第3話 看病

「「あっ……」」


 俺は1人で帰り、水篠は丹波さんと下校。同じタイミングで教室を出たからこうしてどこかで会う確率は低くはない。


「なんか顔赤くないか?」


 よく見てみると彼女の顔が少し赤く、しんどそうだった。


「そ、そうですか?」


 彼女はそう言うが、心配なので額に手を当てた。


「ひゃっ! し、式宮くん!?」


 彼女は、驚いて俺から離れようとするがふらっとして俺の方へ倒れてくる。


「熱あるだろこれ。大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですよ……式宮くんが何人もいるように見えますが……」


「それは、大丈夫じゃないやつだ……。乗っていいから家まで送るよ」


 さすがにこの状態の水篠を放ってはおけない。


 このまま見捨てたら水篠がどこかでたおれてしまうかもしれない。取り敢えず、今はちゃんとしたところに彼女を寝かせてあげたい。


「あ、ありがとうございます」


 小さい声だったが彼女の声が聞こえ、俺は彼女を背中に乗せて彼女が教えてくれた住所まで向かう。


 電車通学じゃなくて良かった。意外とここから近いし、迷わず辿り着ける。


 どうやら彼女は一人暮らしをしているようで家には誰もいないようだ。


 エレベーターに乗り、水篠の家の前まで到着すると、彼女から借りた鍵を使って中に入り、閉めてから靴を脱ぎ、彼女の靴も脱がせた。


「寝室は、どこだ?」


「……入ってすぐ右の部屋です」


「わかった」


 階段で危ないが、体力には自信があるので2階まで水篠を背負って上ると突き当たりに部屋があった。


 失礼しますと言って中に入るとそこにはベッドがあった。


「あ、危なっ」


 中に入ろうとすると暗くてよく見えないが、下には本が散乱していて、電気を付けるとこの部屋がどれだけ散らかっているかがわかった。


(散らかりが凄い……)


 さまざまな障害物を避けてやっと彼女をベッドまで運ぶことができた。


「ふぅ~。水篠、ちょっと買い物行ってくるから待っていてくれ」


 何か熱が出たときに必要な物を買ってこようと思い、部屋を出ようとすると水篠に腕を掴まれた。


「ま、待ってください……1人にしないでほしいです」


「!!」


 ドキッとしている場合ではないのに彼女が顔を赤くして言うものなので側にいないといけない気がした。


「けど、熱さまシートとか買った方が……」

「リビングに棚があります。そこにあるので持ってきてください」


 そう言った彼女は俺の腕からするっと手を離した。


「わ、わかった」


 急いでこの部屋から出てリビングにある棚から熱さまシートを取り出し、次いでに一緒に置いてあった体温計も持って、さっきの部屋へと戻ってきた。


 熱を計り、その後熱さまシートを貼った。さっきまで少し苦しそうだった水篠は、今はすやすやと眠っている。


 誰かの看病なんてしたことないから戸惑ってしまったが何とかなった。


 1人にしても大丈夫そうだが、さっき水篠に行かないでほしいと言われたので帰りにくい。熱とかある時に寂しいのは俺もよくわかるから。






***






「んん……」


 目が覚めて起き上がると横に本を読んでいる式宮くんがいた。もしかしてずっといてくれたのだろうか。


 体はダルくなく、熱っぽさもない。少しマシになったのだろうか。


「あっ、起きた?」


 式宮くんは、私が起きたことに気付き、本から顔を上げた。


(目の前に式宮くんがいる……熱のせいか、これが現実かわからなくなりそうです……)


「はい……看病してくれてありがとうございます。おかげで少し楽になりました」


「そっか、良かったよ。お粥作ったけど食べれそうか? 果物とかもあるけど」


「で、では、お粥を……もらいます」


 食欲はあったのでお粥をお願いすると彼は、わかったと言ってキッチンを借りると私に確認してからお粥を作りに行った。


 ここ最近、いろんなことを頑張りすぎてまともに寝れてなかったから体調を崩したのかもしれない。一人暮らしなので、体調管理は、しっかりしなれば……。


 少し熱っぽさがなくなったといえ、まだ少し体がダルく、寝て待っていると式宮くんがお粥を作って戻ってきた。


「お待たせ。自分で食べられそうか?」


「……む、無理かもしれません」


 こういうときに意地を張って食べられると言ってしまうより甘えた方がいいと思い、私は式宮くんにそう言った。


「じゃあ……はい」


「あっ……」


 式宮くんが私の方へお粥を乗ったスプーンを差し出すとあることに気付いた。


 食べれないといったら当然食べさせてもらう流れになることはわかっていたはずだ。


 それを忘れていた私は、式宮くんにあ~んしてもらうのが恥ずかしくて食べようにも動きが止まってしまう。


「や、やっぱり、自分で食べます」


「そ、そうか……熱いから気を付けてな」


「は、はい……」


 彼からお粥を受け取り、熱いのに気を付けながらゆっくりと食べる。


「美味しいです……。式宮くんは、どうしてここまでしてくれるんですか? 私なんか放っておいて帰っても良かったのに」


 学校では気にかけてくれる人が多いが、家ではあまり家族にここまでされたことはない。


 親なのだからもう少し子供の心配をしてほしいものだが、私の家は違う。


「何でって言われても倒れて放っておけるわけないだろ」

 

「優しいですね、式宮くんは。あれ……部屋が綺麗になっている気がします」


「足の踏み場もなかったから片付けておいたよ。もしかして片付け苦手だったりする?」


 何でもできる水篠だと勝手に思っていたが、どうやら違うらしく、水篠にも苦手なことがあることが知れて少し嬉しくなる。


「に、苦手ではないです。今日は、偶然散乱していただけです」


 さっと目をそらされ、彼女の声は最後になるにつれてだんだんと小さくなっていった。


「水篠が食べ食べ終えたら帰るけどもう1人でも大丈夫そうか?」


「はい、お陰様でもう大丈夫そうです」


「わかった。明日、一緒にカフェ行くためにも今日は安静にな」


「はい、大人しく安静にしています。式宮くんと放課後カフェに行くためにも」


 彼女は、小さく笑い、そう言ってお粥を食べた。


 




         

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