第6話 帰り道、元カノと
「じゃあ、また明日~」
カフェで解散となり、同じ方向である玲央と丹波さんは、俺と水篠とは反対方向の方へ歩いていった。
「じゃあ、途中まで一緒に帰るか」
同じ方向なのに別々で帰るのも何だか違う気がして誘ってみる。
「はい、途中まで」
横に並び、彼女の速度に合わせて歩く。無言でこのまま別れるのも勿体ない気がして俺から話題を振ってみる。
「そう言えば水篠って一人暮らしだよな。1人だと家事とか何かと大変じゃないか?」
自分は、料理ができる方だが、お母さんが作ってくれると思ってまだ頼りきっているところがある。
一人暮らしとなれば当然何もかも自分一人でやらなければならない。
「大変ですけど、料理は好きなので特に困ったことは……」
彼女は、特に困ったことはないと言おうとしていたが、言葉を止めた。
「その顔、あるよな?」
「なっ、ないですよ! 掃除が苦手なんてそんなことないです!」
「さらっと言ってますけど……」
「き、聞かなかったことに……」
そう言った瞬間、彼女は、何かに躓き転びそうになったので隣にいた俺は咄嗟に手を差しのべて、彼女の体を支えた。
「……大丈夫か?」
「だ、だいじょうふです……」
上手く言えてないけどケガはないようで大丈夫そうだ。
彼女から手を離すと後ろから聞き覚えのある声がした。
「蒼空……?」
「由香……」
後ろを振り返るとそこにはバイトへ行こうとする由香の姿があった。
彼女がこの近くでバイトをしているのは知っているが、会うとは思ってもなかった。
「水篠さん……だよね? 蒼空、彼女と付き合い始めたの?」
振ったからもう俺のことは何も興味ないはず。それなのに由香は、俺に聞いてきた。
「いや、彼女とはただのクラスメイト。由香は、水篠のこと知っているんだな。同じクラスになったことあったのか?」
「ううん、ないよ。知ってるも何も水篠さん、中学から男子にモテモテの有名人だし。やっぱり、こうして近くで見ると可愛いわね」
そう言って由香は、隣にいる水篠に近づいた。
「か、可愛いなんて……」
「いや、可愛いよ。自信持たないと勿体ない」
由香にそう言われて水篠は、顔を赤くしてプルプルと首を横に振る。その仕草がまた可愛らしくて由香は可愛いと呟いていた。
別れてから会うこともなく、会ったら気まずいだろうなと思っていたが、由香はいつも通りだ。
「私、蓮見由香。今日は、時間ないから話せないけどまた話そうね、水篠ちゃん」
「は、はい……」
由香は、俺のことを一瞬見たが、すぐに目をそらして立ち去っていった。
(嫌いになったわけじゃないと言っていたけど、こう目をそらされると何か……)
「式宮くん、私はここで。スーパーに寄って帰るので」
「あぁ、うん。じゃあ、また明日」
そう言って別れようとすると水篠が俺の目の前に来て頭を優しく撫でてきた。
「水篠……?」
「何となく撫でたくなりました。嫌でしたらすみません」
「……嫌じゃないよ、ありがと」
お礼を言うべきところかわからなかったが、彼女が頭を撫でてくれて心が和らいだ気がした。
「あっ、あのクッキー美味しかったよ」
「本当ですか? そう言ってもらえて嬉しいです。また機会があれば作りますね。では、また明日」
「あぁ、また明日……」
水篠と別れた後、俺は、1人で帰り、家に帰った。ただいまと言ったが、返事がないので家には誰もいないようだ。
母さんは、おそらく買い物だ。父さんは、この時間だからまだ仕事だろう。
リビングは広くて1人でいるのには落ち着かないので2階にある自室へ向かった。
制服を着替えようとしたが、その前にベッドへ転がってしまった。
「普通に話せた。けど……」
由香が俺の名前を呼んでくれて正直、嬉しかった。
由香のことが今も好きなのか正直、今はわからない。好きじゃなくなったと言われてから俺の由香への気持ちは自分でもはっきりしない。
水篠と付き合い始めたのかと由香に聞かれた時、俺は、どういう気持ちで答えたんだろう。
水篠のために否定しようと思う気持ちか、それとも由香にまだ好きだよ、だから他の人と付き合い始めるわけないと言いたかったのか。
***
「何で……」
蒼空と別れて抱えていた不安はなくなったのに、今日、久しぶりに会って心がモヤッとした。
このモヤモヤが何なのかわかりたくないのにわかる。蒼空と付き合い始めて何回かなったこの気持ち……。
(表情にはでなかったと思うけど、私、嫉妬してた……)
蒼空の隣に自分ではなく水篠さんがいて、モヤッとしてしまった。
私はもう蒼空のこと好きじゃなくなったはずなのに……なんで……こんな気持ちになるのよ。
蒼空と水篠さんが一緒にいて付き合っているのかなと思ったときは、聞くのが怖かった。けど、気になったから聞いた。
ただのクラスメイトと聞いたときはホッとした。これも何でなのかわからない。
自分の別れるという選択を間違ったとは思いたくない。蒼空のことを考えるのはダメだ。考えるほどまた私は苦しい気持ちになっていくだけだ。
けど、一度考えてしまうと中々別のことを考えるのは難しい。
ベッド寝転び、ふと、私は蒼空とのメッセージのやり取りを見てしまった。
別れようと決めたのは私だ。振ったから未練もない。だから、嫉妬なんてするわけがない。
「そうよ、気のせい気のせい」
そう言ってスマホをスライドさせてメッセージを見ていく。
おはよう、おやすみ、また明日、明日の朝は一緒に行こう、この漫画面白いんだよ、明日また会ったときに。
特別な会話はしていないのに何だろう……。彼女の時みたいに一人占めしたいとかそんなことをなぜ私は、思ってしまっているのだろうか。
もしそうなら早く消さないと。私は、もう蒼空の彼女でも何でもないんだから。
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