第15話 眠り姫と夜の電話

 雨音と連絡先を交換したその夜。寝ようとしていたその時、彼女から電話がかかってきた。


 スマホに雨音と表示され、俺はドキドキしながら電話を取ることにした。


「も、もしもし……」


 緊張しているので落ち着いた体勢で電話しようと思い、ベッドに腰かけた。


『あっ、蒼空くん、こんばんは。2人っきりで話したくて電話しました』


「お、おう……そうか」


 理由が可愛すぎる。2人っきりで話したいなんて言われて嬉しくないわけがない。


『何してたんですか?』


「ん? 俺は勉強してたよ」


 さっきまでうとうとしていていたが、雨音から電話がかかってきてからドキドキと緊張のせいか目が覚めた。


 何をしていたのかと聞かれたら俺も雨音が何をしていたのか気になる。


「雨音は、何をしてたんだ?」


 雨音のことだから寝ていたとか、勉強してたとか言いそうだな……。


 と、考えていると電話越しからクスッと彼女の笑い声が聞こえた。


『私は、蒼空くんのことを考えていました』


(お、俺のことを……?)


 俺が彼女の言ったことを信じ始めたその時、雨音が、また小さく笑った。


『ふふっ、冗談です。何してるかなと気になったのは本当ですけど』


「じょ、冗談が心臓に悪すぎる……」


『ごめんなさい。困らせちゃいました』


 冗談にしても俺のことを考えていたことには変わらない。


『蒼空くん、顔を見て話したいのでビデオ通話に切り替えることはできます?』


「うん、いいよ」


 ビデオ通話に切り替えるとパッと雨音の姿がスマホの画面に映った。


(んんんっっっ!!??)


 画面を見た瞬間どんな体勢で電話してるんだよと突っ込みたくなった。彼女は、仰向けになってベッドらしきところに寝転んでおり、服装は可愛らしい寝間着を着ていた。


 クラスメイトの皆さん、すみません。俺なんかが雨音様のこんな姿を独占してしまい……。


『あっ、蒼空くん、眼鏡かけてるんですね。カッコいいです』


 日中は、コンタクトをしているが、夜は眼鏡をかけている。それに気付いた雨音は、キラキラした目で俺のことを見ていた。


「あ、ありがと……。ところでその画面の下に映ってるのは何?」


 雨音は何かを抱き抱えているらしく、ぬいぐるみらしきものが映っていた。


『これですか? これは、サメです』


「さ、サメ……好きなの?」


『いえ、好きではないのですが可愛かったので』


「へぇ~。まぁ、確かに可愛いな」


『じぇらっ……。そ、蒼空くん、私とこのサメさんはどちらが可愛いですか?』


「えっ?」


 画面に映る雨音は頬をぷく~と含ませながらサメが見えるようにぎゅっと抱きしめた。


 もしかしてサメに可愛いって言ったから嫉妬しているとか……。いやいや、まさかな。


『どっちです?』


「雨音の方が可愛いよ」


『…………』


「雨音?」


『さ、さらっと怖いです……』


(ん? 怖い?)


 何がと思いつつも話は変わり、俺と玲央と別れた後、陽菜と何をしていたのかを話してくれた。


『家にあったのですが、陽菜さんが買っていたので私も買い換えようかと思いまして。前のはサイズが合わないという理由もありますが……』


 サイズという言葉を聞いて俺は、目線が自然と彼女の胸の方にいってしまった。


(いや、変態だろ!)


 すぐに目をそらし、首を横に振って、見たものを忘れようとした。


『蒼空くん、どうかされました?』


「えっ、いやっ、何でもないよ!」


 思いっきり動揺してしまい、隠そうとしたが、彼女に不思議な目で見られてしまった。


『そう言えば、今日、帰りに蓮見さんに会いました』


「えっ、由香に?」


『はい。その時、蒼空は一緒にいないのかと聞かれたのですが、蓮見さんは、蒼空くんに会いたかったのでしょうか?』


 由香が……俺は、話すこともないから会いたいとも思わないけど。由香は、会って話したいことでもあるのだろうか。


「この前は一緒いたからそう聞いただけじゃないかな」


『そう……ですかね。私の気のせいかもしれませんが、蓮見さんは、まだ蒼空くんのことが好きなんじゃないですか?』


「由香が俺のことを? いやいや、それはないよ。由香は、俺のことを好きじゃないって振ったんだから」


『ご、ごめんなさい……蒼空くんが悲しむような話をするつもりではなかったのに』


「雨音が謝ることはないよ。あっ、そう言えば雨音って猫好きだよな?」


『は、はい』


 急に話を変えたので驚いていたが、彼女はコクコクと頷いた。


「この猫、飼ってる猫なんだけど……」


 偶然部屋に入り込んできたミューを抱き抱え、雨音に見せると彼女は、「可愛いです!」とキラキラした目で見ていた。


 この前、猫の置物を買っていたし、好きだろうと思っていたが、間違ってなかった。


『なっ、なんていう名前ですか?』


 テンションが上がった雨音は、猫の名前が知りたいらしく俺に聞いてきた。


「ミューだよ」


『ミューちゃん! むむむっ、見ているだけで直接もふれないのが残念です』


 もふる? 触るってことかな?


「じゃあ、今度家に来たらいいよ。そしたらミューをもふれるよ」


『い、家に……』


 あっ……さらっと女子を家に誘ったせいで雨音が困らせてしまった。


『い、家にお邪魔してもいいのですか?』


「えっ、まぁ、うん……ミューも喜ぶと思うし」


『ふふっ、わかりました。予定を合わせて蒼空くんの家に行きますね』


「う、うん」


 彼女と電話し始めてから気付けば1時間が経っていた。俺も雨音も眠気が襲ってきたのか眠そうな表情をする。


 12時回りそうだし、俺ももう限界だ。


 雨音は、うとうとし始めていて最初とは格好が違い、横向きに寝ていた。


「眠そうだな。そろそろ寝ようか」


『そう……ですね。おやすみなさい蒼空くん』


「あぁ、おやすみ雨音」


 その日の夜はぐっすりと眠れた。話しすぎて疲れたというのもあるだろうが、今日は楽しい夏休みの1日になった。









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