第4話 手作りクッキー

 翌日。病み上がりで学校に来るのがしんどかったか、それともまた熱が上がったのかはわからないが、水篠は、学校を休んでいた。


 教室に入って友人が来るまで1人でいると丹波さんが話しかけてきた。


「式宮くん、おはよっ!」


「お、おはよう……丹波さん」


 話しかけられるなんて思っていなかったので少し驚いた。


「あまねん、休みだから今日の放課後のカフェは中止だね」


 彼女は前の人の椅子を借りて座り、俺の方へ体を向けた。


「そうだな……水篠、楽しみにしていたみたいだし、また日を改めて」


 おかしなことを言ったつもりはないが、丹波さんはなぜか俺のことをじっーと見てくる。


「何かついてる?」


「ううん。あまねんが口にして言ったわけじゃないのによく見てるなぁーと」


「っ……よ、よく見てなくてもわかることだよ」


「そうかなぁ~。そう言えばあまねんのこと、呼び捨てだけど、元々知り合い?」


 自分のことはさん付けなのになぜ水篠は呼び捨てなのかと思った丹波さんは俺に聞いてきた。


「知り合いというか中学が一緒」


「あ~なるほどね。それで……」


 丹波さんは、俺の言葉を聞いて1人で何かに納得しているようだった。何に納得したか気になる。


 丹波さんと話していると後ろから誰かに肩を掴まれた。


「蒼空、おはよ。何で陽菜もいるの?」


 後ろを振り返るとそこには高校で初めてできた友達である朝日玲央あさひれおがいた。


「いたらダメなのかね、玲央くんや。式宮くんとはあまねんのこと話してたの」


「別にダメとは言ってない。ただめずらしい組み合わせだと思って」


 下の名前で呼びあってるけど2人は、仲がいいのだろうか。けど、何かピリついている気も……。


「玲央、丹波さんはどういう関係?」


 俺が玲央にそう尋ねると、ニヤニヤしていた。すると、丹波さんは、誤解を生みそうな笑いをするなと突っ込んでいた。


「中学が一緒なだけで一応言っておくけど付き合ってないからな?」


「わ、わかった」


 なるほど、中学が一緒なのか。俺と水篠と同じだ。


「で、2人は水篠さんの話をしてたんだっけ? それまた何で?」


「明日、カフェ行こうって話をしてたの。そうだ、玲央も来る? 式宮くんが男子1人だと寂しいってさ」


 別に寂しいとは言っていないが、男子1人だと落ち着かないことは予測できる。


 それに水篠も丹波さんもまだそこまで話せる仲じゃないから玲央がいてくれると嬉しい。


「明日は、放課後何もないしいいよ。水篠さんと話してみたいし」


「あれ~もしかして玲央は、あまねん狙いなのかなぁ~?」


 玲央は、そんなつもりで言ったわけではないが、丹波さんには狙っているように聞こえたらしい。


「狙ってない。ただ純粋に興味があるだけだ。それを言うと蒼空の方が狙ってるだろ。昨日、ずっと水篠さんのこと見てたし」


「はっ、はぁ? 見てないし」


「「プライドが高い男子の反応みたい」」


 2人から同じタイミング、同じことを言われて俺は少し恥ずかしくなる。


 水篠のことを見ていたのは間違いない。昨日のことがあったから少し気になっていて見ていただけだ。


「まぁ、蒼空には蓮見さんという彼女がいるみたいだし……」

「えっ、式宮くん、彼女いるの!?」


 2人が盛り上がっているところ言いにくいのだが、友達には言っておこうと思い、由香とのことを伝えることにした。


「由香とは別れたよ」


「えっ、いつ?」


「2日前に由香から別れようって」


「そ、そうなのか……よし! 明日は、カフェでパッーとやろう」


 こういう時ってどういう言葉をかけたらいいか俺でも困る。けど、俺はこうして玲央が何か楽しいと思うことを提案してくれるだけで嬉しかった。


「うん、やろう! 明日、カフェ行くこと、あまねんには私から連絡しておくね」


「うん、よろしく」






***







 翌日。学校へ登校し、教室に入ると水篠の姿があった。丹波さんと玲央はまだ来ていないようだ。


 話せない仲じゃないし、挨拶ぐらいはしても大丈夫だよな。


「おはよう、水篠。もう体調は、良くなったか?」


「しっ、式宮くん! お、おはようございます」


 彼女は、顔を上げて俺の顔を見た瞬間、慌てて何かをカバンの中に隠した。


「式宮くんのお陰で体調は、もう大丈夫です。看病、ありがとうございます」


 そう言った彼女は、俺に向かってニコッと微笑んだ。


 彼女の笑顔を見ていると今日1日頑張れそうと思ってしまう。何て天使の笑みなんだ。


「それなら良かった。丹波さんから聞いたと思うけど、今日の放課後はカフェ行くからいつもみたいにあそこで寝たら置いていくから」


「そ、そんな! 起こしに来てください。式宮くんしか起こしに来る人がいないんですから」


 起こしに来てくださいって今日もあの場所で寝るつもりだったのだろうか。


 あの場所で寝るより家に帰ってふかふかのベッド寝た方がいいんじゃないか?


「放課後になったらすぐに俺が水篠のところへ行くよ。そしたらあの場所に行くことが止められる」


「至福の時間を取るつもりですね」


「いや、そういうつもりはないが、寝るのとカフェに行くのどっちがいいんだよ」


「カフェに決まってます」


「なら、寝るの禁止で」


 そう言うとこのやり取りが面白かったのか彼女は、クスッと笑った。


 由香以外の女子とこうして話すことはあまりなかった。水篠と話しているといつの間にか楽しいと思っていた。


「あっ、式宮くん……。看病してくれたお礼にクッキー作ってきました」


 そう言って水篠から渡されたのは、可愛らしいピンクの袋にラッピングされたクッキーだった。


 さっき、咄嗟に隠したのはもしかしてこれだろうか。


 作ってきたということは、もしかして水篠の手作りってことか?


「あ、ありがとう……凄い嬉しい」


 女子から手作りのものとかもらったことがなかったので純粋に嬉しくつい声に出した。


「喜んでもらえて良かったです。心配しなくても料理は得意なのでお味の方は大丈夫ですよ」


「心配はしてないけど、本当にありがと。昼休みに食べるわ」


「はい。感想待ってますね」


「うん、食べたら伝えるよ」


「や、約束ですからね?」


 彼女はそう言って小指を出してきたので俺は、頷いて彼女の小指に絡めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る