第7話 眠り姫はどうやら中学の頃から俺のことが気になっていたらしい
「あっ、また寝てる……」
翌日の放課後。ホームルーム後、すぐに水篠が教室から姿を消したのでこっそりついていくと着いた場所は、校舎裏のベンチだった。
彼女は、何の迷いもなくベンチへ寝転びすやすやと寝てしまう。
このベンチは、水篠専用って感じだなと思いながらも彼女の近くへ行ってみた。すると、水篠は、誰かが来たと思い、起き上がった。
「式宮くんでしたか……式宮くんで良かったです。他の人にこんな寝ているところを見られてしまったら私は明日学校へ来れないところでした」
寝られているところを見られただけで登校拒否。なら、寝ない方が良いのでは?
てか、俺なら見られてもいいんだ。まぁ、一度見られたからいいだろう的な考えだろうけど。
「そこで寝てたらまた体調崩すぞ」
「わ、わかっていますけど……いえ、何でもないです。心配してくださりありがとうございます。もしかして丹波さんが呼んでいましたか?」
どうやら水篠は、俺がここに来た理由が丹波さんからまた探しに言ってほしいと言われて来たのかと思ったようだ。
「いや、俺が何となく来ただけだ」
「何となく……。あっ、これ、一緒に食べませんか? 昨日買ってみたんです」
そう言って彼女は、袋から苺のポッキーを取り出し、俺が座れるよう横に寄った。
寝たり、食べたりとこの場所は、水篠の秘密基地なのだろうか。
「じゃあ、1つもらおうかな」
隣に座り、そう言うと彼女は俺の方へ寄ってきた。触れそうで触れない距離にドキドキしながらも俺は彼女から1本ではなく1パックポッキーが入った袋をもらった。
「ここで寝ること以外もするんだな」
「はい。お菓子タイムです」
「友達とした方が楽しいんじゃないか?」
「1人の時間も好きなので。ここにいるときは1人がいいんです。式宮くんは、特別なのでいても構いませんよ。好きな時に来てください」
なぜ特別なのかわからないし、また次も来ていいと許可をもらってしまった。ここに最初に来た時とは逆だ。
けど、なんかわかるなぁ……1人でいるこの時間もいいなと思える。
ポッキーを食べ終えた後は、水篠と会話はせず自然の音を聞いていると眠くなってきた。
(ヤバい……眠気が……)
睡魔が襲ってきて俺は、水篠の方へと体が傾いてしまった。
「ご、ごめん……眠たくて」
「大丈夫ですよ。良ければ膝枕しましょうか?」
水篠は、トントンと自分の膝を叩き、寝転んでもいいと言うが、スカートの長さからして膝枕はダメだと思った。
「え、遠慮しておこうかな……」
「そうですか。では、肩にもたれ掛かってきてもいいですよ」
彼女がそう言った時にはだんだんと意識が遠退いてきて、俺はポスッと彼女の肩にもたれ掛かっていた。
「いいとは言いましたが、急だと驚きます……」
***
「や、ヤバっ寝てた……水篠、今何時──って寝てるし」
隣をバッと見ると水篠は、俺の肩にもたれ掛かりすやすやと寝ていた。
私は寝ないから肩にもたれ掛かかってきてもいいという意味で俺にああ言ったのかと思っていたが、彼女まで寝てしまっている。
「無防備過ぎやしないか……?」
すうすうと寝息を立てている彼女を見てそう呟くと彼女はずりずりとだんだん体が下に落ちていき、俺の膝にポスッと乗った。
「んんっ!?」
(ど、ど、どうしたらいいんだ!?)
由香と付き合っていた時にこんなことが起きたことはないのでどうしたらいいかわからない。
(そう言えば俺が水篠の肩にもたれ掛かっていたはずなのにいつの間にか逆になってる……寝てる間に何かあったのか?)
取り敢えずこのままでいるのがいいよな。けど、そろそろ帰らないと暗くなるし。
気持ち良さそうに寝ている水篠には悪いが俺は彼女の肩をトントンと優しく叩いてみた。
「水篠、外も暗くなってきたしそろそろ帰ろう」
俺は水篠の保護者かと突っ込みたくなったが、彼女が起きないと俺も帰れない。
「んん……式宮くんの声がする気がします」
「気がするじゃなくて俺、ここにいるんだけど」
「!!」
彼女は目を開けて俺の膝で寝ていることに気付き飛び起きた。
「す、すみません!」
「いや、謝らなくても。取り敢えず、教室戻るか。ポッキーの袋、忘れるなよ?」
俺がベンチから立ち上がるのと同時に水篠も慌てて立ち上がって俺に付いてこようとしていたが、袋がベンチの上に乗っていた。
「あっ、忘れてましたっ……」
ベンチにある袋を手に取り、彼女は、俺の隣に並び、教室まで戻る。
「明日は、何にしましょうか」
「何とは? もしかして明日もまた放課後にあそこでお菓子タイムとやらをするつもりなのか?」
「もちろんです。式宮くんも是非、来てください。話相手がいるというのも悪くないと思いましたので」
ここ数日間。彼女と話していてわかったことがある。それは、彼女が人と話すことがあまり好きではないことだ。
1人になりたいからあの場所にいて、何か理由があって皆の前では、善で溢れたような振る舞いをする。
「話すの苦手なのか?」
彼女にそう尋ねると水篠は、持っている袋をぎゅっと握った。
「に、苦手ではないですよ。話すのは好きですし……。言い方が悪かったですね。あの場に1人でいることがいいと思っていましたが、誰かがいるのもいいと思っただけです」
「そ、そうか……」
何か様子がおかしい。彼女に聞いてはいけないことを俺は聞いてしまったのだろうか。
「明日も来てくれますか?」
「そうだな……水篠がいいなら行こうかな」
水篠といる時間はとても安心感があり、心地よかった。今日みたいにまた2人で話せるなら明日も行きたい。
「もちろん、いいですよ。明日のことなのにもう待ち遠しいです」
「お菓子を食べることか?」
「違いますよ。私は、食いしん坊ではありません」
教室へ入り、カバンを持って俺の席へ来た彼女は、嬉しそうに笑った。
「私が待ち遠しのは、式宮くんと放課後、一緒にいられることがです」
その時、外から涼しい風が吹いた。彼女の綺麗な髪が揺れる。
俺は彼女の笑顔に見とれてしまい、しばらく目が離せないでいた。
「返事は求めてません。聞き流してもらって結構です。ですが、伝えておきます」
水篠は、真っ直ぐと俺のことを見てきた。
「式宮くん。私は、中学の頃からあなたのことが気になっていました」
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