第33話 約束を果たすための約束
やっぱり蒼空のことが好き。けど、蒼空は、水篠さんのことが好きなはず。だから私がもう彼を振り向かせることは絶対にできない。
一度振った相手のことなんか好きになってくれるはずがないよ。
学校の帰り道を1人、歩いていると前から蒼空の幼なじみである
あの時、私に耳元で『蒼空、私のことが好きなんだって。内緒にしてって言われてたけど可愛そうだから言っとくね』と嘘を付いてきた人だ。
今は別の高校なので中学以来一度も見かけてない。というか、彼女とは会いたくなかった。
「あっ、蓮見さん。蒼空は? もしかして別れたの?」
そう尋ねる寺川さんは、とても楽しそうだった。
「…………私が振って別れたわ」
「へぇ~、私が蓮見さんを嫉妬させちゃって喧嘩したのが原因?」
「違うわよ。それより、前から聞きたかったんだけど。寺川さん、中学の頃、蒼空のこと好きでもなかったでしょ?」
ずっと確かめたかったこと。寺川さんは、私と蒼空を別れさせるためにわざと私に嫉妬させて、変に誤解を与えさせるために蒼空にくっついたりしていた。
それをあの時は知らなかった。ここ最近、友人の園葉に聞いて初めて知った。
「うん、好きじゃないよ。蓮見さんのことずっとウザいって思ってたから幸せを1つでも奪おうと思ったの。それが蒼空と別れさせること」
寺川さんは、それが見事成功して嬉しいんだ。ウザいって私は一体、彼女に何をしたと言うのだろうか。
「私、寺川さんに何かした覚えないんだけど?」
「うん、確かに直接は何もしてないね。私は、中心人物でいる蓮見さんが嫌いだったの。だからだよ」
「意味わかんない……」
そう呟くと寺川さんは、小さく小悪魔のように笑った。
「わからなくていいの。でも、ほんとに別れたんだ。嫉妬して嫌になって別れたってところかな? それならごめんね?」
ごめんねという言葉があまりにも薄っぺらく聞こえて怒りそうになる。
けど、嫉妬に悩むのがもう嫌で別れることを決めたのは私自身だ。だから彼女には何も言えない。
寺川さんが言った後、暫く私は、1人で公園のベンチに座って何も考えずにいた。
「何してんの?」
「……蒼空」
何でこういう時に彼は私を見つけるんだろう。悩んでたらいつもすぐ来てくれる。
「話ぐらいは聞く。悩んでることあるんだろ?」
蒼空はそう言って私の隣に座った。こうしてこのベンチで座ったのはいつ振りだろうか。
付き合っていた頃は、よくここで話してから解散してたっけ。
「じゃあ、聞いてもらおうかな……」
「おう、何時間でも聞く」
そう言うところが、ズルい。好きになってしまうところだ。
「実はね、私、蒼空に嫉妬しててその辛い気持ちから逃げたくて蒼空と別れようって思ったの」
あの場で嫌いと言ったけど、それは嫌いと思い続けていたらいつか本当に嫌いになって蒼空のことを忘れることができると思ったから。
けど、それは無理だった。好きだったから。
「じゃあ、嫌いって言うのは……」
「嫌いになって蒼空のこと忘れたかった。そしたら辛い気持ちから解放されるかなって……」
実際、蒼空と別れてから気持ちが軽くなった。だって、悩むことがなくなったから。
「けど、嫌いになれなかった。久しぶりに話した時、嬉しかった……それと同時に何で別れようなんて言ったんだろうって思って……」
あぁ、なに言ってるんだろう……。蒼空、何言ってるんだって疑問に思ってるんだろうなぁ。
「ごめん。振った女がこんなこと言ってもどうでもいいよね」
「ううん、どうでもよくなんかないよ。話してくれてありがとう。嫌われてなくて良かった。俺こそごめん。由香のこと不安にさせてるとか彼氏失格だったな」
「私達、言葉足らずだったね……」
「だな」
暫く沈黙になり、辺りがシーンと静まり返る。すると、蒼空が口を開いた。
「この公園、よく来たよな」
「う、うん……」
急に懐かしさに浸り出したので驚いた。あの話から昔話でもするのだろうか。
「お互い付き合うの初めてでさ、最初の頃、いろいろぎこちなかったの今でも覚えてるわ」
蒼空は懐かしく思い、笑う。すると、つられて私も笑ってしまう。
「蒼空、手繋ぐ度にガチガチっだったしね。肩の力抜いてって何回言っても変わらなかったし」
「うっ、うっさい! 由香の方こそ手繋いでるとき、声が上ずってたぞ」
「いや、それは蒼空もじゃん!」
こうやって言い合うの久しぶりだな。最近はどこかよそよそしくて話していても何かが違っていたから。
「約束してた展望台からの夜景を見るの結局行ってないね」
「そうだな……」
もうあの約束からかなり経っているのに蒼空は覚えていてくれていた。それだけでもう嬉しかった。
「ねぇ、来週にでも行こうよ。彼女いるなら別だけど」
「彼女はいないよ、気になる人がいるだけで」
「水篠さんだね。可愛いもん、そりゃ蒼空が気になるはずだ。私も可愛いくて男だったら絶対惚れてる」
相手が水篠さんだから無理って思ってた。けど、蒼空と話しているとだからなんだって思えてきた。
無理でも振った私だけど、またやり直したい気持ちがあるなら諦めることなんてない。
「付き合ってる人いないなら一緒に行こうよ。水篠さんの許可が必要なら今から取るけど?」
そう言って、私は、水篠さんとのメッセージのやり取りを見せる。
「いつの間に交換してたんだよ」
「この前、遊びに行った時にね」
「仲いいんだ」
「うん、仲良くなった」
「へぇ~って、何してるんだ?」
どうやら私が、スマホで水篠さんにメッセージを送っていたのが気になるらしい。
「水篠さんに蒼空かりていいかって聞いたの。あっ、いいよだって! 後は、蒼空がどうしたいかだけど、どうする?」
「何で雨音に聞くんだよ……」
「一応……ね?」
断られるだろうな。私とお出かけなんてしたくないだろうし、水篠さんとの方が……。
「……行こうかな」
「えっ、いいの!?」
「久しぶりに行きたいし」
ダメだ、嬉しすぎて口元が緩んでしまう。
「じゃあ、決まりね。集合場所と時間はまたメールとかでやり取りして決めよ」
「わかった」
蒼空と恋人に戻れなくてもいい。だから、その1日だけは蒼空と2人で過ごしたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます