第16話 脱がせるみたいな展開になるとは予想していなかった

 プール当日。駅前で集合し、電車で移動し、歩いて数分のところにプール施設はあった。


 着くなり、男女別れて水着に着替え、後で合流しようということになった。


 着替え終えてロッカーに荷物を入れていると隣で着替えている玲央に話しかけられた。


「蒼空、気付いたか?」


「何が?」


 何に気付いたのかわからないので聞き返すと玲央はニヤニヤしながら話し始める。


「水篠さん、蒼空に会った瞬間、めちゃくちゃ嬉しそうだったよ」


「うん、知ってる。雨音、表情に出やすいし。喜ぶときは特に」


「それを蒼空に言われてもねぇ……」


 玲央に苦笑いされ、君も表情に出やすいだろと言われたような気がした。


 ポーカーフェイスは苦手だ。トランプとかババを引いたらすぐにバレるし。個人的には頑張ってバレないようにしているつもりなんだけどな。

 

「じゃ、先行っとくな」


 話している間、待っていたが、玲央はまだ着替え終えていなかったので必要なものだけを持って更衣室を出ようとする。


「はやっ! 待ってくれよ、そらりん」


「玲央があだ名で呼んだらキモいからやめてくれ。ゆっくり着替えたらいいよ」


 あのまま玲央を待ち続けていたら女子を待たせることになる。


 玲央の奴、話し始めたら他のことご止まってしまうから、置いていくのが正解だ。置いていくといっても更衣室を出ていくだけだが。


 更衣室を出て辺りを見渡すと1人で立っている雨音を見つけた。


 上にラッシュガードを着ているが、いつも黒タイツを履いていて肌は隠れているが、今日は隠れていなかった。


 雨音の周りにいる男がチラチラと見ているのに気付き、俺は急いで彼女の元へ行く。


(雨音は、見物人じゃないんだけどな……)


「雨音、お待たせ。陽菜は?」


「蒼空くん! 陽菜さんなら飲み物を買いに行きましたよ」


 俺が来るなり、彼女は、パァーと表情が明るくなった。


 陽菜に後で言っておこう。雨音は1人にしてはダメだ。1人にしたら変な奴に声をかけられるに決まっている。


「そっか。雨音、今日はなるべく離れるなよ」


「……は、離れるなって、それは、こういうことですか?」


 そう言って彼女は、俺の腕をぎゅっと抱きしめてきた。


 胸が俺の腕にふにっと柔らかいものが当たり、俺は離れようとするが、雨音がうるっとした目で見てくるので離れようにも離れられない。


「えっーと、1人だと危ないから誰かといるっていう意味で別に俺じゃなくてもいいんだけど……」


「えっ、あっ、そうなんですか? す、すみません」


 どうやら自分がやっていることはわかっていたらしく顔を真っ赤にして彼女は俺の腕から手を離した。


「それよりなぜ私が1人だと危ないのですか?」


「1人にしたら危ない人に声かけられそうだから」


「先ほどから視線を感じていましたが、そういう……」


 雨音も男性陣からの視線には気付いていないわけではなかったらしい。


 自分がそういう目線で見られるのは学校でもよくあり、今日は水着を着ているからより注目されることも理解しているようだ。


「そう言えばこれじゃ隠れて見えませんね。蒼空くんが度肝抜くような水着なので覚悟してくださいね」


 そう言えば雨音に水着を見せると言われていたことを思い出した。


 ラッシュガードは、日除け対策というより肌を隠すために着ていたらしく彼女は、俺に見せるため脱ごうとしていた。


(や、ヤバい……なんかドキドキしてきた)

 

 脱ぐところを見たらいけない気がして俺が違うところを見ようとしたその時、彼女が困ったような顔をした。


「ど、どうしましょう……チャックが下りません」


「えっ、なんか引っ掛かってるんじゃないか?」


「……蒼空くん、助けてください」


 本当に困っているらしく俺が彼女のチャックを下ろすことになった。


(こういう展開は予想してなかった……)


 脱ぐところを見るより彼女のラッシュガードを脱がせる方がよっぽど、難易度高し、ドキドキする。


「ゆっくりと下ろしていけば大丈夫だ」


「は、はい……」


 こんなところを玲央と陽菜に見られたら何かと誤解されそうなので素早く終わらせよう。チャックを一番下まで下ろし、手を離そうとしたその時、後ろから声がした。


「何やってんの?」

「あら、あらあらあら、どういうプレイ?」


「!! こ、これは、雨音に言われて……」


 後ろを振り返るとそこには陽菜と玲央がいたので慌てて彼女のラッシュガードから手を離した。


「あまねんがぬ・が・し・て? とか言ったの? やるじゃん!」


 陽菜が、雨音にそう言うと彼女は顔を真っ赤にして首を横に振った。


「い、言ってませんよ! 中々脱げないので手伝ってもらっただけです」


「へへぇーなるほど。それも凄いことだと思うけど。で、今からあまねんの水着お披露目会やるの?」


「やりません!」


 彼女はチャックは閉めずに手でバッと水着を隠した。


 2人のやり取りを聞いていると玲央が俺の肩に手を置いてきた。


「蒼空、やるな」


「何がやるなだよ。雨音の言った通りで変な意味でやっていたことじゃない」


「ん、そういうことにしておく」


 しておくって、本当なんだけどなぁ……。


「さてさて、みんな揃ったしスライダー行く? それとも水中バレーする?」


(切り替えの早さよ……)


「私、あのスライダーに乗ってみたいです!」


「おぉ、あれな。俺も気になってた」


 雨音が指差して乗りたいと言ったスライダーに玲央も乗りたそうにしていたので最初はそのスライダーに乗ることになった。


「2人乗りできるみたいだからグッパして別れよっか」


 陽菜の提案でグーとパーで別れた結果、俺は雨音と。玲央と陽菜になった。


 スライダーの列に並んで陽菜と玲央が楽しそうに話している2人の後ろで並んでいると隣にいる雨音がツンツンと俺の腕をつついてきた。


 彼女の方を向くと、雨音は少し背伸びをし、俺の耳元で囁いてきた。


「蒼空くん、水着ですが、後で2人っきりになった時に見せますね」


「う、うん……」


 言った本人が照れていたので俺まで顔が赤くなったような気がするのだった。








        

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