どうぞ……」 


「じゃあ、いただきます」


 食べさせてもらうのは気恥ずかしかったが、水篠の食べてほしそうな表情に負けて1口もらった。


「うん、美味しいな……。水篠もいる?」


 本人は俺に気付かれないようケーキを見ていたようだが、先程から彼女は、ショートケーキをチラチラとほしそうに見ていた。


「ほ、ほしくないです……」


 彼女はそう言ってぷいっとケーキから視線を反らしたが、横目で俺の方を見た。


(ほ、ほしそう……)


「水篠、ほしくない?」


「むむっ……ほ、ほしくないですよ」


 一瞬、迷っている感じがしたが、ダメか。俺は、最終手段として水篠の頬をふにふにとつつくと彼女は、パッとこちらを向いた。


「はい、あーん」


 彼女は美味しそうなケーキが目の前にあり、誘惑に負けたのか髪を耳にかけてパクっとショートケーキを食べた。


(小動物みたいで可愛い……)


「ん~美味しいです。やはりこのカフェのショートケーキは、甘くていいです」


「じゃあ、苺もどうぞ」


 フォークで突き刺した苺も渡すと彼女は迷いなくパクっと食べた。何だか、餌付けしている気分になってきた。


「甘い苺です! 前から思っていましたが、式宮くんって手慣れた感ありますよね。やっぱり彼女さんがいたからですかね?」


「手慣れた感?」


「私みたいに恥ずかしがって食べさせていなかったので彼女さんによくやっていたのかなと」


 彼女は話しながらケーキをフォークで突き刺してパクっと食べる。


「いや、そんなには……」


「そんなには……じぇらっ……」


「じぇら? どうした? 頬を膨らませて」


「何でもないですよ。あっ、2人が戻ってきました」


 怒ってるわけでもないし気にしなくてもいいことかもしれないが、俺は彼女に何かしてしまった気がする。


「やったね、あまねん」

「みっ、見てたのですか? 恥ずかしいです」


 戻ってきた丹波さんは、後ろから座っている水篠にぎゅっと抱きついた。


(見られていたということは……)


 同じく戻ってきた玲央のことを見ると、ニヤニヤしているだけで特に何も言ってこないのだった。







     

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