第4章 眠り姫と元カノ
第32話 由香と蒼空の過去
「寝て、しまいました……」
雨音は自分の太ももの上で寝る蒼空の寝てるところをじっと見て、髪を触る。
プリンを食べた後、一緒にテレビを見て話していると蒼空はうとうとし始めてしまった。
その時、雨音が冗談で「膝枕してあげます」と言うと蒼空はポスッと雨音の膝に頭を乗せて寝てしまった。
(モフモフしちゃいましたけど、寝ていますし怒られませんよね?)
雨音は髪を耳にかけてふふっと小さく笑い、また頭を優しく撫でる。
膝枕してこうして寝てしまうということは蒼空は雨音を信頼しているという証拠。
(蒼空くんにとって私はただの友達なんでしょうか?)
「私は、蒼空くんのことが、好きです」
(ふふっ、告白みたいなこと言っちゃいました)
中学の頃はただ気になるだけだったのにここ最近は気になるだけではない。
蒼空くんと私以外の女性と話しているとモヤモヤする。蒼空くんは私だけを見てほしい。私だけと……
(こ、これじゃあ、独占欲が強い相手みたいじゃないですか)
雨音は自分の頬を両手で触り、一旦落ち着こうと自分に言い聞かせる。
「蒼空くん、これからもよろしくお願いしますね」
***
10月中旬のある日の休日。由香は久しぶりに中学から仲がいい友達、
高校も同じところに通っているがクラスが違うのであまり会うことはないが、メールでは何回かやり取りをしていた。
「園葉、お待たせ」
「やっほ~はすみん。話ってもしかして蒼空っちのこと?」
「う、うん……。話す前に頼んでいい?」
「いいよ」
由香は、中学の頃よく来ていた店なのでどんなメニューがあるかはだいたい把握している。
いつも頼むのはショートケーキとミルクティーのセットだ。迷わずそれを頼み、来るまで待つ。
「さてさて、話し聞くよ」
「ありがとう、園葉。おかしいって思われるかも知れないけど蒼空と別れたけど、何か最近、気になるんだよね……」
それは水篠さんが蒼空の隣にいるのを見て気付いた気持ち。
付き合う前は蒼空の隣にいるのは私だったのに今は違う。
「気になるって、もしかしてまた好きになったとか?」
「う、うん……」
蒼空と水篠さんがいるところを見るほど、蒼空のことが気になってしまっている。
振った私がまた好きになったと知ったら蒼空はどう思うのだろうか。
何だよとか思われるかな……。けど、それは当然の反応だ。振っておいてまた付き合おうと言われても困るだけ。
「ちょっと話、脱線するけどさ。2人って別れる2ヶ月前ぐらいに喧嘩してたでしょ?」
「う、うん……そうだけど。私、園葉に言ったっけ?」
彼女には蒼空と喧嘩したことは言っていないはず。
「ううん、蒼空の相談乗ってあげてたから知ってる。最近、由香と喧嘩していて、どうしたら仲直りできるかって相談を受けてたよ」
「蒼空が……」
***
別れる2ヶ月前のある日。私は蒼空と一緒に帰ろうと思い、教室へ向かった。
今日はこの後、帰りにカフェに寄って一緒にパンケーキを食べる約束をしている。
昨日からずっと楽しみにしていた蒼空との放課後の時間。
早く蒼空に会いたい、そう思って教室を覗くと蒼空はクラスメイトの女子と楽しそうに話していた。
「へぇ~蒼空、そういうの好きなんだね」
「うん、付き合ってる彼女に教えてもらってさ面白いよ」
(蒼空、楽しそう……)
そこまで束縛するようなタイプでもなかったので私は少しモヤッとするだけで済んだ。
クラスメイトと仲良くするのはいいこと。けど、取られたりするのではないかという不安はあった。
「あっ、由香」
蒼空は私が来たことに気付き、「ちょっと待ってて」と言って帰る準備をする。
彼はすぐに気付いてくれる。視線を送ったから気付いてくれたかもしれないけど。一番に見つけてくれるのはいつも蒼空だ。
蒼空のところに行こうと教室へ入るとすれ違いにさっき彼と話していた女子が手招きし、私の耳元で囁いた。
「蒼空、私のことが好きなんだって。内緒にしてって言われてたけど可愛そうだから言っとくね」
その子はふふっと小さく笑い、教室を出ていく。
「由香、お待たせ。行こっか」
「…………」
「由香?」
「私よりあの子のこと好きならさっきの子と一緒に行ってきたら」
私はそう言って教室を出て走って家に帰った。
出ていく際、蒼空が何か言っていたが、怖くて聞けなかった。
帰ってきてから私はベッドに寝転び、蒼空に言ってしまったことを反省した。
本当かわからないことを信じて蒼空にあんなことを言ってしまった。早く謝らないと……。
翌日。朝はいつも一緒に登校しているので待ち合わせ場所にいるはずと思い、行ってみるが、蒼空は、いなかった。
学校へ1人で向かい、蒼空のクラスへ行くと彼は先に学校に着いていた。
「蒼空、おはよ。昨日はごめん……」
「いいよ。こっちこそごめん。由香が不安に思うようなことして。彼女、幼なじみなんだ」
蒼空がそう言って謝るとは思っておらず私は慌てて首を横に振った。
「そうなんだ。蒼空が謝ることないよ。私が勝手に……嫉妬しただけだから」
「嫉妬……えっ、なんか嬉しい」
「ちょっ、ニヤニヤしないでよ!」
謝れてよかった。あの子の言っていたことは嘘だろう。だって私は蒼空が好きで彼も私を好きでいてくれるから。
けど、嫉妬してモヤモヤする気持ちはこの日だけじゃなかった。
(またあの子といる……)
「ちょ、近い!」
「いいじゃん、蒼空!」
「ダメだ、彼女いるから離れろ。あっ、由香、これはその幼なじみが抱きついてきて」
「嫌い……もう、蒼空のことなんか嫌い!」
「由香!」
後ろから蒼空の声がする。けど、私は、走った。
(もう嫉妬なんて苦しい思いはしたくない)
だから私は蒼空を嫌いになろうとした。会いたくないぐらい嫌いになろう。そしたらこんな思いはしなくてもいい。
嫌いになって好きじゃないと言って別れた。すると、悩んでいたモヤモヤはなくなった。
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